領域                  由布木 秀  どこまでも、ひろがっている世界。  その領域は、自分のものなのか、それとも幻想なのだろうか。  一、青い画家  あるところに画家志望の青年がいて、海と空ばかし描いていた。 「なぜ、それしか描写しないのか」と聞かれると、「青は存在の色だから、いちばん美しい。それに青色は、大きいほど綺麗だ」と彼は答えた。  青年は、青い絵の具ばかりの絵を、毎日描いていた。そんな絵画を買う人はいなかったから貧乏だった。ただ、はやくに死んだ親の遺産があった。だから、自分がひとりで生活するくらいの金はもっていた。それに、お金のために絵を描きたいのではなかった。しかし、心の奥には、世の中に認められたいという気持ちがのこっていた。  青年は、肉親もなく天涯孤独だったが、ひとりだけ親しい友人がいて、なやみごとの相談に乗ってもらっていた。普通の会社員だったが、ときおり家をたずね、世間話をする間柄だった。友人は、青年がひとり切りで寂しいだろうと思って、後輩の綺麗で素敵な女性を紹介した。彼女が、青い絵ばかりつくる絵描きの話に興味をもったからだった。  青年は一目みて、髪がながい美しい女性に恋をした。彼女の素敵な眉も、綺麗な歯並びも、ほそい肢体も、すべてが好きになった。生涯、いっしょに暮らしたいと思った。そのためには、生活の基盤が必要だったから、彼は悩みはじめた。  友人は、恋人ができて楽しい日々をおくっているに違いないとばかし思った。ある日、家をたずねると、青年はぼんやりと窓から外をながめていた。表情がひどくしずんでみえたので、友人は不審に思い、「どうかしたのか」と聞いた。  青年は、なんともないと素気なく言葉をかえしたが、くりかえしてたずねると、「じつは、夜中によく汗をかく」と答えた。 「風邪でもひいているのかな。やけに顔が蒼白いけど」と友人は心配していった。 「ほんとうに青いか」と青年は聞いた。 「すこし、蒼白いよ」と友人は答えた。  青年は、ベッドから立ちあがり、手鏡をとって自分の顔をみて、「たしかに青いな」とひどく落胆して呟いた。 「どうしたのかい。身体のぐあいがわるいのは分かるが、ずいぶん元気がないね」 「ちかごろ、青い汗をかく」と青年はいった。  友人は、びっくりして、「いつからなんだ」とたずねた。 「一週間くらいまえからだ」 「どんな風に、なるのだい」  いぶかし気に聞くと、青年はきていたシャツのボタンをはずし、胸をはだけて、「ほら、この通りさ」といって瞳をじっとみた。  友人が目にしたのは、ごく普通の白い下着だった。彼は「はて」と思い、冗談だと理解し、気分をわるくし、「人を、からかうものじゃない」といった。  今度は青年が驚いて、「どういう意味だ」と聞いた。友人も相当気分をわるくして、 「だれがみたって、それは白い色だ。どんなに君が青を好きでも、白との違いくらいは、ぼくにも分かる」  青年は、ひどく驚いた顔になって、下着をぬぐと、手にとってながめた。神妙な表情で、「ほんとうに白色か」とたずねた。  友人は、「冗談ではないらしい」と気がつき、「白だ」といった。  青年は立ちあがると箪笥の引きだしをあけ、べつの肌着をもってきて、「これは、何色にみえるか」とたずねた。  友人がみたのは、洗濯して真っ白になった下着だった。そう答えると、青年は「ぼくには、これも青くみえる」といった。  もうすこし話を聞くと、下着はまったくの青色ではなくて、あわい青なのだそうだ。友人は、用事があったのでかえらなくてはならなかった。かえりぎわに「気のせいだよ。あまり心配しないほうがいい」といって別れた。しかし気になって、洗い立ての肌着を一枚もらってかえった。  友人は、家にかえって奥さんに下着をみせて、「これ何色だい」とたずねた。妻が不審な表情で、「白に決まっているじゃない」と答えたので安心した。心配だったが仕事が忙しく、明日いこうと思ううちに一週間がたった。  ある日、友人はあたらしい下着を買い、青年の家へ出向いた。彼は、先週よりもずっと憂うつな顔になっていた。 「どうしたの」とたずねると、気のない答えがかえってきた。 「やはり、思いすごしだよ」と友人がいうと、「ぼくもそう思う。でも現実に、青くみえる。洗濯しても落ちないし、だんだんひどくなっていく」  青年は、あらった下着を取りだし、「いまでは、これが真っ青にうつる」といった。  友人には、白にしか思えなかった。彼はわざと陽気にふるまい、「青は、美しいからいいじゃないか」といった。「今日は、あたらしい下着を買ってきてやったよ」と話して、新品の肌着を袋から取りだした。 「何色にみえる」と聞くよりまえに、「それは白だ」と青年はいった。  前回、彼がもちかえった下着を、「これはあわい青」とつげた。 「青い汗なんて、信じられない」と友人がいった。  青年は、真剣な表情になった。 「ほんとうのことをいっても、君は信じてくれるか」と聞いた。  友人は、「もちろんだ」と答えて、大きくうなずいた。 「じつは、青いニンフがいる。君がすぐに信じられないのは、よく分かるけれど、妖精は青の領域の住人なのだ。もともとは仲がよかったのだけれど、ちかごろぼくの身体に青い絵の具をぬる。いくらやめてくれといっても、聞かない。何度、話しても、寝ているときに青い絵の具を身体にぬる。ちかごろは、まえよりももっと濃い青をつける。どうしたら、いいのだろう」  青年があまりにも深刻な表情だったので、友人もすこし薄気味わるくなった。彼は、 「今度、知りあいの医者を紹介するよ」といって別れた。  一週間が瞬く間にすぎて、友人はかねて約束していた知人の精神科医といっしょに青年の家をたずねた。小さな一軒家だったが、いくらノックをくりかえしてもあく気配がないので、心配になって扉の鍵をこわしてなかへ入った。  そして、「あっ」と、驚きの声をあげた。  青年は部屋の中央で、青いペンキをかぶって死んでいた。頭のテッペンから爪先まで真っ青になった姿をみて、友人は精神科医にむきなおって思わず呟いた。 「彼は、ほんとうに青の領域にいってしまった」                     青い画家、八枚、了  二、女王  気がつくと、日は西に傾きはじめていた。  眼下には緑の草原が渺茫とつづき、樹木が生い茂っていた。すべてが、はじめて目にする風景だった。あらゆるものが黄昏れ、もの悲しくみえた。楽園を追われた私は、寂寥とした情景につつまれ、ゆるやかな風にうたれ、あてもなく大地をみおろしながら飛んでいた。  どうして、こうなったのだろうか。  いったい、なにをもとめていたのだろうか。  不安と孤独にさいまれながら、私は思った。この果てない黄色い大空は、どこにつづいているのだろうか。日がしずむ地平線を目指していけば、紅の島があるのだろうか。あんなに遠くにまで、いかねばならないのだろうか。ほんとうに、辿りつけるのだろうか。   大空を飛んでいた私は、とつぜん懐かしい芳香を感じた。それは、多くの者にかしずかれ、殷富と奢侈を楽しんでいた子供時代に味わった薫りだった。心地よい匂いは、どこから漂ってくるのだろうか。私は、その薫りを目指し、夢中になって風上にむかって飛んでいった。懸命に嗅ぎ分けながら、もし、これをみうしなったら、もう二度と機会はやってこないだろうと思った。紅の島までは、とても飛ぶことはできない。この芳香につつまれた領域こそが、私のうまれたところであり、生存の理由だったに違いない。その彼岸を、手放してはならない。  おだやかな夕暮れどきの大気と、ゆるやかな風がふくなかで、どのくらいの時間がすぎていったのだろう。どれほどの距離を、飛行しつづけたのだろう。  やがて、匂いがでてくる場所に辿りついた。私は、もう一度薫りをたしかめると、その地点に着地した。そこからは、芳しい香りが漂っていた。  私は、翼を噛みきって、切り落とした。もう、必要がないと分かったから。ここが探していた、自分の王国だと確信したから。  翼をうしなった私は、迷わず香りがでてくる場所に入っていった。 薄暗い領域は、懐かしい芳香に満ちていた。かつて、かしずいた者たちが動いているのに気がついた。私は、自分がいるべき場所にむかってすすんでいった。多くの部下たちと出会った。彼らは、私のとつぜんの帰還に戸惑っていた。なかには、動転して、いくのを押しとどめようとする者もいた。私は、かまわず自分の場所にむかってすすんでいった。多くの者たちが、侵入を阻止しようとしていた。なぜ、なのだろう。ここは、私の王国なのに。命をかけた、ながい飛行をして辿りついたのに。翼をすててまで、やってきたのに。  兵士たちと揉みあいながら、私は奥にむかってすすんでいった。そして、ついに宮廷をみつけ、なかに入った。驚くことには、そこには偽の女王が玉座にすわっていた。王位を簒奪した者は、まるで自分が王国の主人でもあるかのように、どっしりと座を占めていた。彼女は、兵士たちに私の侵入を咎めていた。殺すように命令していた。その命によって、たくさんの親衛隊たちが、私をとりまき、追いだそうと試みていた。身体のいたる場所に噛みつき、殺そうとしていた。 「あなた方、私の子供たちよ。間違えてはいけない。私こそが、女王なのだ。そこにすわっているのは、贋物なのだ。もっとよくみて。信じて欲しい」  私は、幾度もくりかえし、絶叫した。  それを聞いて、偽の女王は叫んだ。 「殺しなさい。女王は、ひとりしかいないのです。この女を、宮廷に入れてはいけない」  兵士たちは、彼女の言葉を信じていた。くりかえし、つよい顎で噛みつき、殺そうとしていた。  私は、幾十の自分の子供たちに傷つけられ、動揺した。こんな場面は、想像してもいなかった。この場所に辿りつきさえすれば、そこには私の王国が存在し、住む者たちは諸手をあげて歓迎してくれる。歓声と喝采につつまれ、凱旋を果たすのだとばかり考えていた。それなのに、いまは、自分の養育者たちによって殺されようとしていた。  身体中に噛みつかれた私は、激痛に思わず涙がでてきた。痛みだけではなかった。それよりも、悲しみだった。どうして、信じてくれないのだろう。私は、この心地よい匂いのなかで育ったのだ。あなた方にまもられ、何ひとつの不足も不満もなく、豊かな幼年の時代をおくったのだ。それは、鮮やかな記憶となってのこっていた。  私は、泣いた。悲しみと、痛みのために。その涙は、攻撃をつづける子供たちの身体のうえにも落ちていった。  私の目からこぼれ落ちた滴が降りかかると、とりまいていた者たちは昔の日々を思いだした。自分たちの王国が、どうであったのか。そのとき、だれに仕えていたのか。彼らがなすべきことは、なんだったのか。みんなが思いだした。 「ここは、私の王国なのです。偽の女王を殺しなさい。あの繁栄した王国を、とりもどさなくてはなりません」  その叫びに、周りにいた者たちは、真の女王を思いだした。自分の主人が、だれだったのか。繁栄が、どんなものであったのか。その思いは、つぎつぎと伝播していった。兵士たちは、私ではなく、偽の女王を攻撃しはじめた。彼女は、さまざまな言葉を叫んでいたが、もうだれも騙されなかった。すべての者が、真の女王を思いだした。彼女は殺され、戸外にはこびだされた。  私は、玉座に腰をおろし、兵士たちにかしずかれていた。王国の女王となり、この国の繁栄のために、子供をうんだ。養育者たちにかしずかれ、殷富と奢侈を満喫していた。  その領域は、心地よい薫りに満ちていた。                        女王、七枚、了  三、聖なる七つの丘  背の低い雑草が、つちくれた道の脇に生えていた。疎らだったが、草は水の存在をしめしていた。トカゲが棲み、ロバと駱駝がいる可能性があった。もしかすると、先には町がつくられているのかも知れなかった。そこに人が暮らすなら、だれかが統率しているはずだった。人びとをしたがわせるには、暴力が必要だった。  彼らがしていることに、理由などなかった。やろうと思うまえに、物事は起こった。だから、出来事の善悪を判断するのではなく、生じた事態に対処するしかなかった。アラーは良い神で、あれはてた異教の民にも理解できた。すべてが罪からはじまるという、難解な教義は無用だった。起こった事件を考えるのは無意味で、事実を認め、死後にハーレムが待つ世界のほうが生きぬく望みがのこっていた。  シェンディは、ナイルの匂いが漂っていた。  教会はあったが、ベリアーノ神父は、ふたりの黒人女と暮らしていた。 東輝は、紅島にいこうと思っていた。ひとりではわたれない褐色の大地をまえに、隊商が組まれるのを、もう半年待っていた。  ここは、ひどい村だったが、沙漠をこえてきた人びとにとっては、憩いと潤いに満ちていた。とはいっても、あるのは、酒といかさま賭博、それに暴力と黒人女だった。なかには、美しいアビシニアの女奴隷もいた。  夜明けに起き、朝に祈り、軽い朝食をとって市場へいく。一一時に帰宅して、昼食のあとで回教の寺院で一時間の祈りを捧げる。昼寝をして一五時に起き、洗顔してからまた祈る。それから外出して、夕べの祈りを行う。夕食後に散歩して、ラフィアに覆われたハーレムをたずね、真夜中には床についた。  酒場で街のボスに会って、望みをつたえた。 「隊商がくれば紹介してやる。ただし、それまで生きていればの話だが」  髭を生やしたマムルークの男は、笑いもしないでいった。彼には、過去がなかった。親類も子供ももたず、まえにも後ろにも空白だけがつらなっていた。力のある者にとって、女と馬、宝石と家来を獲得することだけが生きる目的だった。  すべては無意味で、だれもが無気力だった。みんなで、懸命に無をつみあげていた。ソドムは、ハーレムだったから麻薬と酒が必要だった。  東輝は、女が欲しいとボスにいった。 「生きる望みを、もっているのだな」と男は答えた。  酒場のセリで、アビシニアの女奴隷を買いもとめた。背が高く、赤銅色の冷たい肌をもつレイは、極上品だった。彼女さえいれば、この街でも生涯暮らせるだろうと思った。 「東輝を、最後の主人にする。私は、あなたの手のなかで死ぬだろう」  レイは、いった。 「この街で、暮らしましょう。なにもないけれど、どこへいってもおなじだから。ここなら、私がいる。しかし、あんたは、この土地の者ではないわ。べつの世界からきて、違う領域にいく人なのでしょう」  酒場にいってみると、騒ぎが起こっていた。  ボスの女を寝取った男が、鼻を削がれながら叫んでいた。 「今日さえ生かしてくれるなら、明日、殺されても文句はいわない」  耳も切り落とされ、目もくりぬかれて、酒場の天井からつるされ、縛り首になった。  東輝は、ベルベル人に金を払って、百人の交易商人がつくる隊商に入れてもらう約束をした。そこには、女も子供も、女奴隷もつれられていた。白色や黒色、褐色の者たちもいたが、黄色い肌の者は、なによりも蔑みの対象だった。  沙漠をこえるためには、駱駝が必要だった。どうしても馴れない雄駱駝を、男が四人がかりで押さえつけ去勢していた。その駱駝を、もらうことができた。  ながいローブを身にまとい、赤いターバンを巻いたベルベル人が隊商を組んでいた。荷をつんだ、ひとこぶ駱駝の船をひいて沙漠をわたっていった。そこは、砂の海だった。川も湖も、岩もなかった。草の一本も生えてはいなかった。灼熱の昼と、極寒の夜が、ただくりかえされた。すべての生き物が死に絶え、赤い夕日がしずんでいくマグリブの広大な沙漠だった。  隊商のつみ荷は、金、象牙、黒人奴隷、駝鳥の羽だった。隊長に逆らったものは、沙漠にすてられた。隊商は、木霊がない世界の、無言の行列だった。そのほかには、動くものはなにもみあたらなかった。だれも口をきかず、すすんできた道を振りかえりもしなかった。ただひたすら、自分が生きのこることだけを念じていた。必要がなくなった、ついてゆけない者たちを、助けてくれる者はいなかった。それが、掟だった。  隊商は、夜に発った。そのとき、五〇歳くらいの白人の男が手足を縛りあげられ、沙漠にすてられた。ペテン師だった。男の持ち物は、みんなに公平に分けられた。そのとき彼に必要なものは、何ひとつなかった。  隊商の者たちは、ひどく親切で、極端に冷酷だった。  人と駱駝は、いつも憎しみあっていた。その生き物は、孤独とともにうまれ、不足がちの餌に慣れて育っていた。矛盾に満ち、極度に敏感で、しかも誤解のなかで生きていた。  動かなくなった駱駝は、尻を剣で刺し、血がながれてもすわったままだった。これも、すてなければならなかった。  その砂の海のなかに、石塔が忽然と聳えていた。太古の昔、神がこの塔をつたって地上に降りてきたといわれていた。迷信がなければ、一日たりとも暮らせなかった。人を導くために神が立てたともいう、伝説の巨大な円柱の塔だった。 「あれは、なにか」と東輝はレイにたずねた。 「幻。蜃気楼よ」と女は答えた。 「いってみる」 「駄目よ」  レイは、叫んだ  東輝は、月の光のなか、隊列を離れて塔にむかって歩きはじめた。蜃気楼なのだろうが、石塔は、月光に輝きながらくっきりと浮かんでみえた。とつぜん、背後から叫び声が聞こえた。振りかえると、ベドウィンが襲っていた。銃撃戦になり、隊商の者たちは駱駝を盾に反撃していた。レイが、東輝にむかって走ってきた。そのとき、背後から撃たれた。東輝がちかづこうとするのをみて、彼女は「きては駄目」と叫んだ。  レイにちかよると、駱駝に乗った男がよってきた。とつぜん、砂嵐が起こった。レイは、すでに息絶えていた。東輝は、彼女をすて、砂塵から逃げようとした。砂嵐がすぎたあとには、砂の山のほかには、動くものはなかった。塔にむかって歩いていくと、岩山につづいていた。  昼をすぎたころ、そこでトウアレグの男たちに出会った。ととのった顔立ちをした彼らは、古代エジプト文明をつくった一族の末裔だった。アトランティスの子孫とも、いわれていた。風呂には絶対に入らない彼らは、黒っぽい青色の光沢を帯びた身体から、青い人と呼ばれていた。いまでも奴隷をもち、自分たちが働くことは決してなかった。  彼らは、黄色い皮膚の東輝をみると剣をぬいた。追われて回廊に逃げていくと、洞窟がみえた。なかには、泉が湧いていた。水底から糸をひくように水が湧きあがり、水面にいくつもの輪がつくられていた。トウアレグの男たちは、せまってきていた。  東輝は、泉の底になにかがあると思った。なかに入ると、追ってきた男たちは、彼をみまもっていた。泉の底から、巨大なナマズがでてきた。東輝が逃げようとすると、トウアレグたちは剣をかかげた。彼は、人身御供となってナマズに飲みこまれた。  気がついたとき、石畳のうえにいた。そばに巨大なナマズが横たわっていた。  目のまえに、海と、その先に陸がみえた。それは、三つに分かれていた。西の青い海原には、オレンジ色に輝く太陽がみえた。東の海は、緑色をしていた。そして陸にはさまれた、内海があった。潮の匂いともに、海鳥が飛んでいた。船が、海峡をわたっていくのがみえた。  そこは、海に突きでた見張りの塔だった。胸壁をまわると、小高い山がみえ、頂に砦が築かれていた。棕櫚の木が茂る、七つの丘が目に入った。西の海岸に砂浜をみつけたとき、すすむべき場所が分かった。階段をおり、オリーブの林をぬけ、浜辺に辿りついた。  東輝は、西の海に入ろうとする太陽をみながら、潮の匂いの柔らかい風にうたれ、浜にすわっていた。背後から、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。振りかえると、美しい女が野辺に立っていた。  赤銅色の肌をしたレイは、東輝を待っていた。  立ちあがった彼は、ちかづくと口づけした。  レイは、東輝をみつめていった。 「あれが、ヘラクレスの柱。世界の果てを、しめしている。ここは、紅の島。目のまえの山の頂には、山城がつくられている。この背後にも、城がある。どちらの門にも、おなじ言葉がかかている。これよりむこうには、なにもないと。その先には、アトランティスがあったのよ」 「この町で、子供をつくり、世界を創造しましょう。私たちは、祖先になりましょう。この町は、聖なる七つの丘のあるところ。もともと対岸とひとつだったものが、千切れてふたつに分かれた場所。私たちがいっしょになって、この世を創造しましょう」  東輝は、大きくうなずいて、いった。  昨日までの世界は、いらない。  明日から、ぼくらがつくる、ほんとうの領域がはじまる。                           聖なる七つの丘、一一枚、了、                   領域、二六枚