赤い服の女                        由布木 秀  雨宮太一が目を覚ますと、時刻は十時をすぎていた。昨晩遅くまで腹立ちまぎれに酒を飲んでいたせいで、頭がずきずきと痛んだ。朝になっても憤りがつづき、眼前にうつる空間は、ほのかに赤みがかっていた。天井の周囲は、赤くぼんやりとしていた。きっと、目は真っ赤に充血しているだろうと彼は思った。  赤は、怒りの色だろう。  興奮。怒気。私怨。遺恨。焦燥。不穏。心震。立腹。憤慨。動転。忿懣。高揚。怒火。怨念。慷慨。怨恨。激怒。動揺。鬱憤。怨嗟。瞋恚。激高。忿怒。怨毒。赦然。悲憤。赦怒。  こうした思いが、結晶した色だろうと、彼は思った。  しばらくベッドのうえで横になっていたが、太一は意を決して起きあがった。冷蔵庫から容器に入った水をとりだし、食卓テーブルにおいた。椅子に腰をおろし、直接水筒に口をあてて、ごくごくと飲んだ。冷水が渇いた咽をうるおすと、燃える怒気をいくらか鎮めてくれたのだろうか。ようやく頭がはっきりしてきた。テーブルのうえに、クリアファイルに挟まれた封書が入っているのがみえた。  太一は、今日という一日がどういう形で終了するのか、脳裏にイメージをまったく描けなかった。「辞表願」と筆でかかれた封書をみながら、しばらくぼうっとしていた。やがて彼は、ふたたび意を決して立ちあがった。洗顔し、ひげを剃り、髪をととのえた。スーツを着て封書を内ポケットにおさめると、生唾がでた。そのとき、壁にかけられた日捲りが目に入った。数日のまえの数字だった。彼は今日が金曜日だったことを思いだし、何枚かを破った。そこには、一三という数字があった。下には、赤い字で「赤口」と記載されていた。彼は、その表示をみて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。  太一が八軒長屋になった集合住宅のせまい階段をおりていくと、通信販売の荷物をかかえた配達員とすれ違った。ながい髪をポニーテールにまとめた女は、赤い制服を着ていた。  外はもう日盛りで、初夏の赤日がぎらぎらと照りつけていた。  太一がバス停に向かって歩いていくと、赤い自転車に乗った少女に背後から追いぬかれた。ながい黒髪が綺麗な娘は、赤色のリュックを背負っていた。背格好や雰囲気からは、中学生くらいにみえたが、平日の昼まえだった。なぜ、中学校の生徒がこんな時間に道路を走っているのだろうと、彼は不審に感じた。  太一が交差点で赤信号を待っていると、向かいの歩道に幼稚園児たちがやってきた。園児は、おそろいの赤色の園服を羽織っていた。一人一人が小さいので、ごちゃっとした感じで赤い一塊になってみえたが、一〇人くらいはいるだろうと思った。だから、女児ばかりではないのだろう。昨今は、性別で男女を機械的に色分けなどしないのだろう。太一が青信号にかわって横断歩道をすすんでいくと、青いスーツが珍しかったのだろうか。赤帽をかぶった園児たちは、車道で立ちどまって彼をじっとみつめた。ひどく奇妙な光景で、昨晩食べた赤飯の粒でも頬に付着しているのだろうか、と心配になった。太一はわたり終わってから、振りかえって赤色の園児たちをもう一度みた。子供たちは、四人の大人の女性たちに引率されていた。彼女たちの服も、サンタクロースのような朱色だったので、赤色の一団だった。園児たちが散歩中に、交通事故に巻きこまれる事件が報道されていたのを太一は思いだした。全員がこうした色を着れば、注意をひくという点では、効果は抜群だろう。これを気づかなかったとは、だれにもいえないと思った。  太一は、日盛りのなか、バス停で待っていた。彼のまえには、薄紅色の日傘をさした年配の女性が立っていた。後ろの髪をパーマにした女は、赤い枠の眼鏡をかけていた。しばらくたつと、利用している一三番バスがやってきた。車体は、いつもは緑色だったが、今日は赤いストライプが入っていた。彼は、この時間にバスを利用するのははじめてだったから、時間帯によって車両が違うのかもしれないと思った。  太一は、あいていた後部の赤い座席にすわった。  いちばん後ろの席から見渡すと、車内には赤色が目立っていた。停車を指示する赤いボタンは、普段とかわらなかった。シートの色は、まえから赤だったが、一部は緑だった気もした。つり革が赤色なのは、今日はじめて気がついた。普段は、混みあう出勤時間帯だった。後方の座席に腰をおろして、周囲をみまわす余裕などなかった。それに、いつもとは車両も違うから、おなじでなくても妙だとはいえないのだろう。  車内で赤色の座席をしめている者たちは、やけに赤っぽかった。赤いシャツ、トレーナー、カーディガン、スカート、ズボン、レインコートがみえた。赤色の紙袋、鞄、トートバッグ、ポシェット、リュックが、目に飛びこんできた。赤いスニーカーや、サンダル、パンプス、ローファー、ミュール、ハイヒールがみえた。クロッグかと思われる踵部分が露出している靴も目についた。赤色のイアリングやネックレスなどのアクセサリーも、同系色の帽子や髪をまとめる小道具なども視界に入ってきた。バスのなか全体が、赤っぽい大気で構成されていると感じた。そう思うと、今日はやけに暑く、じめじめと湿っている気もした。初夏とはいえ梅雨がつづいているから、晴れていても雨具が必要なのだろう。だれもが苛々し、とげとげしい感じにみえるのは、不快指数がたかいからだ。太一は、車内の赤っぽい情景に衝撃をうけた。朝に感じた頭痛が、にぶく起こりはじめていた。昨晩、怒りにまかせて飲みすぎたのだ。そう思うと、顔面が赤らんでくるのを感じた。  二〇分ほどして、赤いストライプの入ったバスは、駅についた。太一は、赤色の衣服を身につけた人びとに混じって、降車しようと前方に向かってすすんだ。真っ赤な運転席を通りぬけるとき、女性の運転手と目があった。ながい髪を赤毛に染めた女は、制服らしい赤いチョッキを着ていた。赤色の枠の眼鏡をかけて、ぼんやりと降車する人びとを眺めていた。太一は、運転手が女性だったのに気がついて、思わず彼女をみつめた。その視線に気づくと、赤い女はまじまじと彼をみかえした。食い入るような瞳だった。太一は、どきりとして目をそらした。ふと足もとをみると、ステップになった降り口は真っ赤に塗られていた。  太一は、赤い服を着た人びとが行き交うなかを駅に向かって歩いた。赤色の改札口をぬけた。赤い線がひかれた通路をつたってプラットホームにでた。目の前には赤色の看板が立てられ、赤字でかかれた広告がいくつもみえた。赤みがかったベンチに腰をおろしてみると、ちかくにおかれたゴミ箱の色も赤かった。ホームに設置された売店も、真っ赤なペンキが塗られていた。赤い服を着た売り子が、赤表紙の本をお客に手渡していた。そこには、女性の赤裸々な姿が描写されていた。放送が耳にとどいて構内に入ってきた電車は、紅色だった。  車両のなかは、赤色の座席がならんでいた。昼の車内はすいていたので、空間を占有する赤いシートが、否応なく彼の目に入ってきた。つり革も中吊りの広告も、赤の塗料が目立っていた。太一は、赤色の服を着た人びとが降車をくりかえす電車を三〇分乗った。  乗換駅で、また彼は赤の線がひかれた通路を歩き、両側に赤いベルトがついたエスカレーターでうえにのぼった。やってきた朱色の塗料で塗られた車両に乗った。くすんだ赤の座席にすわり、赤色の持ち物をもつ人びとが乗降するのをぼんやりとみた。二〇分ほどして、目的の駅についた。会社は、もう目と鼻の先にあった。  太一は、また両側が赤いベルトのエスカレーターでおり、赤色の線がひかれた通路を歩いた。真っ赤な改札口をでた場所は、ひろい車道を横切る交差点になっていた。そこには、赤いランドセルを背負った小学生が立っていた。赤色のスカートをはいた子供は、ながい黒髪に真っ赤なリボンをつけていた。太一が気づくと、少女は振りかえった。じっと彼をみつめる娘は、赤い枠の眼鏡をかけていた。朱色のシャツを着て、靴も靴下もおそろいの赤だった。さらに、少女は大きな赤い人形をかかえていた。彼は、赤で構成された子供の隣まですすみ、赤信号で止まった。  信号が青に変化したとき、とつぜん大きなサイレンの音が聞こえてきた。周囲は騒然とした雰囲気にかわり、消防車が通りぬけた。なにがあったのか不明だが、赤色回転灯をぴかぴかと点滅させながら、真っ赤な緊急車両が車列をつくって太一の目の前を走りぬけていった。気がつくと、彼は交差点で赤信号を待っていた。  目の前の信号が青にかわって、太一は横断歩道をわたった。そして、振りかえって大きな溜め息をついた。でてきた駅ビルには、巨大な看板が壁一面につくられていた。なんの宣伝なのか不明だったが、赤いドレスに身をつつんだ髪のながい女が彼に向かって微笑んでいた。その上空には、巨大な赤色のアドバルーンが浮かんでいるのが目に入った。  太一は、ぼうぜんとして、しばらく鮮烈な赤に彩られた壁と風船を眺めていた。  アパートをでた時点では、まっすぐ会社に出向き、課長に辞職願を叩きつけるつもりだった。昨晩、飲酒しながら怒りの炎をめらめらと燃やし、赤熱して考えていたのは、紙切れを手渡して、ただやめるだけではなかった。そのときに上司を、手酷く殴打しようと思っていた。幾度も鼻っ柱を殴りつけ、鼻血をださせ、顔が真っ赤になるまで血まみれにしてやることだった。いままで執拗にくりかえされてきたパワハラに、相応の対価を要求したかった。赤心を吐露しようと思いはじめると、さらに怒りが爆発してきて、昨晩はひどく憤慨し、興奮し、悲憤にとらえられ、深酒もかさなり、顔だけでなく魂までが真っ赤にかわっていた。それは、深紅の血の涙がでそうなほどだった。  一度、殴りだしたら、どこで制御できるのか自分でも見当がつかなかった。  暴力をふるえば、民事訴訟が起こされるかもしれなかった。そうなれば、執拗なパワハラ行為を訴えて、こちらも訴訟を提起することは可能だろう。しかし、勝てるのだろうか。なにもかもうしなうかもしれないが、そういう意味からは、もっているものもほとんどなかった。裁判が決して公正ではないことは、身に染みて知っていた。弁護士にも、いい思い出は皆無だった。  しかし、今日の異様さはなんなのだろうか。もう、とても昨晩の飲酒のせいだとも、気のまよいだともいえなかった。最後の真っ赤な消防車は、あきらかに赤い車列をつくって通りすぎていった。消防車両が赤色の光を点滅させ、大音響のサイレンをひびかせながら彼の眼前を走りぬける姿など、かつてみた記憶がなかった。  太一は、静かなカフェにでも入って、珈琲を飲んでひと息入れようと思った。 会社から百メートルも離れていない大通りの四つ角に、全国でチェーン店を展開する大きな喫茶店があった。彼はいままで入ったことはなかったが、毎日通りすがりに見知っていた。  正午ちかい平日の店内は空席が目立ち、赤っぽいボックス席がつづいていた。太一は、入り口からまっすぐすすみ、いちばん奥の席に腰をおろした。白っぽい服を着た女性が、水をはこんできた。  太一は、その姿をみて幾分か落ちついた。珈琲を飲むつもりだったが、動揺していた彼は間違えて冷たい紅茶を注文してしまった。やがてでてきた赤い飲み物と、目障りな赤色の空席を交互に眺めながら考えていた。  今日の異様さは、群をぬいていた。しかし、太一は以前にも赤い服の女に出会った記憶があるように思った。ここまで執拗ではなかったが、くりかえしみた覚えをもっていた。いつだったのだろうかと、彼は考えはじめた。    太一は、大学入試のときに、赤い服の女性に出会った記憶をもっていた。彼は、現役で大学に入った。いくつか入試をうけたが、二つの試験で合格した。まず私立大学の経営学部にうかって、入学金をおさめた。とはいっても、彼の気持ちはこの大学はすべりどめという位置づけだった。太一は、さらに偏差値がたかい国立大学に進学したかった。しかし、くりかえしうけた模擬試験で、この大学の合格可能圏に到達したことは一度もなかった。彼は、その試験の日に、赤い服の女をみた覚えがあった。  当日の朝、太一が電車に乗りながら日本史のメモをよんでいると、隣に一人の女性が腰をおろした。香水のいい匂いがして、髪のながい女がすわっているのに気がついた。赤い洒落たコートを身にまとった、同い年くらいの若い素敵な女性だった。彼女は、太一が懸命にメモをよみかえしているのをみて意味深に首を左右にふった。彼は、その仕草に若い女がなにかをつたえたがっているように感じた。  太一が試験会場にちかい駅でおりると、彼女はいっしょに下車した。二人は肩をならべて階段をおり、ならんで改札をぬけた。女は構内からでると、駅前の広場でとつぜん立ちどまった。太一が不思議に思って女性をみると、ながい黒髪が素敵な彼女はにっこりと微笑んだのだった。魅力的な素晴らしい笑顔だった。それから、彼がいくのとは反対の方向に歩いていった。言葉を交わしたわけでもなく、ただ、それだけだった。  太一は、自分の行く先に幸運が待ちかまえている気がした。その日の試験は、彼の人生で快挙といっていいほどの手応えがあった。とくに日本史の問題は、車内でみていたメモのところが中心で完璧な答えがかけた。だから試験が終わったとき、彼はこの大学に入れると確信した。  太一は思った通り合格し、第一志望だった国立大学に進学した。しかし、結果からいえば正解だったとはいえなかった。彼は大学で野球部に入ったが、古参の監督に意地悪をされた。いまの会社の上司と似た陰険な男で、執拗な虐めをくりかえした。彼がエラーすると、部員全員のまえで失敗した理由について徹底的に論究した。罰と称して一人でのグラウンドの草むしりを強要し、仲間と口をきくことも制限した。そんな出来事がつづいて彼はノイローゼになり、部活動をやめても大学にいけなくなった。そのため、一年、休学した。  太一は、大学にいい思い出はなにもなかった。もし私大にいけば、人生はかわっていたかもしれなかった。  そのほかにも、赤い服の女性に出会った記憶をもっていた。  太一は、卒業すると入社試験をうけ、小規模の金属加工会社から内定をもらった。しかし、彼の第一志望はいまとつめている大企業だった。それで内定がでていたにもかかわらず就職活動をつづけ、苦労して面接までこぎつけた。  面接試験の当日、太一は赤い服の女性に出会った記憶があった。  彼女は、面接会場に向かう交差点のまえでだれかを待っていた。  太一は、青にかわった横断歩道を歩いていた。向かいの歩道に、赤いシャツを着た魅力的な女性がみえた。綺麗なながい黒髪をした彼女がどんな色のスカートだったのか、よく覚えていなかった。赤い服を着た女は、太一が横断歩道をわたってくるのをじっとみつめていた。彼はなかほどで背後を振りかえり、視線の相手が自分よりほかにいないのを知った。太一がもう一度みつめると、彼女はにこっと微笑んだのだった。魅力的な笑顔につよく心がひかれたが、彼は面接会場に向かった。  太一は、そのときも自分が祝福されていると感じた。彼の行く先には、幸運が待ちかまえていると確信した。面接試験は自分でも考えなかったほど、スムースに適確なうけ答えができた。はっきり好感をもたれたことがつたってきた。そうして彼は、希望した企業に就職した。  しかし、決していい選択とはいえなかった。  太一は頑張って仕事をして業績を伸ばし、入社一〇年目に同期でいちばんはやく課長に出世した。そこで、いまの上司の部下になった。それから五年間、部長は、執拗なパワハラをくりかえした。太一は大学でうけた屈辱感がよみがえり、眠れない日がつづき、完全にうつ病になった。会社の監督室に訴えることは可能だったが、部長は社長令嬢と婚姻関係をむすんでいた。社内のコンセンサスとしては、ゆくゆく社長になる者と考えられていた。太一はなんとか関係を修復したいと画策したが、下手にでればその分、部長の行為ははげしくなった。さらに陰湿で、執拗なパワハラ行為がつづけられた。そして、今日に至っていた。  太一が最初に内定をもらった小規模な鉄工所は、数年もたたないうちにヒット商品を生みだした。金属製のお盆だったが、光の加減で七色に変化した。デザインも洒落ていて、贈答用品として市場を席捲した。彼が課長になったころには業績は様変わりし、東京証券取引所に上場した。  どちらにでも入社できた可能性を考えると、太一は自分がなにを望んで選択したのか分からなくなった。  こうして一つ一つ思いだしていくと、さらに、赤い服の女性をみた記憶をもっているのに気がついた。  太一が別れた妻と結婚するまえに、あるホテルでひらかれたクリスマスのパーティーにいったときのことだった。会場で抽選会が行われ、彼は一等賞があたった。人生で、こうしたあきらかな幸運に恵まれたのははじめてだった。前方に設置された舞台によばれ、そこにあがると、サンタの真っ赤な衣装つけた若い女性が待っていた。彼女は、太一に最新式のパーソナルコンピューターか、それとも旅行券かを選ぶことができるといった。彼が考えていると、舞台の下までついてきた別れた妻が、大きな声で「旅行」と叫んだ。太一は、その意見にしたがった。  これが大きなあやまりだったのは、揺るがしようもない事実だった。あのときコンピューターを選んでいれば、彼女を妻にはしなかっただろう。その晩、一等にあたって旅行券を得たのが契機になって、二人は意気投合し、勢いで太一は結婚した。  しかし、この女を妻として、いいことは一つもなかった。結婚した直後から、彼女はなにもやらなかった。掃除も洗濯もせず、浪費家で喧嘩が絶えなかった。太一は、三年後には別れることになった。原因は、不幸な性格の不一致としかいいようがなかった。しかし、慰謝料を請求され、家庭裁判所で審議された。妻の実家は、弁護士だった。彼が慰謝料をもらいたいくらいだったが、結局、彼女が勝訴した。有能な弁護士が、さまざまに捲し立て、裁判官も太一の言い分を退けた。彼は、借金して慰謝料をはらわねばならなかった。  こうして振りかえってみると、赤い服の女は、太一の生涯の大事な時期に出現したのではないか。決して、彼の判断を支持したわけではなかった。幸運を明示したのではなく、人生を熟慮することを望んでいたのではないのか。彼は、この女性の意味が分からずに間違った選択をつづけたのだろうか。結果から判断すれば、不幸を選びつづけたに違いなかった。  太一は、なにはともあれ、赤い服の女を追っていくべきだった。どんなに重要な時点だったとしても、まず彼女を追いもとめるべきだった。そうすれば、大学で虐めにあうこともなかった。小さな鉄工所は業績を一〇〇倍にも伸ばしたのだから、彼だっていまは役員くらいになれたかもしれない。すくなくとも部長くらいにはなって、給与もずっとよかったに違いない。なによりも卑劣な上司に巡りあうこともなく、楽しく仕事をつづけられたのではないか。あんな女の言葉を聞かずに、旅行券ではなくコンピューターをもらっておくべきだった。最新式の機種は、太一がずっと欲しかったものだった。思いかえすなら、真っ赤なサンタの服を着た妙齢の女性は、あのときはっきり彼につげたのだった。 「このコンピューターは、いいですよ。絶対です。あなたの夢を、きっとかえてくれますよ」  なぜ、あんなことを彼女はいったのだろう。一言つげると、赤い服の女性は和やかに微笑んでくれたのだ。それで彼がまよったときに、舞台の下からあの女が「旅行券」と大声で叫んだのだ。  太一は、さらに場面を思いかえした。  真っ赤なサンタの服を着た女は、そのとき、素晴らしい笑みを浮かべて彼をみつめた。はっとするほどの、綺麗な女性だった。そして彼女は、舞台の下から大声で喚いている女をみた。それで、「よく考えて、選んでくださいね」といい添えたのだった。  あれは、いったいなんだったのだろう。なにを、いいたかったのだろう。彼女は、たんに、旅行の券とコンピューターのどちらかを選べとつげただけだったのだろうか。「旅行券」と半狂乱で絶叫する女と、真っ赤なサンタの服を着た女性のどちらを選択するのかと聞いていたのではなかったのだろうか。つまり、あのサンタクロースこそが自分が伴侶にするべき人だったのではないか。彼女は、人生の分岐点で出現している。赤い服の女についていけば、ツキから完全にみはなされた、いまの惨めな半生はまったく違ったものになっていたはずだ。勝手に自分の選択が正しいと考えていたのだ。彼女がわざわざ彼の目の前に出現し、方針転換しろといったのを曲解しただけではないのか。魅惑的な笑顔を、自分の考えの先に幸運が待ちかまえていると独断しただけではあるまいか。  太一は、さまざまな場面をさらに思いだした。それで、 「おれは、赤い服の女についていくべきだった」と確信した。  太一は、冷房のよくきいた室内で、過去に生じたさまざまな出来事を思いかえしていた。  そのとき、出がけにみた日捲りの「赤口」という文字が脳裏をかすめた。基本的には毎日めくっていたのだから、いままでも目にうつっていたに違いなかった。なんと読むのかも分からなかったので、スマホで検索してみた。  これは、「ひゃっく」というらしい。陰暦では、六曜の一つだとかかれていた。みたことのある、大安や仏滅という言葉とならんでいた。赤口は、大凶だとかかれていた。 「なるほど」と太一は思った。  さらに調べると、正午だけは、吉に転じるという但し書きがつけられていた。もっと検索すると、陰陽道に登場する「赤舌神(しゃくぜつしん)」という鬼神の存在に由来していた。この神は、六曜のなかで赤口の日をつかさどる。昼寝の習慣をもつので、正午になると力がよわまると記載されていた。  時計をみると、針はちょうど一二時をさしていた。  太一は、左側になにかがあるのに気がついた。そこには、深紅の薔薇の花がおかれていた。なぜ、気づかなかったのだろうと思った。自分は、周囲をよくみていないに違いない。赤い服の女はくりかえし、彼の眼前に出現していたのかもしれないと思った。もっと注意深く観察して、彼女をみつけださなくてはならないのだろう。そもそも、ぼうっとしていても目の前にあらわれるのだから、女性は好意をもってくれているのだ。それに、気がつかなかったのだ。すこし注意をはらえば、彼女をみつけることができるはずだ。  太一は、深紅の薔薇をもう一度みつめた。花束は造花ではなく、真っ赤に咲きほこっていた。  この薔薇の紅は、アフロディテの血の色だと、太一は、なにかで読んだ覚えがあった。アドニスをいう美青年をめぐって、アプロディテと冥界の女王ペルセポネが争った。狩りがすきだった青年が厄災にあうことを怖れた美の女神は、狩猟をやめるように幾度も懇願し、弓の弦を真っ赤に染めた。しかしアドニスは、猟場に向かい猪におそわれ、致命傷を負う。愛する彼が恋敵のペルセポネのもとに赴くことを知ったアプロディテは、野山を懸命に走って、愛をつげにいく。そのとき、危険な薔薇の棘が彼女の白い足をくりかえし刺した。激情に駆られたアプロディテは、苦痛に耐えながら、ながれる血で花びらを赤く染めぬいた。だから、この花は深紅の花弁をもつようになり、真実の愛を示している。  つまり、赤は、情熱の色なのだ。  熱意。心火。熱情。夢中。情炎。熱中。激情。熱烈。情念。熱血。狂熱。パトス。  こうした、はげしい思いをさす単語の色は、どれも赤色なのだ。  赤い服の女は、太一を愛しているのだ。そうでなかったら、どうして彼のまえにくりかえし出現するのか。自分が逆運にあるのは、彼女の愛に気がつかず、素直にうけいれていないからなのだ。  太一は、紅茶を一口飲んだ。  きりりと引き締まり、くどくなく、それでいて濃縮された味だった。すきとおる赤い色をみながら、赤は熟成も表現しているのだろうと思った。脳裏に、昨晩飲んだ赤ワインが浮かんだ。味噌の赤色も、おなじだろう。昨晩の二色弁当についていた、梅干しの赤い色もそうだ。添えられていた紅鮭のあざやかな赤身は、塩漬けと燻製で熟成されたものだろう。科学的には酸化や腐敗であっても、時間をかさねることによってなにかが濃縮されるのだろう。熟成によって、あらたな香りや旨みがつけくわえられ、やわらかく口当たりのよいものに変化するのだ。 「そうか。彼女は、おれが熟成してくるをじっと待っていたのだ」  太一は、そう考えながら、人気のない赤色のシートがならぶ喫茶店の入り口を眺めていた。  すると、そこに赤い服の女があらわれた。この店は二階もあり、彼女はここでお茶でも飲んでいたのだろうか。あるいは、彼がくるのを知って待っていたのだろうか。二階にいれば、太一が横断歩道をわたってくるのも、喫茶店に入るのもみえたのだろう。しかし、いくら待っても彼が会いにこないので、彼女はあきらめて帰ることにしたのではないだろうか。  赤いワンピースを着た、ながい髪の女はレジから暗い室内を一瞥した。そのとき、いちばん奥にすわる彼と目があった。  太一は、今日の世界が赤で溢れている理由が分かった。これは、赤い服の女性がでてくる予兆だったのだ。彼は、この女を追わねばならないと確信した。赤色のワンピースを着た女性は、レジをあとにした。  太一は、レシートをとりあげ、彼女を追った。紅茶の代金は六〇〇円だった。こまかいお金がなく、一〇〇〇円札ではらうとおつりをもらうのに時間がかかった。  太一は、店をあとにした彼女が道を右に向かうのもみていた。彼は、赤い服の女を絶対につかまえようと思い、道路にでた。右に向かうと、太一はぼうぜんとして立ちどまった。  道には、赤い服の女がいた。しかし、後ろ姿が赤色の者ばかしではなかった。こちらに向かってくる女もいた。横断歩道を横切っていく女性もみえた。彼がその通りで目にすることができた、すべての女が赤い服を着ていた。どの女性も、赤色のワンピースで装い、ながい髪を垂らしていた。  太一は、天をみあげて絶叫した。彼は、喫茶店を去っていった後ろ姿が赤いワンピースの女性を全速力で追った。たどりつくと、女のまえに回りこんだ。しかし、女性の前面は金色の糸で縫い取りがされていた。太一は、べつの赤い服の女を追いかけた。ようやく追いつき、まえに回りこむと、胸には青い絵柄が入っていた。彼は、間違いに気がつき、べつの女性を追いかけた。  太一がくたくたに疲れて歩道に腰をおろしたのは、それから二時間以上がたっていた。結局、彼は、喫茶店でみかけた赤い服の女をみつけることができなかった。レジで目をあわせたときには、彼女は真っ赤なワンピースをつけていた。彼が追いかけてみつけた女性は、後ろ姿は赤い服だったが、まえからみると違っていた。  太一は、すっかり汗だくになり、喫茶店に入った。すきとおった深紅のアイスティーを飲みながら、不思議な一日を考えていた。胸ポケットに辞表願があるのを確認したが、今日はすでに四時をすぎてしまっていたので、やめておこうと思った。彼は、仕方なく電車に乗って家路に向かった。帰路の乗換駅でも、バスのなかでも、赤い服を着た女性には会わなかった。  太一は、くたくたに疲れていた。一刻もはやく自宅にもどって風呂に入り、今日はそうそうに眠りたかった。帰る途中で昨晩とおなじように弁当を購入して、家にたどりついたのは七時だった。買ってきた幕の内弁当には、梅干しがついていた。彼は、考えにふけりながら赤い玉を口にほうり込んだ。風呂からでてきてひと息つくと、時計は八時をまわっていた。  太一は、また赤ワインを飲みはじめていた。赤い液体をすこしずつ飲用していると、今日起こった出来事が走馬灯になって浮かんだ。  太一は、赤という文字について充分な理解が必要だと感じた。スマホの検索ではなく、もっと本格的に調べねばならないと思った。ごそごそと書棚をさがすと、昔つかった漢和辞典をみつけ、彼はページをめくりはじめた。  赤は、赤偏という部首になっていた。解説では、大きく燃える火の色をあらわす。これを部首として、赤をふくみ、赤色に関する漢字が集められている。この文字は、大と火からできている。二つ以上の字を組み合わせてつくった漢字は、会意文字とよばれる。  ①、あか。あかい、もの。古代中国には、木火土金水を万物の根源要素として、宇宙を説明する五行説があった。五行の一つ、火が意味するものは、情熱。色なら、赤。季節なら、夏。方位なら、南。感情なら、喜び。こうした要素は、基本的に分離できないとかかれていた。  太一は、初夏の今日、赤と喜びをみつけたことは偶然ではないと思った。  ②、あか。混じりっけのないもの。赤子。赤心。赤誠など。  ③、あか。中心にあって大切なもの。唐代における中央の色。古代の宮廷には、赤く塗られた階段がつくられていた。そもそも、中国は赤県神州とよばれる。  つまり共産党だから、アカといわれるだけではないのだ。もともと中国は赤色で、古代からも近代からも文脈的に赤が支持され、内実は真っ赤っかなのだ。レッドカーペットも、この意味とどこかで通じる言葉なのだろう。火の中心部が、いちばん赤いからだと太一は思った。  ④、あか。はだかの。むきだしのもの。赤手。赤裸々。赤地千里。せきちせんりは、見渡す限りの荒れ地をさすらしい。  太一は、赤がついた漢字を眺めていた。さらに赤偏をみた。そこには、赤が二つならんでいる赫。左からは赤色と読める「コク」という字もみつけた。みるからに真っ赤で、やけどしそうにみえた。 太一が、なにげなくテレビをつけてみると、ひき逃げ事故の全国ニュースが報道されていた。アナウンサーは、夕方の六時すぎ、彼が紅茶を飲んだ喫茶店のまえの道路で、暴走した車が人をはねたといっていた。多くの者が目撃していたが、自動車は高速で走り去った。被害者は緊急搬送されたが、死亡が確認された。亡くなったのは、彼が殴ってやろうと考えていた上司だった。  ニュースをみた太一は、愕然とした。  事故を起こした車は、赤い服の女が去っていった方角から走ってきていた。もし、あのまま彼が辞職願をだしていたなら、受理され、それで終わりだったのだ。その後に上司が死んで、就業についての根本原因が除去されても、太一は仕事をうしなっただけだった。もちろん退職願をだして部長と揉めていたら、こんな事件は起こらなかったかもしれない。しかし、運命だったなら、太一がなにをしようと無関係に事故は起きたのではないのだろうか。いうまでもなく、彼には責任もなかった。上司の死を防ぐことができたかもしれないと、悔やむ理由もあり得なかった。  それどころか、太一が部長と揉めたあとで事件が起こったなら、責任の一端があると人からは思われるに違いなかった。言い争った上司は、動転して事故に遭遇したといわれる可能性が考えられた。だいいち、ひき逃げ犯はつかまっていないのだ。怨恨が動機だと考えられれば、揉めた太一にも、疑いの目がかかってくる事態はあるうる。つまり赤手でいっても、赤恥をかいて終わりだったのだ。  赤い服の女は、ここまでの展開を予期していたのではないか。彼女が太一の妄想ではなく、味方として現実にいることは間違いなかった。彼は、いままで気づかずに幸運を逃しつづけてきた。どうして自分は、彼女をつかまえることができないのだろうか。  幸運の神さまは、前髪しかついていないと聞いた記憶があった。後頭部は禿げているのだ。通りすぎてから気がついて、いくら手を伸ばしても後ろ髪はつかめない。禿げているから、指がすべって取り逃がしてしまうのだ。  彼女は、太一につかまりたいと考えているに違いなかった。たんに幸運の女神なのではなく、最高の伴侶なのだ。彼女が赤い服を着て訴えているのは、激情に駆られた愛なのだ。  太一は、酒を飲みながら、今度みかけたら絶対つかまえようと心に誓った。そうして、今日なぜ、みつけられなかったのかと思いはじめた。うまくいかなかったのは、赤い服を着た女の出現をここまで真剣に考えていなかったからに違いなかった。どちらかというと、彼女は、彼が熟思するのを待っていたのではないか。だから、わざわざ目立つ赤い服を着ていたのだろう。しかし、太一が彼女の意義をまったく認識していないから、同系色の女性にまぎれて消えてしまったのだろう。つぎにみかけたときには、一挙にすすまねばならない。そうすれば、彼女は待っていてくれるに違いない。彼が、赤い服の女に赤誠をもっているのを知ることになるからだ。  太一は、赤ワインを飲みながら考えていた。今日、起こった出来事を思い起こすと、喫茶店で赤い服の女をみかけなかったら、まよわず会社にいっただろう。横断歩道で真っ赤な救急車両に出会わなければ、店にも入らなかっただろう。そもそもアパートをでた途端から赤い色を強調してくれなれば、消防車をみてもなんとも思わなかったかもしれない。なにも感じなければ、会社に出向き、上司に辞表を叩きつけ、揉めて殴り合いになっていただろう。それでも部長は交通事故にあい、自分は失職していただろう。さらに、ひき逃げ犯として追われた可能性すらある、とくりかえし考えた。  太一は、酒を飲みすぎたと思った。鏡をみると、両目は充血し、顔は真っ赤になっていた。脳裏は、さらに赤色に埋めつくされていると感じた。家にいても、とても眠れそうもなかった。彼は、一度、外出して頭を冷やしたほうがいいだろうと考えた。  太一は、うすい風よけを羽織ると、戸外にでた。雨はふっていなかったが、雲に覆われた深夜だった。赤い字を考えすぎたのかもしれない。アパートからでた通りは、煌々と光っていた。彼は、明るいというより赤すぎると感じた。電灯が少ない暗い路地に入った。人通りが途絶えた小径は、通路全体が赤っぽかった。そう思って見直すと、荒涼とした感じがしてきた。先ほどみつけた、赤地千里という言葉が脳裏に浮かんだ。酒気を帯びた太一は、ゆるく吹く南風を爽やかに感じた。ぶらぶらとすすみながら、一日に起こった出来事を考えつづけた。そして、どうせ歩くなら、五方にあたる南の方角がいいと思った。彼女とは、赤い糸でむすばれているに違いないと確信した。  太一は、風が吹いてくる南の方角に向かって、なんとなくすすんでいった。周囲は住宅地にかわり、人の行き来はすっかりなくなっていた。暗くてせまい四つ角をまがると、南にあたる方角に赤いものがみえた気がした。そのとき、彼の心は驚きにつつまれた。  太一は、大きく燃えさかる火のように興奮した。胸が高鳴るのを感じながら足速にすすんでいくと、赤い服を着た女が立っているのがみえた。彼女は、暗い路地の街灯の下にたたずみ、太一をみつめていた。彼は、そこが世界の中心にあたることを理解した。  太一は、今晩、再会できるとは微塵も考えていなかった。そのとき一日に起こったすべての事件が、この出会いを予期していたのだと確信した。  太一は、赤い服の女に向かって走りだした。暗い道だったが、ぼんやりと赤黒い街灯が金赤に着飾った美貌の女性をあざやかに照らしだしていた。赤い服を着た若い女は、真っ黒な髪を伸ばしていた。 「もう逃がさない。待っていてくれ」と太一は絶叫した。  女の叫びが、くりかえし聞こえた。その声の主に向かって、彼は全速力で疾走していった。そして、ついに追いついた。彼女は、息を飲んだ表情で彼をみつめていた。  太一は、まよわず赤い服の女に飛びついた。 「ずいぶん可愛い色のパジャマですね」 「いやですわ。刑事さんがどうしてもみせろというから、仕方なくもってきたんです」 「そうでしたね」 「わたしだって、こんなピンクの寝間着でいるところを、他人にみてもらいたいと思ったことはないですよ。七〇歳をすぎた白髪の老婆は、着てはいけないっていう法律でもあるのですか」 「確認しただけです。ご気分を悪くしないでください。これも仕事です。すると園長は、運転席のところで子供たちの座席カメラの点検をしていたのですね。バスの室内灯は、ついていた。ライトを、運転席の下側から天井に向かって照らしていたのですね。あの街灯は、すこし離れています。そうすると、路地からやってくる相手からみれば、園長は暗い闇のなかにぼうっと浮かんでみえたのでしょうね。きっと」 「分かりません」 「走ってくるのは、気がついたわけですね」 「猛烈な勢いでした。凄い形相でした。鬼気せまるというか」 「クラクションは、鳴らしたのですね」 「幾度かは。何回だったかは、数えていませんでした」 「男は、なにか口走っていたのでしょうか」 「なんだか、分かりませんよ。その男は、猛烈な勢いでちかづいてきたのです。闘牛のように、一直線に向かってきたのです。わたしは駄目だと、幾度も大声でしらせたのです。そのとき警笛も鳴らしました。でも、なにも聞こえなかったらしいのです。なにかを大声で喚きながら、正面から飛びこんできたのです。ほんとうに怖かったですよ。足がすくみました。ひどく興奮して、なにもみえなかったのでしょうか。わたしには、自殺にしか思えませんでした」  聖サンタクロース幼稚園の老園長は、信じられないという表情でいった。 「だって、お分かりになるでしょう。このバスの車体は、真っ赤なのです。これは、危険をしらせる色ですよ。赤をみたら、なによりもまず止めるべきです。レッドカードは、限界をこえた行為に対する、つよい警告です。赤色の意味は、古来、ずっとかわっていません。昔からおなじですよ。いくらそう叫んでも、無駄でした。危険だって、くりかえしたのに」                           赤い服の女、四二枚、了