日本の550兆円に上る対外純資産は、ながらく世界最大規模といわれてきました。2025年9月、ドイツが620兆円を超え、さらに中国も610兆円になったと言われています。2025年の日本政府債務残高は1250兆円にのぼり、GDP比でも260%と世界最悪です。しかし、550兆円は間違いなく巨額です。年金基金や日本企業が海外に資産を残したのは、国内に投資する対象を見つけられなかった裏返しだと考えられます。少子化による労働力の低下や技術革新が起こらなかったなど、さまざまに論議されてきた事実です。無謀なリスクを避けた結果、企業は多額の内部留保金を抱えることになりました。いっぽうドイツや中国の対外純資産が積み上がったのは、輸出による黒字という構造的な強さと考えられます。
新総理は、17分野にもおよぶ「成長戦略」を掲げています。これは、企業に自国への投資を促すものです。しかし、企業が探しても有効な投資先がなかったのです。したがって、政府は国策とし、税制面で配慮し、補助金を出して後押しするといっているのです。そのためには、税金がつかわれることになります。南鳥島のレアアースは、典型例です。この話は、商業化できなくても、資源があるという夢を物語化することができます。メタンハイドレートも、似た文脈でつかわれました。技術的、経済的に採掘が困難で、強力な温室効果をもつメタンは現実には商業化できません。それにもかかわらず、日本には油田並みの資源があるという物語がつくられました。宇宙とか、量子コンピューターなども、夢を語るのに十分なテーマを持っています。さらに地政学上、中国、北朝鮮、ロシアという脅威があるので、防衛関連企業に脚光が浴びるのは間違いないでしょう。
日経平均は、非常に便利なツールです。225の銘柄から構成され、数が多いので日本企業を代表する指標と思われがちです。しかし、実際には日本企業全体を数値化するTOPIXとは異なり、寄与度の大きい10銘柄くらいに的を絞って株価を上昇させれば、高値に持って行くことが可能です。業績が振るわなくなった企業は225から外し、勢いのある会社に入れ替えればいいのです。政府が日経平均を上げようと考えているなら、連動する投信を買うのが正しい選択になるでしょう。
日銀は制度上、政府から独立した機関です。しかし、アベノミクス期において、政府の経済政策と完全に歩調をあわせました。日経平均をまもるために、ETFという形で日本株を大量に保有することになりました。黒田元総裁は、最近のインタビューで「11年におよぶ、緩和は正しかった」と語っています。当初、副作用を危惧し、「2年」という期限を設けたのを忘れたように振る舞うのは、建前と現実とが違うことを象徴しています。
すでに大株主となっている以上、政府は日銀を「通じて」株価を押し上げる余地が限られています。そこで、直接的に買い支えを行う代わりに、成長戦略という国策テーマを掲げたのです。企業の国内投資を誘導し、その成果を日経平均という象徴的な指標で可視化しようとしています。ですから円安は、避けられないはずです。
国家は、物語を必要とします。成長戦略とは、政府が新しい語りを提示し、その夢に企業を従わせるための国策です。経済政策ではなく、国家が自らの正当性を維持するための物語装置です。そして、成果を国民に可視化するための道具として、日経平均が利用されるのでしょう。
