カテゴリー: 金と通貨

  • ゴールド、12

     このコラムでは、ゴールドが世界商品という証でもある「4時間足チャート」について考察してみます。

     まず、チャートが、なにを表現しているかという認識を共有します。

     チャートは、未来を予想するツールではありません。どんなに分析しても、明日のことはまったく分かりません。チャートとは、いままで銘柄がたどってきた軌跡をふりかえるツールでしかありません。よく使われる、MACD、RSI、は、分析対象になった銘柄が、いま、過去と比べてどこら辺に位置するかを説明するだけの指標です。MACDの数値を他銘柄と比べてみても無意味で、おなじでないから複数の銘柄があるとしかいえません。あくまで相対的な指標です。一目均衡表にいたっては、幻想的な価格推移を視覚的に表現したものです。過去を説明するツールとしても、無価値です。そもそも、あらゆるチャートは、後になってから確定します。現在という点は、作図中の揺れでしかありません。こうした認識にもとづいて、4時間足を考えてみようと思います。

     ゴールドは、世界中で取引されています。日経平均先物、S&P500先物なども、ほぼ24時間取引されます。しかし、もっとも盛り上がるのは現物市場がオープンしているときになります。ゴールドは、東京市場、ロンドン市場、ニューヨーク市場で現物が取引されるので、おおむね8時間ずつ相場がつくられます。アジア時間、欧州時間、米国時間という3つのブロックに分かれて、価格が形成されています。各市場の前場、後場と考えれば、4時間ごとの推移が一連の動きをつくりだします。

     おなじ世界商品と考えられる原油市場は、どうなっているでしょうか。

     原油市場の価格決定は、ニューヨーク市場が支配しています。ロンドン市場は、先物が中心です。東京市場は、出来高が極端に小さくなっています。現物市場は地域差が大きく、世界で均質ではありません。価格は「需給」よりも、「投機、ニュース、地政学」で急変します。その結果、原油の4時間足チャートは、 連続性を反映する構造になっていません。

     FXのペア通貨(USD/JPYなど)では、2通貨が流通する市場で主に取引されます。アメリカ時間と日本時間はあっても、欧州時間がありません。その結果、4時間足チャートは有効ではなくなります。

     チャートは、経験則に基づいています。さまざまにありますが、なかでも、ダウ理論、エリオット波動などは有名です。

     ダウ理論では、トレンドには3種類あると考えます。

    1)主要トレンド、1年~数年のサイクル。

    2)2次トレンド、3週間~3ヶ月のサイクル。

    3)小トレンド、3週間未満のサイクル。

     これらは、互いに独立しているのではなく、2次トレンドは主要トレンドの調整局面、小トレンドは2次トレンドの調整局面として捉えられます。つまり、本質的にはフラクタル、という認識に基づいています。チャートは、5分足、15分足、1時間足、4時間足、日足、週足、月足、どれでみても、おなじ形をつくっています。いわゆるフラクタル性をもつことが知られています。

     4時間足チャートは、トレンドが変換したかどうかをみる指標です。とはいっても、すぐに再転換する可能性は充分にあります。しかし、金のような現物が、高い流動性をもって24時間連続的に動く市場では、トレンドはある程度たもたれるという経験からの幻想でしかありません。

     私のばあい、単純平均、5本線、13本線、31本線、79本線でみています。この数値は、単に素数という意味しかもっていません。5、13、31、79は、隣接する数値の比率が、ある程度一定という構造にすぎません。

     個人的には、チャートは、日足がもっとも純粋に過去を反映するのではないかと考えています。事件やエベントを、直接的に表現しているからです。週足になると、事件は市場におりこまれてきます。月足は、人間の思考単位から逸脱しています。5年たっても60本しかひけませんので、繰りかえしみても発想がかぎられます。

     したがって、なかでは日足という結論がでてきます。

  • ゴールド、11

     このコラムでは、仮想通貨について考えてみます。

     仮想通貨( virtual currency)は、日本では2020年に改正資金決済法が施行されて暗号資産(crypto-asset)という名称に変更になりました。

     暗号通貨( cryptocurrency)、いわゆる「仮想通貨」とは、現実に存在する消費財などを売買できるよう設計された仮想の通貨です。仮想通貨は、データとして存在するデジサル資産(digital asset)と結びつけられています。個々のコインの所有権の記録は、電子化されたデータベース上の台帳に保存されます。強力な暗号によって、取引履歴の安全性が保障され、新たなコイン生成が管理され、所有権の移転が確認されるものとされています。

     作品番号11.「ソフィアに会った日」では、仮想通貨をつかったエキサイトというゲームが紹介されています。このゲームでは、どのようにハッキングして、現金化するかという方法が考案されます。現実に韓国の北側の国では、国家が一体となってハッキングしています。

     厳しい監視のなか、つかわれていないふるいアカウントを利用して大量の口座をつくり、盗んだマーキングされた通貨を小分けにして分散させます。そこで、さまざまな取り引きを行い、ほかの貨幣と目茶苦茶にまぜあわせ、もとがなんだか分からなくさせます。最後には可能なかぎりの方法を駆使して一般通貨に交換し、現金化します。

     成功すれば大金持ちになり、気に入った邸宅を購入することができます。住居の場所や外装、間取りなどを、お金に応じて選択できます。さらに資金をつくれば、愛人たちを複数の邸宅に住まわせることができます。お金を一定以上つむと容姿端麗な女性のヌード写真などがあらわれ、好みに応じて選択、非選択を決められる特典がついています。

     対象になる仮想通貨は、取り引きできるものだけでも90種類以上あります。時価総額は、200兆円をこえています。ビットコイン(BTC)は、とくべつ大きく50%をしめています。イーサリアム(ETH)も、20%、70兆円の時価をもっています。1兆円をこえるものだけでも、3位のビルドアンドビルド(BNB)以下、リップル(XRP)、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ドージコイン(DOGE)、トロン(TRX)、チェーンリンク(LINK)、ポリゴン(MATIC)、11位のアバランチ(AVAX) まで揃っています。調査費を払って、ハッキングする仮想通貨を決定します。とうぜんながら、通貨によって成功確率に違いがあります。もちろんビットコインはいちばん難しく、下位にいくほど容易ですが、成功しても時価総額以上を獲得することはできません。現実的な対象はイーサリアムまでに絞られますが、必要額が500億円程度なら、アバランチをつかえばかなり安全に資金調達が可能です。

     さらにいろいろな案がだされ、通貨取引所自体をハッキングする方法もあります。これを可能させると、ハッキング成功率が急激に上昇します。

     こうした物語をつくれるのは、この仮想通貨による資産が、1)担保の所在が不明、2)発行主体が不明、3)発行額が無限に増やせる、など、文明の信用構造の外側で形成される「担保不詳化資産」だからです。

     資産と名づけられると、価値をもっているような錯覚を生みだします。しかし、 仮想通貨を基盤としてつくられる暗号資産は、完全な担保不詳化資産に分類されます。

     仮想通貨は、いくらでも種類をつくれるため、担保の供給量が無限に拡大します。まさに仮想領域で拡大するため、現実に適合できません。 BTCは、発行上限があるとされますが、プロトコル上の建前です。半減期も、コード上の約束にすぎません。破られても 責任主体が存在しません。通貨は、国の信用で成立しています。もし信用をうしなえば、通貨安という形で責任をとることになります。国家の徴税能力、経済力、軍事力をふくめた総資産が、担保化されているともいえます。暗号資産には、裏づけとなる担保がまったく存在しません。暗号技術は、量子コンピュータなどの技術的飛躍があれば、無価値になります。

      したがって仮想通貨によってが生みだされる暗号資産は、文明の信用構造の外側で形成される 典型的な「担保不詳化資産」です。リキッド・ファンディングでみたように、この資産クラスは、詐欺的構造になりやすい性格をもっています。

  • 円安、02

     為替の月足チャートからは、160円を超える円安になると節目がありません。1980年代に揉みあった240円まで、テクニカル的には真空地帯です。そこを越えると1970年代以前の固定相場、360円になってしまいます。「円安、01」のコラムで、こう書きました。

     2024年7月に、1ドル162円に上昇したとき、政府は円買いドル売りの市場介入をしました。データとしては、4月29日、5.9兆円。5月1日、3.9兆円。7月11日、3.2兆円。7月12日、2.4兆円。総額、15.3兆円と推測されます。その後、140円割れまで円高が進みましたが、10月には反転しました。チャートでは、140円が底値を形成しました。

     2026年は、4月30日、5兆円規模の介入が行われたと推測されます。その後も5月連休中にくりかえし介入し、おおよそ10兆円がつかわれたと思われます。為替介入の権限は財務省で、日銀は実務を担当します。

     介入の原資は、財務省が保有する特別会計、「外国為替資金特別会計」(外為特会)で、2026年時点で200兆円規模です。米国債(65%)、外貨建て預金などの外貨資産(35%)を売却して円を買っています。しかしながら、米国債を売却してドルを調達する手段は、政治的にアメリカの同意がえられません。実際には、外貨預金を取り崩していると思われます。いずれにせよ、円高阻止時とは違い、介入に上限があるのは間違いありません。つまり、この方法で円安を阻止するのはたいへん難しいといえます。介入効果はすぐに判断できませんが、円を売っている者たちは、この構造を正確に把握しています。

     円安の根本原因は、円に対する信認の低下です。したがって、通常は国債の利率を上げて対処するべき問題です。注目すべきは、日本国債10年金利です。2026年5月15日には、2.72%で、1997年の水準まで高騰しています。2024年7月が、1.08%でしたので、金利が2.5倍になっても円安がとまらない状況だといえます。

     1997年はアジア通貨危機が起こりました。日本国債10年金利は、2.7~2.9%でした。2026年の2.72%は、29年ぶりの金利水準です。日本は、1997年ではまだ成長国でしたが、2026年では人口減少、財政赤字、潜在成長率ゼロで、まったく違う構造になっています。

     政策金利(公定歩合)は、日銀が決める短期金利です。いっぽう10年国債金利は、市場がきめる長期金利です。通常は連動しますが、 信認低下局面では長期金利だけが急騰します。つまり長期的な国債には返済能力に疑問符がつくため、信用コストが増加するのです。

     日銀が政策金利をどこまで上げれば円安が止まるか、という議論はたくさんあります。しかし、真実は誰にも分かりません。

     問題は、長期金利と短期金利の乖離が常態化していることです。

     短期金利を上げなくても国債価格が下落すれば、大量に保有している日銀の含み損は拡大します。これは負の循環を生み、さらに信認低下が生じることにつながります。

     金利2.7%は、 日本の国債残高(1100兆円)に対してきわめて重い事実です。 利払い費の急増は、 財政悪化から、さらなる円安をうむ負のループをつくります。さらに、日本国債を運用している銀行、保険会社の含み損が拡大し、金融システムを不安定にします。これも、さらなる円安の材料です。

     こうした金利構造の歪みは、別の危機を生みはじめています。つまり、日銀が政策金利を変更しなくても、市場は勝手に日本国債の劣化をおりこんでいます。

     財務省の介入は、対症療法にすぎません。介入金額に上限が明確に存在する以上、160円を阻止できないことは、長期金利が上昇している事実からも自明です。ほんらいは、対症療法をしながら根本治療を進めなければなりません。しかし、現実にはアベノミクスの後始末ができなくなっています。

     政府は、インフレを容認するつもりです。株価は、げんに6万5000円に到達しました。

     これは、喜んでいられる状況ではありません。

  • エプスタイン・ファイル、08

     エプスタインの性犯罪履歴をつくってみようと思います。

     1996年、12歳と16歳の姉妹、ヌード写真事件。

     1997年、27歳のモデルが痴漢行為を告発。

     2001年、パームビーチ・アトランティック大学、女子学生3名が苦情。

     2004年11月、フロリダ州パームビーチで、若い女性たちがエプスタインの自宅に出入りしている情報。

     2005年3月、14歳の継娘の虐待容疑。

     2006年5月、未成年者との不法性行為4件。性的虐待1件で起訴すべきという宣誓供述書を提出。

     2006年7月、被害者2名の証言を受理。

     2006年7月23日、逮捕。保釈金を支払い釈放。

     2008年6月30日、重罪の売春勧誘、18歳未満の売春斡旋、各1件で18ヶ月の懲役刑を宣告されます。通常はフロリダ州刑務所に移送されますが、エプスタインは、パームビーチ郡ストックエイドの最低警備拘置施設の私室に収容されます。2008年8月のマーク・チェンバレン大尉のメモには「独房のドアを施錠せず、テレビが置かれる弁護士室への自由な出入りを許可する」と記されています。その後も、外出が許可されるなどの特例扱いを受けて、13ヶ月で釈放されています。

    いっぽう、サブプライム危機の時間経過は、以下の通りです。

     2007年4月、リキッド・ファンディング 、レバレッジ17倍が破綻。

     2007年7月、ベア・スターンズのサブプライム、2ファンド破綻。

     2007年8月、エプスタイン、司法取引交渉開始。

     2008年3月、ベア・スターンズ、破産。

     2008年6月30日、エプスタイン、異常に軽い刑で決着。

     2008年:エプスタインは、「匿名の投資家」として証言提供。

     2008年後半、リーマン・ブラザーズ倒産によるリーマン・ショック。

     アメリカでは、未成年者への性的加害事件は重罪とされ、禁錮5~15年くらいの量刑が課せられます。司法取引が成立しても、最低数年の実刑が一般的です。ところがエプスタインは18ヶ月の刑期で、しかも実際の収監は13ヶ月でした。さらに通勤が許可される異例の待遇でした。フロリダ州パームビーチの警察は、1990年代からエプスタインを性犯罪常習犯として目をつけています。

     2007年8月から行われた司法取引交渉が何を指すのか不明ですが、 ベア・スターンズの内部崩壊と完全に同期しています。時系列で追うなら、サブプライム問題で破綻したベア・スターンズの2ファンドとの関連です。しかし、そもそもこのファンドは、エプスタインのリキッド・ファンディングが引きおこした事件です。さらにサブプライム危機を経ても、彼の資産は完全に保護されていました。つまり、この司法取引というのは、彼の罪科を減刑する口実にすぎなかったと考えるより手立てがありません。

    エプスタイン・ファイル、06」で調べたように、1986年、エプスタインは、ヴィクトリアズ・シークレットの会長兼CEOのウェスクナーの個人資産を運用しています。この企業は、女性用下着、婦人服、美容用品をあつかう、巨大ファッションブランドで、世界的なランジェリーショーを開催していたことでも有名です。

     ウェスクナーは、1995年にエプスタインとの契約を破棄しています。後年、不正流用があったと主張していますが、裁判沙汰にすることはできませんでした。もし裁判になれば、ウェスクナーの資産が脱法的につくられたことが証明されたのでしょう。この時点で、エプスタインが法律の埒外に存在する、「エプスタインモデル」は、完成したと考えられます。 

     2007年、フロリダ州南地区連邦検事だった アレックス・アコスタ(後の米労働長官) は、 ジェフリー・エプスタインの性犯罪事件で異例に軽い司法取引を結びました。2019年、この事件が再燃したとき、 アコスタは記者や関係者に対し、「エプスタインは、政府にとって重要人物だと言われた。 だからこれ以上関わるなと指示された」と主張しました。あまりにも微妙な発言でしたので、複数の報道が伝えた「アコスタの説明」とされています。

     誰も、これ以上ふかくは追求できないのです。自分が違法行為をした事実をエプスタインがしっかりにぎっているからです。

     これが、「エプスタインモデル」です。

  • エプスタイン.ファイル、07

     このコラムでは、エプスタインが考案したリキッド・ファンディングが、いかに画期的な発明だったかを論点にしたいと思います。

    ゴールド、08」で、レバレッジの歴史的な経緯を考察しました。

     20世紀初頭のレバレッジは、1)ブローカーズローン、2)株式担保融資、3)信用取引などをさし、倍率が2未満に抑制され、低倍率の担保希薄化を意味していました。

     2000年に設立されたリキッド・ファンディングは、レバレッジ文明の転換点でした。具体的には、1)原資産をもたず、2)差額決済を採用し、3)担保を再利用し、4)資産を名目元本の外側で膨張させました。

     リキッド・ファンディングは、BIS にも記載できない実体のない資産を担保化した「構造的」レバレッジといえます。つまり、レバレッジを担保希薄化装置から、担保不詳化装置に転換した最初のファンドでした。

     エプスタインは、詐欺的商品を合法的にあつかう手法を発明したのです。

     レバレッジは、派生商品(デリバティブ、担保債利用契約装置)にしかつけられません。なぜなら、担保を再利用することでのみ有効化するからです。

     レバレッジの本質について、もうすこし検討を加えます。

     レバレッジを利用すると、運営会社は以下のような利益を得ます。

    1)管理報酬(あつかう資産の増減にかかわらず一定)、2)成功報酬( 上がったときだけ発生)、3)スプレッド( レポ、証券化による差額)です。

     あつかう総資産が変わらなくても、運営側はリスクを負わずに利益が得られます。いっぽう投資家は、もっているだけで、1)3)を支払わねばならない契約です。レバレッジは、投資家の損失を増幅し、運営側の利益を固定化できます。レバレッジの倍率が増えれば、投資家の損失は増幅されます。いっぽう運営会社は、スプレッドが上昇し、固定収入が増える仕組みです。単純に考えて、投資家の利益が運営会社に自動的に流れる仕組みといってもいいでしょう。

     リキッド・ファンディングの最終的なレバレッジは、17倍でした。これは、利益が17倍になるのではなく、このポジションを維持するために17倍のコストが発生するという意味です。手数料は利率なので、あらたなコストが発生する分だけ、運営会社の利益は増加します。

     表向きは禁止されていますが、現在でも17倍級 のレバレッジは、形を変えて普通に存在します。 1) レポ(国債を担保に資金を借りる仕組み)では、10~50倍は普通です。2) 証券化(SPV、CLO、MBS、ABS)では、実体の50~60倍のレバリッジをかけます。3)スワップでは、名目元本が実体の 100倍以上 になります。4) ヘッジファンドの総合レバレッジでは、20~40倍が普通です。

     当局は、証券会社のレバレッジ、銀行のレバレッジ比率、個人の信用取引は3倍までという形で規制しています。しかし、いままでに挙げた形式を用いれば、表面上の倍率を隠したまま、実質17倍以上の商品をつくることができます。いまのレバレッジは「見えない」だけで、むしろ危険ともいえます。

     リキッド・ファンディング は、シャドーバンキングのプロトタイプだったといえます。ベア・スターンズを通して、 ウォール街、 世界金融へとひろがりました。

     ベア・スターンズが破綻した原因は、1)レポ市場の信用収縮、2)証券化商品の価値崩壊、3)オフバランスの連鎖、4)高倍率レバレッジの逆回転、などが考えられます。

      リキッド・ファンディング の構造が、ベア・スターンズ 全体に拡大し、 サブプライム危機として破裂したのが 2008年の崩壊だった考えられます。

  • エプスタイン・ファイル、06

     エプスタインは、1974年9月、21歳でダルトン・スクールで数学の教師をしました。1976年、アラン・グリーンベルグが取締役だった大手金融会社、ベア・スターンズに入社します。すぐにオプション・トレーダーに昇進し、1980年(28歳)にはリミテッド・パートナーになっています。彼は、「超富裕層の顧客にたいし、莫大な税金を節約できる複雑な取引戦略」を提供していたと報じられています。アラン・グリーンベルグとは、師弟関係のだったといわれています。1981年に、不正取引を理由にベア・スターンズから2ヶ月の出場停止処分を受け、その後、辞職しています。

     1981年8月、金融コンサルティング会社、インター・コンティネンタル・アセット・グループ(IAG)を設立しています。富裕層の金銭問題にからんで多額の資産をつくったといわれています。こうした実績をかさね、富裕層と強いつながりをもったエプスタインは、1980年代半ばには、ベア・スターンズにとっても貴重な顧客になっていました。 

     エプスタインは、1987~1993年、タワーズ・ファイナンシャル・コーポレーションのコンサルタントとなっています。がんらい、この企業は、病院や銀行、電話会社から借りている人びとの債券を買いとる回収会社でした。1993年、タワーズ・ファイナンシャル・コーポレーションは、アメリカ史上最大級の「ポンジ・スキーム」のひとつだと暴露されました。タワーズ・ファイナンシャル・コーポレーションは、2025年の価値で10億ドル(1兆6000億円相当)の損失をだして崩壊しました。

     ポンジ・スキームとは、収益事業は実質的に存在せず、新規投資家の資金を既存投資家に配当としてまわすだけの出資金詐欺です。典型的な担保不詳化資産をあつかっていたといえます。

     この事件では多くの関係者が起訴され、主要幹部は20年の実刑を受けています。しかし、実質的には中枢にいたエプスタインは、助言しただけという立場で免罪にされます。担保不詳化資産が信用構造の外でうまれていたように、彼は、司法の枠外に存在するようになります。

     実権を握る超富裕層が、彼に焦点が当たることを避ける構造、「エプスタインモデル」がこの時点ではつくられていたと考えられます。

     エプスタインは、1986年、ヴィクトリアズ・シークレットの会長兼CEOのウェスクナー(1937~)と出会います。この企業は、女性用下着、婦人服、美容用品をあつかう、巨大ファッションブランドです。世界的に有名なランジェリーショーを開催していたことでも知られています。ウェスクナーは、長年にわたりオーナーでした。

     エプスタインは、1988年、J.エプスタイン&カンパニーを設立します。設立直後から1995年まで、ウェスクナー財団の理事をつとめました。1991年、ウェスクナーから委任状をあたえられ、影の財務担当者として多額の報酬を得ていたことが知られています。オーナーがランジェリーをあつかう企業だったため、モデルや若い女性との接点が急激に増加したと考えられます。この時期、世界的なタレントスカウトを自称し、若い女性たちを性的に操作したことが明らかになっています。

     ウェスクナーは、1995年にエプスタインとの契約を破棄しています。後年、不正流用があったと主張していますが、裁判沙汰にすることができなかったと思われます。

     エプスタインは、法律の埒外に存在し、「エプスタインモデル」が完成していたと考えられます。

     J.エプスタイン&カンパニーは、純資産10億米ドルをこえる顧客の資産を管理しました。表にはだせない節税、匿名管理、不正蓄財の処理、オフショア構造などを目的とする事業で、莫大な資産を運用していました。この過程で、豪邸、プライベートジェット機、カリブ海の孤島などを取得しています。

     オフショア構造とは、国家の規制、課税、監査の外側に資産や法人を移し、匿名性、節税、隠匿を可能にする「影の金融インフラ」を称します。よく知られているとおり、ケイマン諸島などが代表例です。

     まとめるなら、1995年までの段階で、エプスタインは影の財務担当者として超富裕層に支持を得るいっぽう、性的なネットワークも構築しはじめていたと考えられます。

     エプスタインは、2000~2007年まで、バミューダに法人化されたリキッド・ファンディング社の社長をつとめています。

     リキッド・ファンディングの株式は、当初、ベア・スターンズが40%を所有していました。この企業の業務については、 「ゴールド、10」で詳述しました。このファンドは、住宅ローン担保証券のなかでもリスクの高いエクイティ債や、それを再度組みこんだ CDO-squared に投資していました。 これらは、レポ取引や再担保を通じて何度も再利用され、担保不詳化資産を肥大化させていました。

     レポ取引とは、国債などの安全資産を担保として、超短期で巨大な資金を貸し借りする市場です。金利水準のわずかな動きが、大きな利益をうみだします。結果として、レポ市場は、数100兆円規模といわれる世界最大の短期金融市場をつくっています。MMF、シャドーバンク、プライマリーディーラー、中央銀行などは、ここを基盤として動いています。

     2007年4月、リキッド・ファンディングのレバレッジ比率は、17:1になっていました。この投資の償還は、取引が乏しいCDO市場から10億ドルを取り除くことに相当しました。その月の償還に対応するためにCDO資産を売却したことで、CDO市場では価格再評価と凍結がはじまりました。CDO資産の再評価により、3ヵ月後の7月にファンドは崩壊し、2008年3月にはベア・スターンズ倒産しました。ベア・スターンズのサブプライムに関する2つのファンドでの投資家への損失は16億ドルにのぼりました。 

     エプスタインは、自らがまいた災害にもかかわらず、まったく損害を受けなかった事実は特筆すべきでしょう。

     ベア・スターンズの2ヘッジ・ファンドが2007年5月に破綻しはじめたころ、エプスタインは未成年者との性行為に関する差し迫った起訴にたいして米国検察庁と司法取引の交渉をはじめていました。

     エプスタイン・ファイル、07では、リキッド・ファンディングの歴史的な意義について考察します。司法取引については、08で考えようと思っています。

  • ゴールド、09

    ゴールド、01」からつづくコラムでは、文明を人類の秩序構造として定義しています。私たちの文明では、信用構造は、金融資産を基礎に階層化されています。信用の裏づけになる担保は、再利用され、希薄化され、みかけ上の資産を大きくしてきました。

     ここまでの論議では、信用構造と金融資産が入り組んでいます。つきつめるなら、信用構造は文明の内部骨格です。金融資産は、信用によって生み出された派生物です。文明が築いた、信用構造の表層部分です。したがって、資産を信用という観点で整理し直す必要があります。

     信用の裏づけるコアは、不動産と金現物です。私たちの文明において、両者は資産の最終的な価値を担保しています。しかし、不動産は流動性にとぼしく、現金化するには多くの時間が必要なため、また金現物は信用構造を担保する側として、純粋な金融資産としては除外されます。

     金融資産は、つぎの3つのクラスに分類されます。

    1)担保明確化資産(Clear‑Collateral Assets)、概算総額20京円。

    2)担保希薄化資産(Collateralー Dilution Assets)、概算総額40京円。

    3)担保不詳化資産(Unspecified‑Collateral Assets)、概算総額70京円。

     この各資産クラスについて整理します。

    1)担保明確化資産は、信用の裏づけとなる担保が本来の形で機能している金融資産です。つまり、派生商品は一切ふくまれず、したがってレバリッジはつけられない資産です。担保明確化資産は、文明の基礎信用層に該当します。

     具体的には、上場株式、未上場株式などの株式現物。一般的な国債、社債、地方債、財投債、事業債などのストレート債券。預金。銀行貸し出し(ローン)。投資信託、ETF、MMF。売掛金、買掛金、手形などの商業信用。中央銀行のマネタリーベース、などが考えられます。金融資産から流動性の低さによって除かれた不動産の一部は、リートという形式を取って、ここに組みこまれています。

    2)担保希薄化資産は、信用を裏づける担保が再利用されることにより希薄化(レバレッジ)された商品です。担保濃度が下がることによって、信用が増幅されたようにみえる資産クラスでえす。

     具体的には、 MBS、ABS、CLO、CMBSなどの一次証券化商品(Securitized Products)。レバレッジETF(2倍、3倍)、インバースETF、コモディティ連動レバETF(原油・金・銀など)のレバレッジつき投資信託、ETF。先物取引(Futures)、オプション取引(Options)などの、取引所CFD(差金決済取引)。証拠金を用いる標準化デリバティブ(取引所取引)。信用買い(証拠金を入れて株を買う)、信用売り(空売り)などの貸株、借株(Securities Lending)信用取引、証券金融。レポ取引(国債などを担保にした短期資金調達)、シンプルな再レポ(同一担保の限定的な再利用)などのレポ取引(Repo)とその一次的な再利用。住宅ローン等を担保にしたカバードボンド(Covered Bonds)。これらが該当します。たとえばペーパーゴールドは、現物金を証券化した再証券です。したがって、現物金の担保性は再利用され、希薄化されています。デリバティブ商品は、大部分は2)となり、一部は3)に属すことになります。

    3)担保不詳化資産は、担保構造がすでに不詳となっている資産クラスです。この資産クラスは、文明の信用構造の枠外に位置しています。すべて派生商品ですが、レバレッジの有無は問われません。通常、詐欺的目的でつくられるために高倍率のレバレッジがつく資産クラスです。

     具体的には、一次証券化商品(MBS・ABS・CLO)をさらに再パッケージした再証券化商品(Re‑securitized Products)。 CDS(Credit Default Swap)とその派生構造。同一担保の多重再利用、プライムブローカーによる担保再利用など、 担保が何度も再利用され、誰のものか不明になる再担保化チェーン(Re‑hypothecation Chains)。SPV(特別目的会社)、SIV、ABCPコンジット(資産担保証券の短期ファンディング)です。

     この資産クラスは、担保構造を前提としないため、 見かけ上、バランスシート外で信用を増殖する影の器として機能します。エプスタインのリキッド・ファンディングは、プロトタイプだったと考えられます。店頭スワップ(IRS、通貨スワップ)、店頭オプション、店頭CFD、店頭フォワードなどは、担保が限定的で、実体のない差金決済が中心です。つまり名目元本だけが巨大化する、差金決済型の店頭デリバティブ(OTC Derivatives)です。海外FX(100~1000倍)、店頭CFD(差金決済)などは、 原資産はありますが実体とは無関係に信用だけが増殖する、 店頭レバレッジFX(高倍率の証拠金取引)です。さらに、裸の空売り(Naked Short Selling)、貸株の再貸し(再々貸し)などショートポジションの空売りの連鎖(ショートチェーン)は、実体株がどこにあるのか不明になっています。

     この分類は、信用の源泉となる担保構造に基づいてつくられています。したがって、金融業界の分類とはまったく体系が違いますが、文明が生みだした全商品を網羅することができます。1)、2)、3)の総額は、130京円という規模になります。

     歴史的には、1)担保明確化資産の10~20%を、金が裏づけしてきました。具体的には、2~4京円です。金価格としては、2~4万ドルです。

     2)担保希薄化資産、3)担保不詳化資産は、アイデアは古くからあった詐欺の手法でしたが、近代になって合法的につかう方法が発明されました。

     2)は、希薄化されながらも信用と関わりがあるとすれば、60京円規模の金による裏づけが必要となります。金価格としては、6万ドルです。担保不詳化資産が、1)、2)を合算した資産より大きい事実から考えるなら、最大130京円の20%、26京円規模の裏づけが必要となります。金価格としては26万ドルとなり、現在の50倍以上です。これは事実上裏づけが困難だということを示しています。3)の部分は、がんらい裏づけられることを前提としていませんから、つねに崩壊危機を抱えていることを意味します。

     いずれにせよ、こうした商品が社会的に流通している以上、なんらかの裏づけがなければ破綻してしまいます。この50年間は、アメリカの信用に依存してきました。

     基軸通貨が揺らぎ始めた現在、裏づけは原点の金に回帰しつつあります。

    日本語名称英語名称構造的意味
    担保明確化資産Clear‑Collateral Assets担保が一対一で明確、レバなし、文明の基礎信用層
    担保希薄化資産Collateral‑Diluted Assets担保はあるが、証券化、レバレッジで信用が膨張
    担保不詳化資産Unspecified‑Collateral Assets担保の所在が不明、再証券化、再担保化、店頭デリバ等
  • ゴールド、08

     レバレッジ( leverage)とは、裏づけになる担保を希薄化させることにより実体のない信用をつみ重ね、帳簿上の資本を増幅させる仕組みです。保有する資本以上に取引規模を膨張させ、差額だけで利益と損失を決めるシステムです。レバレッジの本質は、担保希薄化増幅装置(Dilution‑Degree Device)で、帳簿上の資産を増幅させます。 実体をもたないままに担保を再利用する、デリバティブの効力を巨大化する増幅装置として機能しています。

     レバレッジという言葉は、「てこ」レバー(lever)から由来しています。てこの中心から片方の距離だけを長くすれば、2倍、3倍の力を生むことができます。理論的には、10倍、100倍、1000倍も可能です。歯車によるトルク効果とも似ていますから、ギアリング(gearing)とも呼ばれます。

    ゴールド、06」で問題にした名目元本(Notional)は、文明が生みだしたデリバティブという担保再利用契約装置で、レバレッジによって担保はさらに希薄化されます。次回、「ゴールド09」で詳述しますが、このコラムでは、担保構造の違いをもとに金融資産を3つのクラスに分割します。

    1)担保明確化資産。2)担保希薄化資産。3)担保不詳化資産です。

     担保不詳化資産は、文明の外側に生まれた詐欺的資産と位置づけられます。

     レバレッジの歴史をたどると、現代金融が抱える脆弱性の根がどこにあるのかがみえてきます。

    1)単純レバレッジの時代(~1970年代まで)

     レバレッジは、デリバティブの普及とともに本格的に生まれたと考えられます。株式担保融資や信用取引は、企業価値を担保とした現物株式を用いる仕組みです。一般金融では、デリバティブと異なるとされます。しかし、担保を一度でも再利用したとき、デリバティブは成立します。倍率が高いか低いかは本質ではありません。倍率が2未満であれば、小さいレバレッジが効いていると考えるべきです。ペーパーゴールドも株式担保融資も、担保を再利用する以上、構造的にはデリバティブに属します。

     レバレッジは、1970年代までは、株式の信用取引に限定されていました。デリバティブが本格的に制度化されると、担保希薄化増幅装置として機能しはじめます。

    2)構造的レバレッジの時代(1980~2000年代)

     レバレッジは、デリバティブの普及によってさまざまな商品に拡大していきました。先物、オプション、スワップでは、 名目元本(notional)という実体のない参照額 をつかいます。レバレッジは、担保の希薄化増幅装置となり、倍率は跳ね上がりました。先物やオプションのレバレッジは、10~100倍(証拠金として、取引額の 1~10%)に、金利スワップの名目元本は、実資本の 10~50倍に膨らみます。通貨スワップの取引規模は、100倍以上になりました。

     たとえば100億円の金利スワップでは、名目元本が契約として示されています。しかし、実際にはその額にみあった固定金利と変動金利の差額だけが交換されます。つまり、100億円は名目として存在するだけです。

     この段階で、レバレッジは デリバティブの増幅装置という構造が制度化されました。

    3)影のレバレッジの時代(2000年代〜現在)

     担保不詳化資産は、文明の信用構造の外に生まれています。すでに明白な担保をもたない、レポ取引、空売り、証券化商品(CDO、ABS)、ヘッジファンドの総合レバレッジ、シャドーバンキングが、みかけ上、資産としてあつかわれます。担保不詳化資産は、デリバティブですがレバレッジの有無を問われません。しかし、詐欺的性格から高倍率のレバレッジが付随します。

     

    時代レバレッジ倍率担保の性質システムの安定性
    〜1970年代2〜3倍担保希薄化安定
    1980〜2000年代10〜50倍担保希薄化不安定化の始まり
    2000〜現在20〜100倍以上担保不詳化極度に脆弱

     現代の金融が非常に危ういのは、担保設定があやふやになっているからです。担保希薄化資産、担保不詳化資産が膨張し、裏づけになる担保が決定的に不足しています。その結果、小さな損失が巨大な連鎖を生み、流動性が一瞬で蒸発します。

     こうした資産を運用している金融機関の破綻は、金融システム全体に波及し得る状況が生まれています。

  • ゴールド、07

     今回のコラムでは、空売りの実態を考えてみます。

     空売り(ショート)は、投資家が、証券会社から借りた株を市場で売り、後日、買いもどし、返却するシステムです。その差額決済が、利益または損失になる仕組みです。 原資産にもとづく契約ではなく、それを借りて売る行為です。したがって国際決済銀行(BIS)の分類では、デリバティブ(先物、オプション、スワップ)には入りません。しかし、実際には「差額決済」というおなじ性格をもっています。レバレッジを効かせることができ、原資産を保有せずに価格変動に賭けるので、信用供与(担保希薄化)によって成立しています。つまり、経済的には、デリバティブとおなじ種類の構造をもつ取引です。 

     金融史を考察すると、空売りからデリバティブが出現してきた歴史を追うことができます。

    1) 空売り(ショート)の原点は、17世紀オランダのチューリップバブルでした。このときに、 信用供与と差額決済という構造が成立しました。

    2) 先物(フォワード)は、空売りの構造を契約化したものです。 原資産をもたずに、将来価格に賭ける手法です。

    3) オプションは、先物に権利を付与したものです。 手付金(プレミアム)は、空売りの証拠金から派生しました。

    4) スワップは、金利、通貨などの差額決済を体系化したものです。空売りの差額決済を、抽象化したものと考えられます。

     つまり空売りの信用構造が、デリバティブの母体となった歴史をみることができます。

     しかし「ゴールド、06」で話したように、手形の裏書きは、担保再利用を意味するので、歴史的には「空売り」よりも古く、デリバティブの原型とみなせます。

     私は、このゴールドコラムを通して、人類の文明に秩序が形成されたメカニズムを考えています。文明の基盤、骨格に相当するのは、信用構造です。信用が金融のメカニズムを支えています。

     裸の空売り(Naked Short Selling)とよばれる手法があります。これは、存在しない株を売る行為で、担保がゼロのまま信用だけを発生させる構造です。ほんらい投資家は、証券会社が保有する株を借り、市場で売却し、後日買いもどします。しかし、「裸の空売り」では、担保となり、やりとりされるはずの株が存在しないのです。これは、分類的には担保不詳化資産になります。

     裸の空売りは、 1630年代のオランダ(アムステルダム)に最古の記録をもつといわれます。 背景には、この時期、世界初の株式市場(オランダ東インド会社 VOC)が生まれ、世界初の先物、信用取引が考案されました。

    その後、世界初の投機バブルとして有名なチューリップバブルが発生しています。この時代に実在しない株を売る(裸の空売り)が横行したといわれます。

     当時は、証券の受け渡しが紙ベースで清算機関が未発達でした。誰が何株もっているのかリアルタイムで把握できなかったため、売り注文がでれば、とりあえず約定する市場構造が存在していました。つまり、 担保の所在が確認できない(担保不詳) という担保不詳化資産が発明されたことになります。

     19世紀後半、アメリカの鉄道株バブルでも裸の空売りが横行し、問題になりました。実在しない株券を大量に売り、株価を暴落させることで企業は破綻に追いこまれました。もちろん売り手は、無価値になった株を買いもどすことで莫大な利益を獲得しました。

     現代では、市場の透明化が論議されるなかで、むしろ増えているといわれます。証券の受け渡しが電子化され、実体株の所在が曖昧になるとともに清算機関(DTCC)が巨大なブラックボックス化しています。大口投資家が「仮想的な株」を無制限につくれる構造になっています。ここには、レポ市場、貸株市場、担保再利用化が複雑に絡んでいます。担保ゼロで虚構の信用を発生させる裸の空売りは、21世紀の方が横行しやすい環境になっています。

     大口投資家は、清算機関と結託しています。現代の裸の空売りは、 清算機関(DTCC)と証券会社の黙認 によって成立しています。制度が大口の裸売りを前提に設計されているのです。買い方は、有限な担保明確化資産を使用しますが、売り方(裸売り)は無限にうみだされる担保不詳化資産をつかい、売り圧力をいくらでも拡大できます。これでは、勝負になりません。

     裸の空売りは、文明が最初に生みだした「担保不詳化」でした。近代、デリバティブ、レバレッジという発明によって行きついた、 担保不詳化資産のプロトタイプです。

     空売りは、1)価格発見に役立つ。2)流動性を提供する。3)過熱を抑える。とされ、必要悪といわれます。しかし、 原資産をもたず、担保希薄化によって成立し、本質は差額決済でレバレッジを賭けることができます。市場のゆがみを大きくし、大口の参加者に利益をもたらすシステムです。金融資産を担保構造の外側で膨張させます。実体経済とは無関係に価格をうごかし、信用を裏づける担保構造を不安定化させます。これらは 文明の基盤を侵食する構造と考えられ、絶対悪とみなすべきだと考えています。

  • ゴールド、06

     最近、よく目にするデリバティブとはなんでしょうか?

     これを理解しないと、金融資産という全体像がみえてきません。さらに、空売り、レバレッジを考えないと、金融がかかえている問題を充分に知ることができません。ゴールド06、07、08のコラムでは、こうした言葉を整理してみたいと思います

     株式は、社会が評価した企業の価値を株数に応じて分割した資産です。企業価値への請求権で、一般的には債券には属しません。企業が解散、清算されるばあい、資産の分配順位が決められています。1)担保付き債権者、2)一般債権者、3)劣後債権者、4)株主です。株式には、元本返還義務がつけられていません。配当は、企業の裁量権に任され、義務化されていません。したがって、市場が開いているかぎり現金化できる劣後無期限債券とみなせば、大枠では債券とよべます。

     デリバティブ( derivative)とは、現物資産や現物商品などを担保としてつくられた債券を再担保した契約を指します。担保化された債券を再利用するため、「金融派生商品」(financial derivative products)ともよばれます。

     デリバティブ取引は、債券、株式、船荷証券、不動案担保証券などの現物商品や諸権利を取りあつかう事業者が、現物の将来的な価格変動のリスクを回避(ヘッジ)するためにつくられた契約です。担保された債券の一定割合を証拠金として供託し、ある程度の価格変動を他の市場参加者にしてもらう保険(リスクヘッジ)契約です。

     担保が現物資産によっているばあいを、担保明確化資産とよびます。デリバティブの本質は、担保再利用契約装置です。担保の希薄化を通じて、みかけの信用力を膨張させます。したがって、デリバティブ資産は、担保希薄化資産、あるいは、担保不詳化資産に分類されます。

     このコラムと並行して考察しているエプスタイン・ファイルでは、リキッド・ファンディングという非常に不透明な手法がつかわれています。このファンドは、あきらかな担保をもたない、虚構的な担保不詳化資産と考えられます。こうした大事件の基盤をつくった手法は、ますます複雑化し、総額も巨大になっています。

     デリバティブは、リスクヘッジ以外に、投機(スペキュレーション)、裁定取引(アービトラージ)などで、差金決済取や空売りとして利用されています。いずれにせよ、現物資産を担保とする株式などを再担保とて契約します。つまり、デリバティブの本質は、担保を再利用し、希薄化する契約装置です。

     デリバティブ市場は、大きく2つに分類されます。

     店頭デリバティブ(OTC)は、金融商品取引所などの公開市場を通さない方法です。いっぽう、市場(上場)デリバティブは、公開市場を介する取引です。

     取引規模としては、店頭デリバティブが圧倒的に巨大です。この手法は、1980年代初頭に、ユーロカレンシー、ユーロ債市場で急拡大しました。バランスシートに記載されないオフバランス取引がどうどうと行われていました。

     世間の批判を受け、デリバティブの透明化を図ろうとする審議は、さまざまなに行われてきました。しかし、実際には厳しい基準はもうけられず、規制が緩い状態が長くつづきました。2008年、エプスタインがかかわったリキッド・ファンディングをふくむサブプライム危機で社会的に大きな問題となり、証拠金規制は強化されましたが、不透明は部分は多くのこっています。

     デリバティブ市場がどれほど巨大なのか、 国際決済銀行(BIS)の報告書を検討してみます。2022年末の統計によれば、店頭デリバティブ(OTC)名目元本、約 630兆ドル(95京円)、取引所デリバティブ、約100兆ドル(15京円)といわれます。単純に合計すると、110京円という、普通の感覚としては理解しがたい規模です。

     名目元本(Notional)とは、デリバティブ契約の総額を指し、実際にうごくお金ではなく、担保の希薄化を通じて文明が許容している信用の総量ととらえられます。 なかには契約の重複もみとめられ、毎日膨張し、収縮しているので、変動幅は大きいと考えられます。これは「ゴールド、01」でお話した担保明確化資産、20京円の5倍に相当します。

    ゴールド、02」 の分析で、金価格は20000ドル、現在の4倍を目指すだろうと記載しました。その根拠として、歴史的にローマ帝国や歴代の中国王朝が、全金融資産の10~20%程度の金を裏付けにしていたことを挙げました。この全金融資産とは、基本的には担保明確化資産を意味します。とは言え、当時すでに手形の再利用などが認められています。我が国でも、江戸時代に武家が前借りした俸禄を担保とし、融資を受けたばあいがあります。したがって、担保希薄化資産もあったはずですが、全体のなかでは、きわめて限定的だったと考えられます。また、近代まで担保なしに貸借契約結ぶことは、不可能でした。

     現代は、デリバティブの担保希薄化により、みかけの金融資産は急速に膨らんでいます。デリバティブ市場、110京円の10%なら、11京円となります。この部分を裏づけるだけで、金価格は11万ドルに上がることになります。

     現在の20倍という桁外れの額になりますので、ワンクッションおいてみた、というのが実際の話です。