• ゴールド、15

     6月30日の取引で、金価格が1%超下落している。月間ベースで​は2008年10月以来最大の下げとなる見通‌し。中東情勢を巡る不透明感が後退する一方、米国で高止まりするイン​フレを抑制するための利上​げ観測がつよまっている。

     金現物は0221GMT(⁠日本時間午前11時21分)時点で1.5%安の1オン​ス=3956.92ドル。月間では12.7%下落しており、4カ​月連続の下落となる見込み。米金先物8月限は1.7%安の3969.30ドルとなっている。

     4半期ベースでも24年以​来となるマイナスを記録す​る見通しで、下落率は13年4~6月期以来の大きさとな‌りそ⁠うだ。イラン戦争でエネルギー価格が急騰し、インフレ懸念と利上げ観測が強まったこと​が背景。

     マレッ​クス⁠のアナリスト、エドワード・メイア氏は「高イン​フレ、高い利上げ観測、​ド⁠ル高がそろっており、これらが通常は金相場の上昇につながる⁠強気​要因を全て打ち消​している」と指摘した。

                       ロイター、 6月30日                        

     7月に入ったので、金価格の現状を確認し、予想を立ててみたいと思います。4月の時点では、ここまでの下落は考えなかった展開です。しかし、アナリストの高インフレ、利上げ予想、ドル高という指摘は、金価格の現状を説明していません。どちらかというなら、金が買われてもいい話ばかしです。

     金価格の低迷は、あきらかにAI相場の過熱がもたらした短期的な状況です。スペースXの上場も、金から資金が流出した原因だと思われます。利食いと損切りで、金市場から株式市場への資金シフトが生まれた結果だと思われます。

     6月単月の下落幅は、-12.7%で4ヵ月連続の陰線をつくりました。4半期で15%下落は、2013年Q2以来です。 6月単月の下落幅は、-12.7%で4ヵ月連続の陰線をつくりました。4半期で15%下落は、2013年Q2以来です。2026年4月から6月までの4半期、金ETFからの推計流出額は、60億ドル規模です。

     2026年6月のAI関連株の資金流入は、700~900億ドルという巨額でした。スペースXの上場規模は、1000億ドルを超えたとみられます。短期筋は、金を売ってIPOに参加したと思われます。

     いっぽう、2025~2026年の中央銀行の金購入量は、年間1000~1200トンで、過去55年で最大規模でした。国別では、中国、トルコ、インド、ポーランド、シンガポールなどです。これらは「構造的な買い」で、 短期筋の売りとは性質がまったく違います。

     4000ドルは、2025年の10月に揉みあった価格帯で、ここを下抜けると3400ドルまで支持線がありません。4000ドルで揉みあった期間はとても短いです。厚みがあるのは、2024年前半の2000ドルになります。

     個人的には、4000ドルを割っていくのは難しいと思います。各国の中央銀行が買いにまわっている以上、構造に変化はありません。IMFの委員が「ドル離れの兆候がみえない」というのは、立場の苦しさを表現しています。

     週足の79本線が、3900ドルくらいです。割り込んでも、ここまでです。もしここを下回ってくるなら金の役割に変化があったとみなしても良いでしょう。

     AI相場の反動局面では、短期筋が金から資金を引きあげているので、若干の調整はあっても、金価格は上昇に転じると思われます。ここまで下げましたので、しばらくは、週足31本線、4900ドルまでくらいのボックス圏で推移すると予想されます。

     とはいえ、ずっと注目しているマーカーが上昇しはじめたことは事実です。そろそろ、一波乱が起こりそうな予感がします。

     いちおう、2026年9月末、4600ドルと予想します。

                              由布木秀

  • 貯蓄率

     家計貯蓄率とは、貯蓄額を可処分所得(個人が自由に消費できる所得)で割った比率です。貯蓄には、預金や投資がふくまれます。

     日本は貯蓄率が高い、とよく話題にされます。日本人が金持ちというのも、過去はともかく現在では眉唾です。こうした話題は、つねに浪費大国アメリカとの比較で成立しています。基軸通貨国のアメリカは、世界中から労働力や消費財などの「富」が集中する結果、いびつな構造をかかえています。ものが常時あふれているために、消費が美徳になります。

     アメリカの家計貯蓄率は、3~5%です。コロナ給付金時には、一時的に20%を越えていたいました。その後は、マイナス圏に落ち込むこともあります。アメリカ人は、貯蓄しないのではなく、借金で生活しています。これは「ストック」ではなく、「フロー」で生きているとも表現できます。こうした異様な国と比較しても、ほとんど意味をもっていません。

      OECD(経済協力開発機構)のデータから日本の家計貯蓄率をみてみます。 1990年代は、10~15%と高い数字でした。しかし、2025年は、4.1%です。2025年の統計では、

     1位、スウェーデン、16%

     2位、ハンガリー、14.3%

     3位、チェコ、13.7%

     4位、フランス、12.8%、とつづいています。

     欧州の多くは、8~16%と高くなっています。計算方法が必ずしも同一でないので、数字は豊かさと直結しているわけではありません。しかし、日本の4.1%は、アメリカ4.7%、カナダ4.7%よりわずかにひくく、OECD、加盟国38ヵ国のなかで30位前後です。つまり、 日本が世界の国々と比べて貯蓄率が高かったのは過去の話で、現在はアメリカ以下になっている事実は重大です。

     貯蓄率の差は、年数をかけて貯蓄という金融資産にかわり、やがて不動産や相続をふくむ資産(ストック)として固定化されます。したがって貯蓄の話は、最終的には資産の論議にいきつきます。

     日銀の資料では、2025年12月末時点で、日本の家計金融資産は2351兆円だと発表されています。日本の総人口は、1億2400万人と推計されますので、国民ひとりあたり1895万円です。

     この数字だけをみると、老後の2000万円問題も杞憂とみなせます。しかし、もうすこし精査する必要があります。

     金融広報中央委員会などの統計では、日本では、上位10%が家計資産の60%を保有しています。さらに総務省の家計調査では、 下位20%の貯蓄額の中央値は、「ゼロ円」 という衝撃的な数字がでています。

     これは単純に、「貯金がない」という意味ではありません。統計上の「貯蓄額」は、貯蓄(預金、保険、金融資産)から、 負債(借金、ローン)をひいた金額です。10万円の貯金をもっていても、10万円のカードローンがあれば、貯蓄額は0円になります。

     こうした問題は、日本の資産構成を考慮しないと、意味している事実がみえません。前回の「生活保護」からはじまるコラムは、貯蓄率の構造を検証し、貧困問題を考えます。

     次回は、「貯蓄大国」日本の真実を検討してみます。

                              由布木秀

  • 円安、06

     なぜ、世界各国で通貨安競争が生じ、インフレが加速しているのか、さらに行く末はどうなるのかという論議は、専門としている方々がたくさんの教説を書いています。

     このコラムは、現代の信用構造、権力構造を探求する目的をもっていますので、私見を述べておきたいと思います。

     まず現代は、技術革新が起こる端境期にあたっている可能性が高いのだろうと思います。昨今の生成AIからはじまる大相場は、素材の半導体、データセンターの建設などで、技術革新を先取りしている可能性をもっています。10年後、市場が描くとおりの世界が到来したばあい、生産性が急激に上昇し、働き方をふくめた人同士の関わり方や、社会制度などが激変する可能性を考えるべきです。

     つぎに、富がどういう形式でストックされてきたか、を問うことになります。エプスタイン・ファイルでも論考していますが、エプスタインは、天才に値する資格をもっています。彼は、リキッド・ファンディングによって、担保不詳化資産を法律の枠内におさめる手法を考案したのです。ネズミ講や出資金詐欺は、世界中のどの国でも犯罪行為です。なぜなら、集めたお金に対して裏づけとなる担保が存在しないからです。エプスタインは、担保が不明確な証券を合法的に資産化して売りだす手法を考えだしたのです。彼が「数学の天才」といわれる所以は、ここにあります。

     こうした方法が合法化されることにより、預金通貨は莫大に膨張しました。担保不詳化資産が発明されるまで、資産の拡大には制限がついていました。借金するにしても、浪費するにしても、担保によって上限が決められていました。2000年以降、金融の世界では、この構造が破壊されました。その結果、通貨供給量が爆発的に増大し、通貨安が起こり、インフレが招来されています。

     根源的な問いは、AI社会による急激な生産性の向上が、担保希薄化資産や、担保不詳化資産までも許容するのか、ということです。

     ここで、ストックがどのように目にみえる形(おもに不動産)になるのか、考えてみます。

     あらゆるストックの源泉は、人間の労働力です。領主は、領民にたいし、週に1回ないし2回の賦役を課します。貨幣経済が末端まで拡張すると、この賦役は通貨によって払われます。賦役は、地代、年貢、人頭税と名称を変えながら支払われつづけます。この積み重ねが、富(ストック)をうみだします。土地に値段がつくのは、さまざまなインフラを行い、価値を付加されたからです。その源泉は、人の労働力によっています。技術革新は、労働力を爆発的に増加させます。しかし、機械を運転するのは人間の役割です。本質的な構造は、AI社会になっても変化しません。

     私たちの社会は、産業革命以降、500年以上にわたり、 技術革新によって富を蓄積してきました。 しかし、20世紀に起こった2度の世界大戦と、その後の軍拡競争は、 この富を徹底的に浪費しました。 技術革新が生んだストックを、戦争が食いつくしたのです。 さらに担保不詳化資産を文明に組みこむことで、通貨供給量が増し、無益な浪費につかわれました。

    ゴールド09」で、人類文明の信用構造を明示しました。

    1)担保明確化資産(Clear‑Collateral Assets)、概算総額20京円。

    2)担保希薄化資産(Collateralー Dilution Assets)、概算総額40京円。

    3)担保不詳化資産(Unspecified‑Collateral Assets)、概算総額70京円。

     ※ これは、私が独自に担保構造をもとに分類した資産クラスです。金融学ではつかわれていませんが、すべての資産を説明できます。くわしくは、ゴールド01からのコラムを閲覧してください。

     フローを蛇口からでる水の量、ストックを浴槽に貯まった湯量とします。底の栓からは、生活にかかる費用だけ流出していきます。技術革新によって蛇口をもっと開けることができれば、いままでよりも水量(フロー)が増えることになります。底の栓に変化がなければ、浴槽の湯量(ストック)はふえます。

     たとえ、AI社会がきても、2)、3)のすべてを生産性の向上でカバーできるとは思えません。現在、1)~3)まで、130京円の通貨が供給されています。これに対して、ストックは20京円しかないのです。(この数字はかなり大まかで、不動産は、リートとしてのみ組みこまれています)

     現在、担保価値の6.5倍の資産が許容されています。これは、蜃気楼みたいなものです。みんなが存在すると思っていて、はじめてみえる影です。もし、実態がないことに気づいたら、担保価値まで収縮します。技術革新はフローを増すだけで、ストックを増加させるのではありません。最終的には、ゴールドの価値に収束すると思います。不動産は、価値ある資産ですが、流動性にとぼしいのです。みんなが売りたいと思ったときには、供給過多になり一気に収縮します。

     流動性をもって存在する担保は、ゴールドだけです。

                              由布木秀

  • 円安、05

     アジア開発銀行(ADB)は4月末、26年のアジア太平洋新興国・地域の成長見通しを従来の5.1%から4.7%に、物価上昇率は3.6%から5.2%にそれぞれ修正した。

     アジア新興国は中東へのエネルギー依存度が高く、石油備蓄も少ない。燃料不足が物価上昇を引き起こしやすい。「ほとんどの国はスタグフレーションを経験したことがない」(カシコン・リサーチのラリタ氏)ため、政府や中銀の対応余地は限られる。 

     第一ライフ資産運用経済研究所の西浜徹氏は「10年代の『アラブの春』は若年層の失業や食料インフレなどが引き金になり政情不安が広がった」と話す。

     さらにリスクを高めるのが自国通貨安だ。フィリピンペソやインドネシアルピアは対ドルで最安値圏にある。今後米国が利上げに動き、新興国から資金が流出すれば「通貨防衛を目的とする金融引き締めも効きにくく、結果的にスタグフレーションに落ち入る場合が多い」(西浜氏)。

     バングラデシュやネパールのように政変後の選挙を経て新たな政権が発足した国々も多い。政権基盤が脆弱な場合もあり、新興国に進出する企業は注意が必要になる。

                  日経記事、2026年5月22日

     2008~2026年「世界通貨、構造指数」をみてみます。

     構造指数とは、ドルを100としたときに、各通貨の「長期的な通貨の強さ、脆弱性」を示す筆者独自の目安です。

    順位通貨構造指数(目安)長期評価構造的特徴
    1韓国ウォン70〜85中間だが脆弱外貨建て短期債務が大量
    2日本円70〜85
    中間→
    弱い側へ
    高齢化
    低生産性
    3
    バーツ
    70〜85中間観光
    輸出依存
    4フィリピン
    ペソ
    55〜70弱い貿易赤字インフレ
    5インド
    ルピー
    50〜70弱いインフレ外貨依存
    6インドネシア
    ルピア
    45〜65弱い債務の罠資本流出
    7ブラジル
    レアル
    40〜60弱い政治不安インフレ
    8南ア
    ランド
    40〜60弱い資源依存政治不安
    9ロシア
    ルーブル
    10〜20崩壊的(別枠)制裁
    資本規制

     ロシア・ルーブルは、ウクライナでの戦費と国際的な制裁をうけて、すでに崩壊状態です。

     トルコリラの構造指数は、20〜30ときわめて低い水準です。外貨建て債務が積みあがり、慢性的な外貨不足に落ち入っています。さらに政策の不安定性が重なり、通貨価値が構造的に弱くならざるをえない状態です。

     ブラジルレアルに象徴されるように南米は、政治不安と輸入インフレ、通貨安に苦しんでいます。

     南アフリカランドは、長期チャートでは、ほぼ一直線に下落しています。10年単位でも、もどり局面が存在しません。反発してもかならず前回安値を割りこんでいます。原因は、外貨を安定的に稼ぐ力が弱く、経常収支や財政が慢性的に脆弱なためです。また政治リスクが恒常的に高く、鉱物資源に依存するため価格変動に弱いことなどが挙げられます。

     なかでもいちばんの特徴は、いままで世界を牽引してきたアジア諸国が通貨安と、輸入インフレから抜けだせないことです。

     通貨安競争のつぎに起こるのは、景気停滞と物価上昇が同時に進行する「スタグフレーション」です。通貨安によって輸入インフレが起こっても、財政赤字とドル建て債務の構造から利上げができません。さらに通貨安をまねく、悪循環がくりかえされています。

     スタグフレーションは、弱い通貨国からはじまります。

     この表で分かるとおり、まずアジアの弱い通貨、インドネシア・ルピア、インド・ルピー、フィリピン・ペソ、タイ・バーツがさらにドルに対して安くなり、輸入インフレのなかで経済停滞に落ち入ると思われます。つぎに、南米各国とアフリカ諸国がつづきます。さらに、日本、韓国、オセアニアが、インフレと景気悪化というスタグフレーションに突入します。

     アジア、南米、アフリカが景気停滞に落ち入って需要が減少すると、輸出に頼っていた中国経済は深刻な危機に落ち入ります。中国の内需は、不動産市場をはじめ、ぼろぼろの状態です。いまでさえ、中国政府が出す公式資料は疑義がついていますが、隠しきれない状況になります。中国は、バブル後の日本のように銀行を整理することができません。内部の不満のはけ口は、やがて台湾にむかう可能性があります

     いずれにせよ、いいシナリオが浮かんできません。

     デフレのころ、ニュージーランドへの移住を礼賛していた論者がいました。その論説にしたがっていたら、通貨安、金利高、住宅市場の三重苦にまきこまれていたでしょう。ニュージーランドドル(NZD)の構造指数は、65~80で、日本円、韓国ウォンよりも弱いくらいです。経済規模が小さく、外貨建て債務が多いことが特徴です。経済は農産物に依存するために、景気は外需によって左右されます。危機時には資本が逃げやすい、つまりドル高になると真っ先に下落する通貨です。また、ニュージーランドは 、OECD でもトップクラスの住宅価格高騰国です。金利を上げると住宅市場が崩れ、金利を下げると通貨が崩れるという日本とそっくりな、 政策の自由度が極端に低い状況です。

     どの通貨も、一時的に高くなったり安くなったりをくりかえします。どうしてそうなるのか、よく構造を考えてから行動しないと、取り返しのつかない事態に遭遇することになります。

                              由布木秀

  • 円安、04

     2008年は、「世界の金融構造が破壊された年」でした。リーマン危機は、以下の変化をうみだしました。

    1)危機のたびに、米国だけが安全資産の「米国債」を無制限に供給することができました。世界の金融システムは、担保として明確に評価できる米国債を必要とし、その結果としてドル依存体質がさらにつよまりました。

    2)各国で、金融政策の自由度が減少しました。金利ゼロのまま抜けだせない国になった日本は、象徴的です。

    3)新興国は、「外貨建て債務の罠」に入りました。通貨が弱い国は、信用力に劣るために自国通貨では借金ができません。ドル建ての債務は、ドル高になると増加します。債務が大きくなると、さらに通貨が下がるという、負のループがくりかえされます。

     2008年以降の世界では、米国だけが安全資産とされる米国債を無制限に供給できるドルの1強体勢が固まり、その他の通貨が弱体化する構造が確立しました。

     2010~2019年まで表面上は安定し、超低金利や量的緩和などによって、通貨の長期トレンドがゆっくり進行していきました。

     2020年のコロナショックは、世界の金融構造の脆弱性をあきらかにし、その崩壊速度をさらに加速させました。世界各国は、従来とは桁違いのゼロ金利や量的緩和政策に突入しました。供給網が寸断されて、コストプッシュインフレが進行し、物価は通貨が弱い国ほど暴騰しました。米国だけが金利を上げられたため、円や新興国通貨は、ドル高によってさらに弱くなりました。

     2008~2026年「世界通貨、構造指数」をみてみます。

     構造指数とは、ドルを100としたときに、各通貨の「長期的な通貨の強さ、脆弱性」を示す筆者独自の目安です。

    順位通貨構造指数(目安)長期評価構造的特徴
    1スイスフラン140〜150最強安全資産受け皿
    2英ポンド120〜130強い金融立国信用遺産
    3ユーロ95〜105安定第2
    基軸通貨
    4人民元95〜100安定
    表面上
    管理通資資本規制
    5ドル100
    (基準)
    世界の
    アンカー
    基軸通貨最終避難

     これらは、米ドルにたいして同程度か、つよいとされる通貨の一覧です。しかしながら、人民元(CNY)は、中国当局によってドルとの比率をたもつように厳しくコントロールされた「管理通貨」です。自由変動通貨と同列に比較できず、実力よりも高水準で維持されている可能性が高いと考えられます。

     スイスフランは、世界最大級の「安全資産」として機能しています。政治的な安定や法制度のつよさによって永世中立国が維持され、国家破綻リスクは、ほとんどないと考えられているからです。資本規制の緩さも好感され、伝統的に世界の富裕層の資産を預かる銀行国家としての地位をきずいてきました。経常黒字国家で、巨大な外貨準備をもつことも信用構造をささえています。世界シェアが5%以上の国にかぎれば、自国通貨を大量に売っても市場が壊れない国は、実質的にスイスだけです。

     ポンドは、2008年以降の構造指数が120〜130と高い位置にあります。しかし、現在の英国経済のつよさを反映したものではありません。1970年代のポンド危機以降、ポンドは長期的に売られつづけてきました。その結果、通貨価値が大きく調整された反動で、2008年以降、相対的につよくなっている側面があります。

     英国は金融立国としての地位を徐々にうしない、ポンドは長期チャートでは明確な右肩下がりの通貨です。それでも急落しにくいのは、19世紀から20世紀前半にかけて世界の金融センター(シティ)として築いた歴史的信用の残滓が、現在も通貨価値を下支えしているためです。ただし、この歴史的信用が持続するかは保証できません。

     ユーロは、構造指数では95〜105と安定した通貨に分類されます。しかし、そのつよさは、単一国家の信用ではなく、複数国家の平均値として成立している特殊な構造にささえられています。域内には、財政力や競争力に大きな地域差が存在します。ユーロ圏の信用の柱だったドイツが財政問題で苦しみはじめたことは、ユーロの内在的な脆弱性を象徴しています。ユーロはつよい通貨でありながら、その基盤は均質ではなく、内部に不均衡をかかえたまま維持されていると考えられます。

                              由布木秀

  • 円安、03

     円安が阻止できない現況は、「円安、02」で話題にしました。このコラムでは、4回シリーズで円安の周辺を検討します。

    03.現象としての、世界通貨安競争。

    04、通貨安の背景。

    05、その未来に生じる、スタグフレーション。

    06、こうした現象と未来をうむ、真の原因。

     通貨安競争とは、各国が自国通貨で換算される労働力などの価格を相対的に引き下げる政策を指します。自国通貨を安くすることによって失業率を低下させ、資源稼働率を上昇させるうごきが世界中で同時におこる事態を指します。自国の通貨が安くなると、輸出に有利に働きます。

     通貨安競争は、1929年の世界恐慌でおこったといわれます。イギリスは、1931年にポンドを切り下げました。1936年、三国通貨協定まで多くの欧州諸国が追随して通貨を切り下げました。 この時代は、金本位制を放棄して自国通貨を切り下げ、国内の貨幣供給量を拡大した国ほど、早く不況から脱したことが知られています。

     2008年以降のゼロ金利、量的緩和政策は、「通貨政策の転換点」だったといわれます。リーマンショック後、世界は債務を清算しない方針を採用しました。不良資産を破棄せず、経済を縮小させない代わりに、中央銀行が無限に通貨を供給しました。つまり、破綻を先送りする方向に舵を切りました。

     2009年、世界貿易量は、前年に比べて12%減少しました。深刻な経済沈滞にともない、通貨安競争の条件が出そろいます。先進国では、財政赤字の大きさが不安視されます。輸出主導の経済成長を最適な戦略とみなすなか、ますます新興国経済との関係が切り離せなくなりました。

     2010年には、欧州(ECB)とアメリカ(FRB)の金融緩和政策が、世界経済に過剰流動性をもたらし、為替レートを不安定化させました。ブラジルや日本などの国々は、自国通貨高を抑制する政策を行いました。追加の金融刺激策では、世界の需要不足によって生じた問題を解決できないことが分かっていました。

     2013年のモスクワ、G20財務相、中央銀行総裁会議では、「通貨の競争的な切り下げを回避する」と明記され、通貨安競争を避ける方針で一致しました。しかし、日本の日銀総裁や欧州諸国は、自国通貨安による経済へのプラス面を強調しました。

     通貨安競争は、1930年代と現代では、構造が違っています。まず、金本位制がくずれています。資本移動は自由にされ、中央銀行は恐慌をひきおこさないように、量的緩和、ゼロ金利、YCCなどの施策を行いました。通貨安によってインフレが増幅し、通貨安競争は、出口のない緩和競争に変質しています。

     具体的には、中国の人民元安政策は変更できなくなっています。内需が弱く、輸出依存度が極度に高いため、人民元高は致命的です。人民元安は、中国の命運をにぎっています。

     総人口で世界一になり、人口ボーナスがみこまれ、世界経済の牽引役をつとめるはずの、インドルピーも安くなっています。

     通貨安国では、外貨準備の中心となる米国債を売りにくい構造が生まれています。米国の反発だけでなく、米国債を売却すると自国通貨がさらに下落し、通貨危機を招くためです。基軸通貨との比較で決まる通貨安競争では、弱い通貨国ほど米国債をうごかせなくなり、外貨確保のために金を売るしかなくなります。

     2026年のトルコは典型例で、深刻なドル不足のなかで、換金性の高い金を売却した可能性がつよいと考えられます。

     いっぽう日本は、外貨準備として米国債を大量にもっていますが、円安になっても売ることができません。

     通貨安競争は、基軸通貨との比較で決まる非対称な構造をもっています。これは、ドル体制の歪みを象徴しています。

     金は、流動性に富んでいるため、ドル不足国では売られることになります。いっぽう、ドル過剰国では金が買われます。このため、世界の中央銀行の外貨準備に占める金の比率は、2025年末に27%となり、米国債の22%を上回りました。つまり、 金市場は通貨安競争の裏側ともいえます。 

     2008年の緩和政策によって、世界各国は財政赤字を積みあげました。国債残高は膨張し、金利上昇による利払いは国家予算を圧迫します。利上げすると、国家が危機に落ち入る構造ができてしまった。

     利上げできないなら、 輸出で景気を支えるしかありません。各国は、金利を上げずに通貨安を容認し、量的緩和(QE)を継続しました。金融緩和で景気を支えようとした結果、 通貨安競争が本格化します。1930年代と違うのは、金本位制がないため、通貨安競争に歯止めがなくなっていることです。その結果、「緩和競争」に変質しました。

     円安は、日本の問題にとどまらず、世界通貨安の一環です。日本のように財政と債務構造から、大幅な利上げがむずしい国が増えています。このため、通貨安戦争は一過性ではなく、本格化していくと考えられます。

     個人的には、やがて基軸通貨のドルが減価しはじめ、世界は出口のみえない通貨戦争に落ち入る可能性が高いと思います。通貨安競争は、基軸通貨国のドルが安くなることで、構造的に破綻すると考えています。

                              由布木秀

  • ゴールド、14

     このコラムでは、金本位制の歴史を通観します。

     金貨本位制は、金現物を貨幣として流通させることです。実際には、物理的な制限などで難題があります。そこで、中央銀行が金地金との交換を保証する兌換紙幣を流通させ、貨幣価値を金に裏づけさせる、金地金本位制もふくんでいます。

     20世紀に管理通貨制度が採用される以前は、欧米諸国を中心とした国際決済市場では金本位制を利用することが一般的でした。銀行に金貨、金地金を預託し、その預かり券(紙幣)を用いて取引を行いました。最終的な決済は、売り手と買い手が指定する銀行間で金現物を輸送することで精算していました。

     金本位制による国際決済は、戦争によりしばしば中断されました。19世紀には、ロンドンが国際決済の中心でした。第1次世界大戦がおこると、金本位制は、中断を余儀なくされました。

     たとえば、日本は1913年12月末の時点で、日銀正貨準備は1億3000万円、ロンドンにあずけられていた在外正貨は、2億4600万円でした。外貨決済は、8割以上がロンドンでした。

     第1次世界大戦で、ロンドンの金融機関が閉鎖すると混乱がおきました。1919年にはアメリカが、1925年にはイギリスが金本位制に復帰しました。

     金本位制では、金塊を国際市場がある都市に集中させざるをえませんでした。19世紀におけるロンドン、20世紀にかけて地位を継承したニューヨークには、世界各国の中央銀行の支店や各国政府の出先機関が集中していました。各国の国際収支の調整は、その都市に設置された支店間での金塊の現送によっていました。

     1次世界大戦の前後から、アメリカは、経済力を増してきます。ヨーロッパとちがい、戦場にならなかったアメリカには富が集中してきます。とうぜんですが、金現物もあつまってきます。この富の集中が、金本位制度を持続できなくなった原因とされています。

    アメリカが不胎化政策をとったことは、金本位制の国際収支調整メカニズムを機能不全に落ち入らせ、世界恐慌を深刻化させた一因となりました。

     ここが、金本位制が崩れてくるクライマックスです。

     この経緯に関しては、稿をあらため集中連載を予定しています。納得できるまで追求することにします。

     金本位制が、管理通貨制度に移行したのは、1929年の世界恐慌がきっかけです。

     イギリスは、1931年、金本位制から離脱しました。アメリカは1933年、フランスは1936年に離脱しました。この時代は、金本位制を放棄して自国通貨を切り下げ、国内の貨幣供給量を拡大した国ほど、早く不況から脱したことが知られています。

     通貨安競争は、1929年の世界恐慌で行われたといわれます。イギリスは、1931年にポンドを切り下げました。1936年、三国通貨協定まで多くの欧州諸国が追随して通貨を切り下げました。 

     三国通貨協定 (Tripartite Agreement)とは、アメリカ、イギリス、フランスが結んだ、為替安定のための協定です。

     具体的には、三国は、たがいの通貨の価値を尊重して競争的な切り下げを行わず、為替が不安定になったばあいは、協力して市場介入を行うことを約束しました。金本位制への復帰を事実上断念し、各国が通貨価値を自国の政策で管理する体制(管理通貨制度)が既成事実として固まった象徴的な転換点でした。

     1930年代の通貨安競争は、世界貿易の縮小と国際協調の崩壊をうみ、経済のブロック化 をまねいたとされます。混乱の休戦協定 が、三国通貨協定でした。

     1934年、アメリカは、従来の金1オンス、20.67ドルを廃し、35ドルに固定しました。第二次世界大戦後の1944年、ブレトンウッズ協定では、金1オンス、35ドルが国際的に再確認され、アメリカ合衆国ドルを基軸通貨とし、各国通貨は米ドルとの固定相場制が採用されました。この体制下で、IMF加盟各国は独自に管理通貨制度をとり、通貨当局は為替介入と金融政策により対ドル固定相場を上下幅1%以内に維持しました。

     この制度は、「金ドル本位制」、「金為替本位制」といわれます。

     1971年、ニクソン大統領は、アメリカの財政赤字、経常収支の赤字からインフレが進行、ドルと金の兌換停止に踏み切ります。

     このとき、ドルと金の国際的な兌換が停止され、ブレトンウッズ体制(事実上の金ドル本位制)は終焉し、国際通貨体制としても完全な管理通貨制度へ移行しました。

                              由布木秀

  • ゴールド、13

     このコラムでは、金本位制から脱却した現在の管理通貨制度について考えたいと思います。

     通貨管理制度は、通貨の発行量を通貨当局が調節することで、物価の安定、経済成長、雇用の改善、国際収支のなどを図る制度です。たとえば、日本国の通貨発行権をもつ日本銀行は、負債として計上される「法定通貨」の発行量を、資産として計上される国債などと調整しています。「法定通貨」は、日銀のバランスシート上、負債に位置づけられます。このばあい、資産は国債が該当します。したがって通貨は、担保明確化資産としての国債に裏づけられているので国債本位制ともよべます。

     管理通貨制度では、通貨当局は、金や銀などの保有量とは無関係に通貨供給量を増減させることができます。そのため、第二次世界大戦後の情報革命を背景に、電子記録としての「預金通貨」が急速に膨張しました。

    「預金通貨」とは銀行の貸し出し業務によって生まれる通貨で、 バランスシート上、銀行の負債になります。 したがって、日銀の負債となる「法定通貨」とは違っています。

     銀行から貸し出されたお金は、担保明確化資産ばかりではなく、 担保希薄化資産、担保不詳化資産にも、借り手の意向で振り分けられます。 このため「預金通貨」は、個別の銀行の判断に応じて大きく膨張しました。

     銀行準備率は、「預金通貨」を発生させるときに最低限の裏づけとなる「法定通貨」です。現代の日本では1%程度ときわめてゆるく、さらに日銀は必要におうじて当座預金を供給するため、融資総額の上限にはなりません。

     国家は国債を発行し、中央銀行が購入することで間接的に「法定通貨」の供給量を決定できます。また、銀行制度を通じて「預金通貨」の発生を制度的に許容しています。金を貨幣価値の裏づけとする金本位制では、兌換紙幣の発行量によって通貨総量が決められていました。

     紙幣は、金の預かり証でした。

     管理通貨制度では、通貨総量は、中央銀行の金融政策と銀行の融資総額で決まります。通貨の価値は、政府の信用に依存しています。国債発行総額が増えると国家財政の悪化が懸念され、国家信用が低下します。国債投資家が国債の売りに回ると金利は上昇し、通貨が売られる事態がおこります。こうして、通貨の価値は外部によって決定され、行政府がコントロールできない状況になります。 

     行政府は、金本位制時、金総量によって決定されていた通貨の価値を、金融政策によって独自に操作できる立場になりました。しかしながら、一度増えてしまった通貨供給量を減らすことは、ほぼ不可能になっています。通貨供給量を縮小すると銀行貸出が急減し、経済全体が信用収縮に落ち入るためです。

     銀行準備率は、理論上「預金通貨」の融資総額を直接的に制約できます。しかし、発動は経済全体に過度の衝撃をあたえるため、現代の中央銀行ではほとんど用いられません。代わりに、金利政策や自己資本規制などの間接的手段をもちいて融資を制限しますが、通貨供給量の膨張をとめることはできません。

     その結果、中央銀行は、インフレ抑制よりも、通貨供給量の急激な減少による信用収縮の回避を優先せざるを得なくなっています。これは、円安をふくむ通貨安競争が起こる大きな原因です。

                              由布木秀

  • ゴールド、12

     このコラムでは、ゴールドが世界商品という証でもある「4時間足チャート」について考察してみます。

     まず、チャートが、なにを表現しているかという認識を共有します。

     チャートは、未来を予想するツールではありません。どんなに分析しても、明日のことはまったく分かりません。チャートとは、いままで銘柄がたどってきた軌跡をふりかえるツールでしかありません。よく使われる、MACD、RSI、は、分析対象になった銘柄が、いま、過去と比べてどこら辺に位置するかを説明するだけの指標です。MACDの数値を他銘柄と比べてみても無意味で、おなじでないから複数の銘柄があるとしかいえません。あくまで相対的な指標です。一目均衡表にいたっては、幻想的な価格推移を視覚的に表現したものです。過去を説明するツールとしても、無価値です。そもそも、あらゆるチャートは、後になってから確定します。現在という点は、作図中の揺れでしかありません。こうした認識にもとづいて、4時間足を考えてみようと思います。

     ゴールドは、世界中で取引されています。日経平均先物、S&P500先物なども、ほぼ24時間取引されます。しかし、もっとも盛り上がるのは現物市場がオープンしているときになります。ゴールドは、東京市場、ロンドン市場、ニューヨーク市場で現物が取引されるので、おおむね8時間ずつ相場がつくられます。アジア時間、欧州時間、米国時間という3つのブロックに分かれて、価格が形成されています。各市場の前場、後場と考えれば、4時間ごとの推移が一連の動きをつくりだします。

     おなじ世界商品と考えられる原油市場は、どうなっているでしょうか。

     原油市場の価格決定は、ニューヨーク市場が支配しています。ロンドン市場は、先物が中心です。東京市場は、出来高が極端に小さくなっています。現物市場は地域差が大きく、世界で均質ではありません。価格は「需給」よりも、「投機、ニュース、地政学」で急変します。その結果、原油の4時間足チャートは、 連続性を反映する構造になっていません。

     FXのペア通貨(USD/JPYなど)では、2通貨が流通する市場で主に取引されます。アメリカ時間と日本時間はあっても、欧州時間がありません。その結果、4時間足チャートは有効ではなくなります。

     チャートは、経験則に基づいています。さまざまにありますが、なかでも、ダウ理論、エリオット波動などは有名です。

     ダウ理論では、トレンドには3種類あると考えます。

    1)主要トレンド、1年~数年のサイクル。

    2)2次トレンド、3週間~3ヶ月のサイクル。

    3)小トレンド、3週間未満のサイクル。

     これらは、互いに独立しているのではなく、2次トレンドは主要トレンドの調整局面、小トレンドは2次トレンドの調整局面として捉えられます。つまり、本質的にはフラクタル、という認識に基づいています。チャートは、5分足、15分足、1時間足、4時間足、日足、週足、月足、どれでみても、おなじ形をつくっています。いわゆるフラクタル性をもつことが知られています。

     4時間足チャートは、トレンドが変換したかどうかをみる指標です。とはいっても、すぐに再転換する可能性は充分にあります。しかし、金のような現物が、高い流動性をもって24時間連続的に動く市場では、トレンドはある程度たもたれるという経験からの幻想でしかありません。

     私のばあい、単純平均、5本線、13本線、31本線、79本線でみています。この数値は、単に素数という意味しかもっていません。5、13、31、79は、隣接する数値の比率が、ある程度一定という構造にすぎません。

     個人的には、チャートは、日足がもっとも純粋に過去を反映するのではないかと考えています。事件やエベントを、直接的に表現しているからです。週足になると、事件は市場におりこまれてきます。月足は、人間の思考単位から逸脱しています。5年たっても60本しかひけませんので、繰りかえしみても発想がかぎられます。

     したがって、なかでは日足という結論がでてきます。

                              由布木秀

  • ゴールド、11

     このコラムでは、仮想通貨について考えてみます。

     仮想通貨( virtual currency)は、日本では2020年に改正資金決済法が施行されて暗号資産(crypto-asset)という名称に変更になりました。

     暗号通貨( cryptocurrency)、いわゆる「仮想通貨」とは、現実に存在する消費財などを売買できるよう設計された仮想の通貨です。仮想通貨は、データとして存在するデジサル資産(digital asset)と結びつけられています。個々のコインの所有権の記録は、電子化されたデータベース上の台帳に保存されます。強力な暗号によって、取引履歴の安全性が保障され、新たなコイン生成が管理され、所有権の移転が確認されるものとされています。

     作品番号11.「ソフィアに会った日」では、仮想通貨をつかったエキサイトというゲームが紹介されています。このゲームでは、どのようにハッキングして、現金化するかという方法が考案されます。現実に韓国の北側の国では、国家が一体となってハッキングしています。

     厳しい監視のなか、つかわれていないふるいアカウントを利用して大量の口座をつくり、盗んだマーキングされた通貨を小分けにして分散させます。そこで、さまざまな取り引きを行い、ほかの貨幣と目茶苦茶にまぜあわせ、もとがなんだか分からなくさせます。最後には可能なかぎりの方法を駆使して一般通貨に交換し、現金化します。

     成功すれば大金持ちになり、気に入った邸宅を購入することができます。住居の場所や外装、間取りなどを、お金に応じて選択できます。さらに資金をつくれば、愛人たちを複数の邸宅に住まわせることができます。お金を一定以上つむと容姿端麗な女性のヌード写真などがあらわれ、好みに応じて選択、非選択を決められる特典がついています。

     対象になる仮想通貨は、取り引きできるものだけでも90種類以上あります。時価総額は、200兆円をこえています。ビットコイン(BTC)は、とくべつ大きく50%をしめています。イーサリアム(ETH)も、20%、70兆円の時価をもっています。1兆円をこえるものだけでも、3位のビルドアンドビルド(BNB)以下、リップル(XRP)、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、ドージコイン(DOGE)、トロン(TRX)、チェーンリンク(LINK)、ポリゴン(MATIC)、11位のアバランチ(AVAX) まで揃っています。調査費を払って、ハッキングする仮想通貨を決定します。とうぜんながら、通貨によって成功確率に違いがあります。もちろんビットコインはいちばん難しく、下位にいくほど容易ですが、成功しても時価総額以上を獲得することはできません。現実的な対象はイーサリアムまでに絞られますが、必要額が500億円程度なら、アバランチをつかえばかなり安全に資金調達が可能です。

     さらにいろいろな案がだされ、通貨取引所自体をハッキングする方法もあります。これを可能させると、ハッキング成功率が急激に上昇します。

     こうした物語をつくれるのは、この仮想通貨による資産が、1)担保の所在が不明、2)発行主体が不明、3)発行額が無限に増やせる、など、文明の信用構造の外側で形成される「担保不詳化資産」だからです。

     資産と名づけられると、価値をもっているような錯覚を生みだします。しかし、 仮想通貨を基盤としてつくられる暗号資産は、完全な担保不詳化資産に分類されます。

     仮想通貨は、いくらでも種類をつくれるため、担保の供給量が無限に拡大します。まさに仮想領域で拡大するため、現実に適合できません。 BTCは、発行上限があるとされますが、プロトコール上の建前です。半減期も、コード上の約束にすぎません。破られても 責任主体が存在しません。通貨は、国の信用で成立しています。もし信用をうしなえば、通貨安という形で責任をとることになります。国家の徴税能力、経済力、軍事力をふくめた総資産が、担保化されているともいえます。暗号資産には、裏づけとなる担保がまったく存在しません。暗号技術は、量子コンピュータなどの技術的飛躍があれば、無価値になります。

      したがって仮想通貨によってが生みだされる暗号資産は、文明の信用構造の外側で形成される 典型的な「担保不詳化資産」です。リキッド・ファンディングでみたように、この資産クラスは、詐欺的構造になりやすい性格をもっています。

                              由布木秀