なぜ、世界各国で通貨安競争が生じ、インフレが加速しているのか、さらに行く末はどうなるのかという論議は、専門としている方々がたくさんの教説を書いています。
このコラムは、現代の信用構造、権力構造を探求する目的をもっていますので、私見を述べておきたいと思います。
まず現代は、技術革新が起こる端境期にあたっている可能性が高いのだろうと思います。昨今の生成AIからはじまる大相場は、素材の半導体、データセンターの建設などで、技術革新を先取りしている可能性をもっています。10年後、市場が描くとおりの世界が到来したばあい、生産性が急激に上昇し、働き方をふくめた人同士の関わり方や、社会制度などが激変する可能性を考えるべきです。
つぎに、富がどういう形式でストックされてきたか、を問うことになります。エプスタイン・ファイルでも論考していますが、エプスタインは、天才に値する資格をもっています。彼は、リキッド・ファンディングによって、担保不詳化資産を法律の枠内におさめる手法を考案したのです。ネズミ講や出資金詐欺は、世界中のどの国でも犯罪行為です。なぜなら、集めたお金に対して裏づけとなる担保が存在しないからです。エプスタインは、担保が不明確な証券を合法的に資産化して売りだす手法を考えだしたのです。彼が「数学の天才」といわれる所以は、ここにあります。
こうした方法が合法化されることにより、預金通貨は莫大に膨張しました。担保不詳化資産が発明されるまで、資産の拡大には制限がついていました。借金するにしても、浪費するにしても、担保によって上限が決められていました。2000年以降、金融の世界では、この構造が破壊されました。その結果、通貨供給量が爆発的に増大し、通貨安が起こり、インフレが招来されています。
根源的な問いは、AI社会による急激な生産性の向上が、担保希薄化資産や、担保不詳化資産までも許容するのか、ということです。
ここで、ストックがどのように目にみえる形(おもに不動産)になるのか、考えてみます。
あらゆるストックの源泉は、人間の労働力です。領主は、領民にたいし、週に1回ないし2回の賦役を課します。貨幣経済が末端まで拡張すると、この賦役は通貨によって払われます。賦役は、地代、年貢、人頭税と名称を変えながら支払われつづけます。この積み重ねが、富(ストック)をうみだします。土地に値段がつくのは、さまざまなインフラを行い、価値を付加されたからです。その源泉は、人の労働力によっています。技術革新は、労働力を爆発的に増加させます。しかし、機械を運転するのは人間の役割です。本質的な構造は、AI社会になっても変化しません。
私たちの社会は、産業革命以降、500年以上にわたり、 技術革新によって富を蓄積してきました。 しかし、20世紀に起こった2度の世界大戦と、その後の軍拡競争は、 この富を徹底的に浪費しました。 技術革新が生んだストックを、戦争が食いつくしたのです。 さらに担保不詳化資産を文明に組みこむことで、通貨供給量が増し、無益な浪費につかわれました。
「ゴールド09」で、人類文明の信用構造を明示しました。
1)担保明確化資産(Clear‑Collateral Assets)、概算総額20京円。
2)担保希薄化資産(Collateralー Dilution Assets)、概算総額40京円。
3)担保不詳化資産(Unspecified‑Collateral Assets)、概算総額70京円。
※ これは、私が独自に担保構造をもとに分類した資産クラスです。金融学ではつかわれていませんが、すべての資産を説明できます。くわしくは、ゴールド01からのコラムを閲覧してください。
フローを蛇口からでる水の量、ストックを浴槽に貯まった湯量とします。底の栓からは、生活にかかる費用だけ流出していきます。技術革新によって蛇口をもっと開けることができれば、いままでよりも水量(フロー)が増えることになります。底の栓に変化がなければ、浴槽の湯量(ストック)はふえます。
たとえ、AI社会がきても、2)、3)のすべてを生産性の向上でカバーできるとは思えません。現在、1)~3)まで、130京円の通貨が供給されています。これに対して、ストックは20京円しかないのです。(この数字はかなり大まかで、不動産は、リートとしてのみ組みこまれています)
現在、担保価値の6.5倍の資産が許容されています。これは、蜃気楼みたいなものです。みんなが存在すると思っていて、はじめてみえる影です。もし、実態がないことに気づいたら、担保価値まで収縮します。技術革新はフローを増すだけで、ストックを増加させるのではありません。最終的には、ゴールドの価値に収束すると思います。不動産は、価値ある資産ですが、流動性にとぼしいのです。みんなが売りたいと思ったときには、供給過多になり一気に収縮します。
流動性をもって存在する担保は、ゴールドだけです。
由布木秀
