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アテナ誕生

 このギリシア神話の連続コラムの最後は、女神アテナの謎です。

 この女神は、ゼウスの一族ではないと考えられます。由来については、アナトリアの戦争の女神(武力、知恵)や、ギリシア本土古層の女神(都市の守護)などが考えられています。

 私は、クレタの女神だった可能性が高いと思っています。

 女神アテナは、都市国家アテナイと切り離して考えることは不可能です。アテナイは、神話的にも歴史的にも、クレタをひきついだ海洋国家です。神話のなかでは、アテナイはクレタから海洋覇権をうばいとります。英雄、テセウスがその役割を担います。

 したがって、アテナイの都市創始神話に登場する女神アテナは、クレタと無関係ではいられません。神話では、アテナイ最初の王は「ケクロプス」です。彼は、上半身が人間で下半身が蛇です。古代世界では、蛇は、大地、再生、生命力、母性、地下世界、祖先の霊を象徴しています。

 アテナには、 蛇がつきまとっています。彼女の盾には、蛇がうごめいています。みるものを石にかえてしまうゴルゴンの髪は、蛇になっていました。しかしながら、盾の蛇はアテナ固有のものと考えられます。また、アクロポリスの地下には、「アテナの聖なる蛇」が住み、その蛇は、供え物を食べるといわれていました。

 アテナの原型は、クレタの大地母神が考えられます。

 クレタの女性神は、都市の守護神で、蛇や鳥、猫などを、しばしばしたがえています。武器をもち、豊穣、知恵、工芸をつかさどります。アテナは、女性神でありながら軍神という、両性原理をそなえています。こうしたことから、クレタ由来と考えられます。

 アテナ誕生は、非常に刺激的です。

 神話では、ゼウスがつよい頭痛を訴え、ヘパイストスが斧で頭を割ると、兜をつけて盾をもった女神アテナが飛び出してきます。

 母親であっても、娘であっても、性の対象にしてしまうゼウスの頭部から、彼女はうまれてきます。このイメージは、とてもオリジナリティの高いものです。それも彼女は、生まれたときに完全武装をしています。ゼウスには、絶対犯されない女性だったのです。

 この頭部から出現するというイメージは、グノーシス思想にとりいれられました。至上神の頭部から、こぼれ落ちた女神というイメージは、ソフィアにそっくりです。

 作品番号34「弥勒をみつけた日」は、このイメージをつかっています。

 頭部に知恵があること、思考が頭で行われることは、現代ではごく自然で納得できます。しかし古代では、知恵も心にあったと考えられていました。アテナの出現は、古代シュメールの「ティアマト」、インド、ウパニシャッドの「プルシャ」のような解体神話とは、まったく構造が違っています。  

 オリンポスの主神ゼウスが頭部を割ってもいいと思えるほどのはげしい頭痛の種だったのは、アテナが、かつて彼が取りこんだはずだったクレタの大女神だったからです。

 オリンポスの神々の男性神は、非常に愚かしく描かれています。アポロは、光明をつかさどる秩序の神さまですから例外的です。

 ポセイドン、ハデスは脇役ですが、色情狂のゼウス、アレス、ヘパイストス、ヘルメスなどは、神さまという資格を問われるような存在です。ゼウスのばあい、子孫をのこすという意味あいから、子宝に恵まれるのは理にかないますが、あまりにも抑制が効かなすぎます。

 ヘラは、侮蔑的に描かれています。しかし、そのほかの女性神は、魅力的で、神話構造として奥をもっています。単純にいうなら、ゼウスがひきつれてきた神々は、野蛮で下品です。女性神とのあいだには、大きな格差が存在しています。おそらく女性神の多くは、ゼウスの系統と違っていたと考えられます。

 ギリシア神話は、父系社会だったので、 父殺しは最大のタブーでした。主神の役割は、「生殖機能」です。天空、ウラノスは、息子、クロノスによって男根を切りとられて天空に退散します。クロノスは、ゼウスを核とする息子たちとのながい戦いの末、タルタロスという女性がいない地獄に閉じこめられます。

 ゼウスは、アテナ女神によって、生殖を禁じられるという意味で殺されるのです。

 なぜなら、彼女は、クレタの大地母神だったからです。

                          由布木秀

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