1神教でないオリンポスの神々は、基本的に性格断片から構成されています。神の役割分担には、重複がありますが、かなり明確です。
ギリシア神話で、オリンポス山頂に住んでいると考えられた12神は、主神、ゼウス。主神の妻、ヘラ。軍神、アテナ。秩序の神、アポロ。美の女神、アプロディテ。武神、アレス。狩猟の女神、アルテミス。豊穣の女神、デメテル。鍛冶の神、ヘパイストス。仲介の神、ヘルメス。地上神、ポセイドン。かまどの女神、ヘスティアです。最後の、ヘスティアの代わりに、陶酔の神、ディオニュソスが入ってきます。天空神ゼウスと、地上神ポセイドンとともに世界を3分割する冥界の神ハデスは、山頂に住んでいないので12神にはふくまれません。
オリュンポスの神々は、第1世代と第2世代に分けることができます。クロノスとレアのあいだに生まれた第1世代の神としては、ゼウス、ポセイドン、ハデス、ヘラ、デメテル、ヘスティアがいます。ゼウスの息子、娘にあたる第2世代の神としては、アテナ、アポロン、アルテミス、ヘパイストス、アレス、ヘルメス、ディオニュソスから構成されます。
アプロディテについては諸説がありますが、ヘシオドスは、クロノスが切断した、父親ウラノスの男根の周囲の泡から生まれたとしています。系統としては、もっとも古い女神ともいえます。
前回のコラムでみたように、ゼウスは、語源的に天空神(ディオ)とふかく関わっています。アーリア系の天空神が、イラン高原やアナトリア(小アジア)を経由してギリシア世界に入ってきたと考えられます。ここには、紀元前12世紀ごろに起こった民族大移動と戦禍が関係していると想像されます。
古代エジプトでは、第19王朝、第20王朝の治世に混乱があったことが記録されています。紀元前14世紀ごろのミノア文明の崩壊や紀元前1120年ごろのドーリス人のギリシア定着や、先住ギリシア人のアナトリアへの移住など、300年間におよぶ東地中海世界の混乱と関係があったと考えられています。
オリンポス12神は、どこからやってきたのでしょうか?
ゼウスとともにやってきたアーリア系とみられる神々には、ポセイドン、アポロン、アレス、ヘルメスなどが考えられています。
ヘラは、神話のなかで非常に侮蔑的に描かれています。これは、ゼウスの父系社会がギリシアに入ってきたとき組みこまれた、ギリシア地方の大女神だった可能性が高いと思われます。
アテナは、ゼウスの頭部から出てきたとされます。これについては、べつのコラムで論じるつもりですが、クレタの女神だった可能性が高いです。
アプロディテは、フェニキアの アスタルテ、メソポタミアの イシュタル、シリアの アタルガティスと関連しています。すべて 愛、性、豊穣、戦争 をつかさどる女神です。つまり、アプロディテは東方の女神だったと思われます。
デメテルは、語源的にギリシア語では説明できません。原型は、アナトリアの大地母神だと考えられます。代表例は、キュベレです。この女神は、大地、肥沃、穀物、再生、母性をつかさどっています。デメテルの神話の中心は、娘(ペルセポネ)の喪失、冥界への下降、再生と季節の循環と関連しています。さらに、 デメテルの崇拝中心地、エレウシスにおける「エレウシスの秘儀」は、冥界への下降と儀礼を中心としています。これは、 アナトリアの大地母神信仰の儀礼構造と一致 しています。
ヘパイストス(Hephaistos)は、 語源がギリシア語で説明できません。アナトリアには、 ヘパイストスと同じ性質の神が存在しました。ヒッタイトの鍛冶神、ハシワ(Hasiva)などです。この神は、 火、鍛冶、金属、地下 という同じ属性をもっています。
ヘパイストスは、神話でも、足が不自由だったり、ヘラによって天から落とされるたりします。妻のアフロディテにも裏切られ、オリンポスで孤立しています。これらは、 外来神が体系に組みこまれたときに、しばしば起こる現象といえます。
アルテミスの語源は、ギリシア語内部では説明できません。主要な聖地は、アナトリアに集中しています。エフェソスのアルテミス神殿は、古代世界七不思議の一つでした。マグネシア、ペリントスも、アナトリアです。
スパルタのアルテミス信仰(アルテミス・オルティア)は、アナトリア起源の女神をギリシア的に再編した痕跡をつよく残しています。少年の鞭打ち儀礼(ディアモスティグシス)は、「野生の力を制御し、共同体の戦士へと変える」通過儀礼として理解できます。
アルテミスは、アポロンと双子です。これは、「月と光」を対構造とする神話設計によると考えられます。
冒頭に述べたように、オリンポス12神は、人格断片的です。そのなかの例外が、アポロン、ディオニュソス、ヘスティアです。この3神は、全体性をそなえています。
アポロンは、アフラ・マズダと同じアーリア系宗教圏に属し、とくに契約の神、ミスラと近縁の光神だったと考えられます。
ヘスティアは、オリンポス12神のなかで、もっとも調和がとれている女神です。クレタでは女性の地位が高く、「竈」は家や共同体の中心でした。ヘスティアは、クレタの中心神格を継承している可能性が高いといえます。
ディオニュソスは、クレタの最高神だったと考えられます。
由布木秀
