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デニュオニュソス

 ギリシア悲劇は、ディオニュソスに捧げられていました。したがって古代ギリシアでは、もっとも人気があった神さまでした。

 オリンポスの12神は、1神教とは違うので性格が断片化されています。つまり、全体性よりは、個性が重視されています。なかでも、ディオニュソスは、非常にユニークな神様です。12神のなかでは、いちばんあたらしく加わったとされています。このため形姿は、青年だったり子供だったりします。ゼウスの子供という設定からも、やがては主神になる定めをもっていました。

 ディオ(deiwos)は、アーリア系民族では一般的に天空神、つまり最高神をさしています。ギリシア語、ラテン語などの屈折語では、名詞が文中での役割によって形を変えます。ギリシア語でゼウス(Zeus)は、主格形です。ディオス(Dios)は、「ゼウスの」という属格形です。したがってギリシア神話で、deiwos の語根を継承した神は、ゼウスになります。

 神話では、ディオニュソスの父は、ゼウスです。母は、セメレです。彼女は、ギリシア神話の中心都市、テバイをつくったカドモスとハルモニアの娘です。

 ゼウスの妻ヘラは、ゼウスの浮気相手だったセメレに「あなたの愛人は、ほんとうにゼウスその人か」という疑惑をふきこみます。妊娠していた彼女は、不安に耐えきれず、ゼウスに必ず願いを叶えさせると誓わせ、「ヘラと会うときとおなじ姿で、やってきて欲しい」と願います。ゼウスは、約束をまもって雷光としてあらわれ、セメレは焼かれて死んでしまいます。

 ゼウスは、6ヵ月の胎児を大腿のなかに縫いこみます。3ヵ月後に誕生したのがディオニュソスです。このため彼は、「二度生まれた者」とよばれます。

 ディオニュソスの誕生には、異説があります。ゼウスは、冥界の女王となるペルセポネ、あるいは、ペルセポネの母親にあたる豊穣の女神、デメテルに自分の跡継ぎを生ませます。子供は、ザグレウスと名づけられます。ヘラは嫉妬にくるい、ティターン族に襲わせます。ザクレクスは、八つ裂きにされ、食べられてしまいます。女神アテナが、ザクレウスの心臓だけを救いだし、ゼウスは飲みこんでしまいます。セメレが懐妊した胎児の心臓は、ザグレウスのものだったとされます。この神話は、再生をテーマにし、ほんらいディオニュソスが農耕神だったことを示唆しています。

 ディオニュソスは、ブドウ栽培とワインの製造を人びとに伝えたことになっています。また、インドまでいき征服してギリシアにもどってきた神さまとしても有名です。

 ディオニュソスが八つ裂きにされたことは、非常に重要です。この話は、エジプトの神「オシリス」との関連をつよく示唆しています。

 ディオニュソスが最後にオリンポス12神にくわえられた神だったとしても、もっとも新しいわけではありません。つぎのコラムに詳細はゆずるとして、ゼウスは民族の大移動にともないイランから由来した神だったと考えられています。ディオニュソスは、さらに古いクレタ島の神だった可能性が示唆されます。土地の神さまたちは、新来の神によって八つ裂きにされます。しかし、地域が安定すると古来の神が復活するのです。それが、デウスを凌ぐ力をもつとされるディオニュソスになります。

「音楽の精神からの悲劇の誕生」のなかでニーチェは、「ディオニュソスの笑いからオリンポスの神々が生じ、彼の涙から人間がうまれた」といっています。

 つまり、抑圧された神さまです。したがって、もっとも抑圧されていた民衆、つまり女性たちを陶酔させ、狂乱させる神になります。ディテュランボス(酒神頌歌)は、はげしい身振りと舞踏であらわされる、脱魂忘我の歓喜の歌です。この狂気は、ワインによって象徴されています。

 ディオニュソスは、既成の秩序を崩す神です。したがって、孤独で、仲間をもちません。ニーチェが指摘したように、秩序はアポロがもっています。この二神は、ヒンドゥー教における破壊をもたらすシヴァ神と、秩序を維持するヴィシュヌ神との関係にそっくりです。

 この詳細は、作品番号38「ヒロミの部屋」に書かれています。

                          由布木秀

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