アジア開発銀行(ADB)は4月末、26年のアジア太平洋新興国・地域の成長見通しを従来の5.1%から4.7%に、物価上昇率は3.6%から5.2%にそれぞれ修正した。
アジア新興国は中東へのエネルギー依存度が高く、石油備蓄も少ない。燃料不足が物価上昇を引き起こしやすい。「ほとんどの国はスタグフレーションを経験したことがない」(カシコン・リサーチのラリタ氏)ため、政府や中銀の対応余地は限られる。
第一ライフ資産運用経済研究所の西浜徹氏は「10年代の『アラブの春』は若年層の失業や食料インフレなどが引き金になり政情不安が広がった」と話す。
さらにリスクを高めるのが自国通貨安だ。フィリピンペソやインドネシアルピアは対ドルで最安値圏にある。今後米国が利上げに動き、新興国から資金が流出すれば「通貨防衛を目的とする金融引き締めも効きにくく、結果的にスタグフレーションに落ち入る場合が多い」(西浜氏)。
バングラデシュやネパールのように政変後の選挙を経て新たな政権が発足した国々も多い。政権基盤が脆弱な場合もあり、新興国に進出する企業は注意が必要になる。
日経記事、2026年5月22日
2008~2026年「世界通貨、構造指数」をみてみます。
構造指数とは、ドルを100としたときに、各通貨の「長期的な通貨の強さ、脆弱性」を示す筆者独自の目安です。
| 順位 | 通貨 | 構造指数(目安) | 長期評価 | 構造的特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 韓国ウォン | 70〜85 | 中間だが脆弱 | 外貨建て短期債務が大量 |
| 2 | 日本円 | 70〜85 | 中間→ 弱い側へ | 高齢化 低生産性 |
| 3 | タイ バーツ | 70〜85 | 中間 | 観光 輸出依存 |
| 4 | フィリピン ペソ | 55〜70 | 弱い | 貿易赤字インフレ |
| 5 | インド ルピー | 50〜70 | 弱い | インフレ外貨依存 |
| 6 | インドネシア ルピア | 45〜65 | 弱い | 債務の罠資本流出 |
| 7 | ブラジル レアル | 40〜60 | 弱い | 政治不安インフレ |
| 8 | 南ア ランド | 40〜60 | 弱い | 資源依存政治不安 |
| 9 | ロシア ルーブル | 10〜20 | 崩壊的(別枠) | 制裁 資本規制 |
ロシア・ルーブルは、ウクライナでの戦費と国際的な制裁をうけて、すでに崩壊状態です。
トルコリラの構造指数は、20〜30ときわめて低い水準です。外貨建て債務が積みあがり、慢性的な外貨不足に落ち入っています。さらに政策の不安定性が重なり、通貨価値が構造的に弱くならざるをえない状態です。
ブラジルレアルに象徴されるように南米は、政治不安と輸入インフレ、通貨安に苦しんでいます。
南アフリカランドは、長期チャートでは、ほぼ一直線に下落しています。10年単位でも、もどり局面が存在しません。反発してもかならず前回安値を割りこんでいます。原因は、外貨を安定的に稼ぐ力が弱く、経常収支や財政が慢性的に脆弱なためです。また政治リスクが恒常的に高く、鉱物資源に依存するため価格変動に弱いことなどが挙げられます。
なかでもいちばんの特徴は、いままで世界を牽引してきたアジア諸国が通貨安と、輸入インフレから抜けだせないことです。
通貨安競争のつぎに起こるのは、景気停滞と物価上昇が同時に進行する「スタグフレーション」です。通貨安によって輸入インフレが起こっても、財政赤字とドル建て債務の構造から利上げができません。さらに通貨安をまねく、悪循環がくりかえされています。
スタグフレーションは、弱い通貨国からはじまります。
この表で分かるとおり、まずアジアの弱い通貨、インドネシア・ルピア、インド・ルピー、フィリピン・ペソ、タイ・バーツがさらにドルに対して安くなり、輸入インフレのなかで経済停滞に落ち入ると思われます。つぎに、南米各国とアフリカ諸国がつづきます。さらに、日本、韓国、オセアニアが、インフレと景気悪化というスタグフレーションに突入します。
アジア、南米、アフリカが景気停滞に落ち入って需要が減少すると、輸出に頼っていた中国経済は深刻な危機に落ち入ります。中国の内需は、不動産市場をはじめ、ぼろぼろの状態です。いまでさえ、中国政府が出す公式資料は疑義がついていますが、隠しきれない状況になります。中国は、バブル後の日本のように銀行を整理することができません。内部の不満のはけ口は、やがて台湾にむかう可能性があります
いずれにせよ、いいシナリオが浮かんできません。
デフレのころ、ニュージーランドへの移住を礼賛していた論者がいました。その論説にしたがっていたら、通貨安、金利高、住宅市場の三重苦にまきこまれていたでしょう。ニュージーランドドル(NZD)の構造指数は、65~80で、日本円、韓国ウォンよりも弱いくらいです。経済規模が小さく、外貨建て債務が多いことが特徴です。経済は農産物に依存するために、景気は外需によって左右されます。危機時には資本が逃げやすい、つまりドル高になると真っ先に下落する通貨です。また、ニュージーランドは 、OECD でもトップクラスの住宅価格高騰国です。金利を上げると住宅市場が崩れ、金利を下げると通貨が崩れるという日本とそっくりな、 政策の自由度が極端に低い状況です。
どの通貨も、一時的に高くなったり安くなったりをくりかえします。どうしてそうなるのか、よく構造を考えてから行動しないと、取り返しのつかない事態に遭遇することになります。
由布木秀
