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円安、04

 2008年は、「世界の金融構造が破壊された年」でした。リーマン危機は、以下の変化をうみだしました。

1)危機のたびに、米国だけが安全資産の「米国債」を無制限に供給することができました。世界の金融システムは、担保として明確に評価できる米国債を必要とし、その結果としてドル依存体質がさらにつよまりました。

2)各国で、金融政策の自由度が減少しました。金利ゼロのまま抜けだせない国になった日本は、象徴的です。

3)新興国は、「外貨建て債務の罠」に入りました。通貨が弱い国は、信用力に劣るために自国通貨では借金ができません。ドル建ての債務は、ドル高になると増加します。債務が大きくなると、さらに通貨が下がるという、負のループがくりかえされます。

 2008年以降の世界では、米国だけが安全資産とされる米国債を無制限に供給できるドルの1強体勢が固まり、その他の通貨が弱体化する構造が確立しました。

 2010~2019年まで表面上は安定し、超低金利や量的緩和などによって、通貨の長期トレンドがゆっくり進行していきました。

 2020年のコロナショックは、世界の金融構造の脆弱性をあきらかにし、その崩壊速度をさらに加速させました。世界各国は、従来とは桁違いのゼロ金利や量的緩和政策に突入しました。供給網が寸断されて、コストプッシュインフレが進行し、物価は通貨が弱い国ほど暴騰しました。米国だけが金利を上げられたため、円や新興国通貨は、ドル高によってさらに弱くなりました。

 2008~2026年「世界通貨、構造指数」をみてみます。

 構造指数とは、ドルを100としたときに、各通貨の「長期的な通貨の強さ、脆弱性」を示す筆者独自の目安です。

順位通貨構造指数(目安)長期評価構造的特徴
1スイスフラン140〜150最強安全資産受け皿
2英ポンド120〜130強い金融立国信用遺産
3ユーロ95〜105安定第2
基軸通貨
4人民元95〜100安定
表面上
管理通資資本規制
5ドル100
(基準)
世界の
アンカー
基軸通貨最終避難

 これらは、米ドルにたいして同程度か、つよいとされる通貨の一覧です。しかしながら、人民元(CNY)は、中国当局によってドルとの比率をたもつように厳しくコントロールされた「管理通貨」です。自由変動通貨と同列に比較できず、実力よりも高水準で維持されている可能性が高いと考えられます。

 スイスフランは、世界最大級の「安全資産」として機能しています。政治的な安定や法制度のつよさによって永世中立国が維持され、国家破綻リスクは、ほとんどないと考えられているからです。資本規制の緩さも好感され、伝統的に世界の富裕層の資産を預かる銀行国家としての地位をきずいてきました。経常黒字国家で、巨大な外貨準備をもつことも信用構造をささえています。世界シェアが5%以上の国にかぎれば、自国通貨を大量に売っても市場が壊れない国は、実質的にスイスだけです。

 ポンドは、2008年以降の構造指数が120〜130と高い位置にあります。しかし、現在の英国経済のつよさを反映したものではありません。1970年代のポンド危機以降、ポンドは長期的に売られつづけてきました。その結果、通貨価値が大きく調整された反動で、2008年以降、相対的につよくなっている側面があります。

 英国は金融立国としての地位を徐々にうしない、ポンドは長期チャートでは明確な右肩下がりの通貨です。それでも急落しにくいのは、19世紀から20世紀前半にかけて世界の金融センター(シティ)として築いた歴史的信用の残滓が、現在も通貨価値を下支えしているためです。ただし、この歴史的信用が持続するかは保証できません。

 ユーロは、構造指数では95〜105と安定した通貨に分類されます。しかし、そのつよさは、単一国家の信用ではなく、複数国家の平均値として成立している特殊な構造にささえられています。域内には、財政力や競争力に大きな地域差が存在します。ユーロ圏の信用の柱だったドイツが財政問題で苦しみはじめたことは、ユーロの内在的な脆弱性を象徴しています。ユーロはつよい通貨でありながら、その基盤は均質ではなく、内部に不均衡をかかえたまま維持されていると考えられます。

                          由布木秀

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