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円安、03

 円安が阻止できない現況は、「円安、02」で話題にしました。このコラムでは、4回シリーズで円安の周辺を検討します。

03.現象としての、世界通貨安競争。

04、通貨安の背景。

05、その未来に生じる、スタグフレーション。

06、こうした現象と未来をうむ、真の原因。

 通貨安競争とは、各国が自国通貨で換算される労働力などの価格を相対的に引き下げる政策を指します。自国通貨を安くすることによって失業率を低下させ、資源稼働率を上昇させるうごきが世界中で同時におこる事態を指します。自国の通貨が安くなると、輸出に有利に働きます。

 通貨安競争は、1929年の世界恐慌でおこったといわれます。イギリスは、1931年にポンドを切り下げました。1936年、三国通貨協定まで多くの欧州諸国が追随して通貨を切り下げました。 この時代は、金本位制を放棄して自国通貨を切り下げ、国内の貨幣供給量を拡大した国ほど、早く不況から脱したことが知られています。

 2008年以降のゼロ金利、量的緩和政策は、「通貨政策の転換点」だったといわれます。リーマンショック後、世界は債務を清算しない方針を採用しました。不良資産を破棄せず、経済を縮小させない代わりに、中央銀行が無限に通貨を供給しました。つまり、破綻を先送りする方向に舵を切りました。

 2009年、世界貿易量は、前年に比べて12%減少しました。深刻な経済沈滞にともない、通貨安競争の条件が出そろいます。先進国では、財政赤字の大きさが不安視されます。輸出主導の経済成長を最適な戦略とみなすなか、ますます新興国経済との関係が切り離せなくなりました。

 2010年には、欧州(ECB)とアメリカ(FRB)の金融緩和政策が、世界経済に過剰流動性をもたらし、為替レートを不安定化させました。ブラジルや日本などの国々は、自国通貨高を抑制する政策を行いました。追加の金融刺激策では、世界の需要不足によって生じた問題を解決できないことが分かっていました。

 2013年のモスクワ、G20財務相、中央銀行総裁会議では、「通貨の競争的な切り下げを回避する」と明記され、通貨安競争を避ける方針で一致しました。しかし、日本の日銀総裁や欧州諸国は、自国通貨安による経済へのプラス面を強調しました。

 通貨安競争は、1930年代と現代では、構造が違っています。まず、金本位制がくずれています。資本移動は自由にされ、中央銀行は恐慌をひきおこさないように、量的緩和、ゼロ金利、YCCなどの施策を行いました。通貨安によってインフレが増幅し、通貨安競争は、出口のない緩和競争に変質しています。

 具体的には、中国の人民元安政策は変更できなくなっています。内需が弱く、輸出依存度が極度に高いため、人民元高は致命的です。人民元安は、中国の命運をにぎっています。

 総人口で世界一になり、人口ボーナスがみこまれ、世界経済の牽引役をつとめるはずの、インドルピーも安くなっています。

 通貨安国では、外貨準備の中心となる米国債を売りにくい構造が生まれています。米国の反発だけでなく、米国債を売却すると自国通貨がさらに下落し、通貨危機を招くためです。基軸通貨との比較で決まる通貨安競争では、弱い通貨国ほど米国債をうごかせなくなり、外貨確保のために金を売るしかなくなります。

 2026年のトルコは典型例で、深刻なドル不足のなかで、換金性の高い金を売却した可能性がつよいと考えられます。

 いっぽう日本は、外貨準備として米国債を大量にもっていますが、円安になっても売ることができません。

 通貨安競争は、基軸通貨との比較で決まる非対称な構造をもっています。これは、ドル体制の歪みを象徴しています。

 金は、流動性に富んでいるため、ドル不足国では売られることになります。いっぽう、ドル過剰国では金が買われます。このため、世界の中央銀行の外貨準備に占める金の比率は、2025年末に27%となり、米国債の22%を上回りました。つまり、 金市場は通貨安競争の裏側ともいえます。 

 2008年の緩和政策によって、世界各国は財政赤字を積みあげました。国債残高は膨張し、金利上昇による利払いは国家予算を圧迫します。利上げすると、国家が危機に落ち入る構造ができてしまった。

 利上げできないなら、 輸出で景気を支えるしかありません。各国は、金利を上げずに通貨安を容認し、量的緩和(QE)を継続しました。金融緩和で景気を支えようとした結果、 通貨安競争が本格化します。1930年代と違うのは、金本位制がないため、通貨安競争に歯止めがなくなっていることです。その結果、「緩和競争」に変質しました。

 円安は、日本の問題にとどまらず、世界通貨安の一環です。日本のように財政と債務構造から、大幅な利上げがむずしい国が増えています。このため、通貨安戦争は一過性ではなく、本格化していくと考えられます。

 個人的には、やがて基軸通貨のドルが減価しはじめ、世界は出口のみえない通貨戦争に落ち入る可能性が高いと思います。通貨安競争は、基軸通貨国のドルが安くなることで、構造的に破綻すると考えています。

                          由布木秀

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