• エプスタイン・ファイル、01

     メラニア・トランプ米大統領夫人は9日、ホワイトハウスで異例の声明を発表し、少女買春などの罪で起訴され自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン氏との関係を否定した。一部の報道や噂を厳しく非難した。メラニア夫人は「私と恥ずべきジェフリー・エプスタインを関連付ける噓は今日、終わる必要がある」と強調。エプスタイン氏とはトランプ大統領とともに同じパーティーに招待されたことがあるだけで、交友関係はなかったと説明した。「私はエプスタインの犠牲者ではない」とも語り、エプスタイン氏がメラニア夫人をトランプ氏に紹介したとの一部の噂も否定した。エプスタイン氏による少女への性的虐待は知らなかったと述べた。司法省が公開した資料に含まれていたエプスタイン氏の共犯者、ギスレーヌ・マクスウェル受刑者とメラニア夫人のものとみられる電子メールのやり取りについても、一般的な意味のないものだと指摘した。自身とエプスタイン氏を結びつける報道について「卑劣で政治的な動機に基づく虚偽の中傷」と批判した。議会に対し、エプスタイン氏の犠牲者に証言の場を与える公開の公聴会を開くよう求めた。

     メラニア夫人が記者団の前で公式の声明を発表するのは珍しい。この時期に声明を出した理由は不明だ。 

    (日経新聞、4月10日)

     この事件についてコラムを書こうと以前から思っていましたが、ちょうどメラニアの記事が掲載されました。

     私は、このエプスタイン問題こそが、トランプのさまざまな説明不能な行動をつなぐ一筋の糸だと考えています。

     エプスタインは、たんなる異常性愛者ではなく、富裕層の脱税指南役として権力構造に食い込んでいました。超富裕層は、税金逃れと未成年者への性的虐待を行うネットワークを築いていたのです。彼らは、決して被害者ではなく、共犯者でした。

     イスラエルに対する過剰な傾斜、ベネズエラへの奇矯な関与、イランへの突発的な攻撃などは、エプスタイン文書との関係をぬきに理解できそうもありません。アメリカでは、すでに多数の著作が出版され、さまざまな問題が提起されています。分かる範囲で整理したいと考えていました。

     私は、過疎地で医療活動をしてきました。その小さな町でも市長選があり、さまざまなデマが飛び交いました。不倫疑惑や、隠し子がいるなどの噂でした。新市長は、期間中、噂話をまったく相手にせずに当選しました。市長と話す機会がありましたが、「選挙とは、そういうものなのです」と淡々と語っていました。

     私の医院は繁盛したので、みょうな噂話を耳にしたことが幾度もありました。馬鹿ばかしいので相手にもできず、無視してきました。同じ土俵に乗ること自体が、あり得ないのです。否定することは、スキャンダルの存在を認めることにつながり、物語への参加を意味するからです。

     メラニアは、大統領夫人です。トランプにもっとも影響力をもつ人といっても、過言ではありません。彼女が一存で公的な声明を発表したとは、とうてい考えられません。夫と話しあい、充分に練られた文章を読みあげたはずです。この時期に、どうしても必要だったから、発表されたと考えられます。同じ土俵に乗ることは承知で、否定という政治的なリスクを取ったと考えられます。

     エプスタイン問題は、未成年の売買春疑惑という矮小化される事件ではないはずです。幾人かが関係を認めていますが、そういう方たちは周辺部に位置したと思われます。核心に近い人びとほど、明確に否定せざるを得ないという構図が生まれているのでしょう。闇は、ずっと深く、アメリカの権力構造と結びついているとしか考えられません。

     作品番号42.「擾乱」は、芸能界を舞台にした小説です。主人公の夫が、とつぜん「隠し子」がいると告白する場面があります。驚く彼女に「たった一度の誤りだった。妊娠したのを知って、堕ろすようにお金を渡した。納得して受け取ったので、信じていたのだ」と説明します。1週間たつと、夫の隠し子事件の全容が週刊誌に掲載され始めます。彼は、別の家庭をもっていました。週刊誌に暴かれることが確定したので告白したのだと、彼女はそのとき知ります。

     メラニアの緊急声明は、なにかが明るみにでる前触れかもしれません。この事件を考えるなら、ある意味、とても興味深いともいえます。なぜなら、彼女がつよく否定したことは、すべて事実かもしれないという印象を与えているからです。

     次回は、公開されている資料をもとに、エプスタイン事件の全体像を分かる範囲で整理したいと思います。

                              由布木秀

  • ゴールド、03

     金価格が、2026年3月に25%暴落した原因を、原油価格の上昇にもとめる記事を幾度も目にしました。このコラムでは、金と原油の市場がまったく違う構造から成立している事情を話題にしたいと思います。

     原油市場は、特化したプレーヤーで構成されています。ショート(売り)もロング(買い)も、専門家がおこなっています。具体的には、商社、石油メジャー、製油会社、航空会社、CTA(商品特化型ファンド)、マクロヘッジファンドなどです。市場は、未来の実需を予想する専門家によって構成されています。

     金も、おなじように専門分野です。金市場のプレーヤーは、中央銀行、宝飾需要、ETF、マクロファンド、金鉱山会社などです。実需にくわえ、国家が介在する市場です。とはいえ、金市場には近年、一般投資家が参入しています。原油市場は、素人が入りこめない危険地帯です。

     原油と金は、おなじ「コモディティ」という範疇では語れないほど、市場構造が違っています。原油のプレーヤーが金市場に一時的に参入したり、また反対に金の専門家が原油市場にとつぜん出現する事態は、ほぼ考えられません。今回は、原油価格の暴騰と金価格の暴落が同時に起こりましたが、つねにこうなる必然性は考えにくいのです。

     原油価格は、基本的には景気によって左右されます。好景気なら大量に消費され、不況期には価格が低迷する、景気敏感商品です。金は、宝飾需要よりも、基軸通貨の揺らぎを反映する中央銀行の買いなどによって価値が決定される、信用敏感資産といえます。

     原油は、世界で1日1億バレルつかわれ、年間500兆円ほど取引されますが、最終的には霧散していまう消費財です。価格は、その年の需要によって大きく変化します。したがって、埋蔵量を資産として換算しても無意味です。つまり、原油市場は、ストック資産という性格をもちません。毎年リセットされる、0からはじまる巨大なフロー市場です。

     国家による原油備蓄は、流動性市場のなかに一時的に停留する在庫と考えるべきです。岩手県久慈市にある、国家備蓄基地を見学したことがあります。そこでは、原油が水より比重が軽いという性質をつかって蓄えられています。具体的には、地下の岩盤に巨大な空洞をつくり、周囲を水でみたし、水圧で封じこめ、大量の原油を保管しています。しかし、こうした備蓄原油は、どれほど多量でも、価格決定に無関係で、管理コストが発生します。最終的に消費されるまでのあいだ、市場にとどまっている在庫にすぎません。永続的な価値を保持するストック資産とは、本質的に異なります。

     いっぽう、金は毎年30兆円ほどが、あらたに市場に出回ってきます。しかし消費財とは違い、年間供給量は追加分に相当します。価格が決定されると、総量の22万トン(5500兆円、2026年2月現在)に影響が及びます。つまり、金市場は,永続的に積み上がるストック市場といえます。

     ふたつの市場は性質が違いますから、単純に比較はできません。しかし、1年間に新たに市場にでてくる部分に対する資金需要は、金市場のばあい30兆円で、原油市場500兆円の15分1にすぎません。つまり、資金の流れが圧倒的に小さいといえます。金市場は、レバレッジ勢を中心とした1兆円程度の売りによって、25%も急落するという脆弱性をもっているのです。しかも不動産市場とは違い、充分な流動性があります。そのために換金売りの対象にされ、変動率が大きくなりやすいのです。金市場は、巨大で安定したストック市場でありながら、小さな資金の流れ(フロー)で価格が大きく揺れるという矛盾した構造をもっています。この場合、ストックとは、ある時点での保有量、残高を指します。いっぽうフローとは、単位時間あたりの増減量、流量をあらわします。

     燃料としてつかわれる原油は、文明のエネルギーを象徴しています。現代社会の消費構造、経済的繁栄を数値化しています。いうならば、文明の血液に相当します。たとえるなら、貧血になると、運動によって息切れが起こります。

     金は、文明の蓄積、ストックです。金が象徴するのは、この世の栄誉です。永遠に錆びることがなく輝くゴールドは、世界の秩序、権威、信頼、不変の価値を表現しています。つまり、文明の基盤、骨格ともいえます。

     原油は、未来の不確実性に支配されるフローです。現在の文明をうごかすダイナミックな力、そのものといえます。

     いっぽう金は、過去の蓄積によって決定されるストックです。文明を支える基盤で、人間が希求してやまない資産です。人類の歴史そのものであり、人の脳にふかく刻みこまれている永遠の通貨なのです。

                              由布木秀

  • ゴールド、02

     新年度に入りましたので、ゴールドの価格分析をしてみたいと思います。

     まず、昨年度のはげしい値動きから振りかえってみます。NY金先物は、2025年4月、3055ドルでした。10月と2026年1月に調整がありましたが、3月には5450ドルという歴史的な高値まで上昇しました。その後、アメリカによるイランへの空爆を材料に、短期間で4120ドルまで売られました。高値から25%の下落は、調整という幅をこえていました。しかし、長い髭を残して上昇に転じ、先週末は4680ドルまでもどしています。最高値からは、85%の水準です。2026年1月末の暴落もはげしかったですが、3月の急落25%は、記憶にないほどの暴落でした。なぜ、これほどの変動が生まれたのか考えてみたいと思います。

     急落の原因が急騰だったのは、誰にでも分かる道理です。問題は、金価格の上昇トレンドが崩れていないことです。各国の中央銀行が着実に金を積み増し、ドル離れ、スタグフレーションの予兆など、金価格が上昇する構造に、まったく変化がありません。今後も上昇する予想はあっても、下落の可能性を語るアナリストは極端にすくないのが現状です。米国、中国、日本をはじめ世界中の国家が財政余力をなくしています。すでに通貨安競争がはじまっており、原油高がさらに足かせとなりインフレ懸念は現実味を帯びています。

     現況から考えるなら、金を売らねばならない人びとがいたとしか考えられません。米国株式の代表的な指数、US500 は2月から3月にかけて約10%下落し、時価総額にして4.5兆ドルがうしなわれました。恐怖指数、VIX も1月の15から25へと65%上昇しており、レバレッジ勢が追いつめられたことは数字からもあきらかです。さらに、3月のGLD(SPDR Gold Shares、世界最大の金ETF、現物市場)では50億ドル規模の資金が流出しました。これは、現物需要の減退ではなく、換金売りが起きたことを裏づけています。US500の週足チャートが、底がみられない状況で推移するなかで売らざるを得なかった者たちがいたのです。レバレッジ勢は追いつめられ、ヘッジとして保有していた金を益出しにつかったことが暴落の大きな原因でした。それに乗じて、ショート勢(売り方)が利益をあげ、ロング勢(買い方)の損切りも重なって25%という大幅な下落につながったと思われます。もちろん、期末要因も加味されたはずです。まとめるなら、2026年3月の急落は、株価維持のための換金売りが中心だったと考えられます。

     金価格の上昇は、ドル不安の表現です。安全資産として、米国債が買われたのではありません。米国10年債権は、2月から5%程度下げています。表裏一体の米国10年物金利は、この間に10%程度上昇しています。つまり、現金化されただけです。その現金を、どう使うのかが焦点になってきます。

     金利上昇によって金が売られるという陳腐な説明は、年後半には通用しなくなると思われます。通貨安競争がはじまった時点で、金利と金価格の関係は断ち切られます。金利上昇は通貨への不信感の表現であり、金売りの理由にはなりません。この部分は、稿を改めて考察したい問題です。

     底をつけた以上、ふたたび4120ドルまで売りこむことは困難です。おそらく6月くらいには、5500ドルへの挑戦がはじまると考えられます。さらに、今年度中に7000ドルを予想します。この辺のくわしい話は、一度期にはできません。

     最後に焦点となる、金はいくらを目指すのか、を付けくわえます。

    ゴールド、01」のコラムで話したとおり、全世界の担保明確化資産(Clear‑Collateral Assets)は、2026年時点で、20京円程度と思われます。これは、デリバティブでもなく、レバレッジがつかない、明確な担保価値を反映する文明の基礎的信用層と考えられます。金22万トンの総額は5500兆円です。おそらく金総額は、2京円をめざすと考えられます。1972年のニクソンによる金兌換制度が廃止されてからの50年間は、人類にとって異常な時期でした。ドルの基軸通貨は簡単には壊れなものの、大きな変革の時をむかえています。

     歴史的には、名目資産の10~20%程度の金が裏付けとされていました。ここには、ローマ帝国でつかわれた、キログラフ(借用証書)、シングラファ(為替手形)、ノミナ(帳簿信用)。中国王朝で使用された、飛銭、会子、交子、牙行信用、票号の為替などがふくまれています。デリバティブ、レバレッジは、近代になって発見された担保希薄装置です。これらは、担保が明確な純粋な信用文書として使用され、現代の手形に相当すると考えられます。

     したがって、金価格は、担保明確化資産20京円の10%、2京円をめざすことになります。つまり、NY金先物は、20000ドルになる可能性があります。

     ここで重要なのは、インフレを抑制することが困難な状況ですから、世界金融資産は大きな変動を繰りかえしながらも、名目的には上昇します。それに応じて、金はさらに高値をつけていくことになるはずです。

                              由布木秀

  • 成長戦略とはなにか

     日本の550兆円に上る対外純資産は、ながらく世界最大規模といわれてきました。2025年9月、ドイツが620兆円を超え、さらに中国も610兆円になったと言われています。2025年の日本政府債務残高は1250兆円にのぼり、GDP比でも260%と世界最悪です。しかし、550兆円は間違いなく巨額です。年金基金や日本企業が海外に資産を残したのは、国内に投資する対象を見つけられなかった裏返しだと考えられます。少子化による労働力の低下や技術革新が起こらなかったなど、さまざまに論議されてきた事実です。無謀なリスクを避けた結果、企業は多額の内部留保金を抱えることになりました。いっぽうドイツや中国の対外純資産が積み上がったのは、輸出による黒字という構造的な強さと考えられます。

     新総理は、17分野にもおよぶ「成長戦略」を掲げています。これは、企業に自国への投資を促すものです。しかし、企業が探しても有効な投資先がなかったのです。したがって、政府は国策とし、税制面で配慮し、補助金を出して後押しするといっているのです。そのためには、税金がつかわれることになります。南鳥島のレアアースは、典型例です。この話は、商業化できなくても、資源があるという夢を物語化することができます。メタンハイドレートも、似た文脈でつかわれました。技術的、経済的に採掘が困難で、強力な温室効果をもつメタンは現実には商業化できません。それにもかかわらず、日本には油田並みの資源があるという物語がつくられました。宇宙とか、量子コンピューターなども、夢を語るのに十分なテーマを持っています。さらに地政学上、中国、北朝鮮、ロシアという脅威があるので、防衛関連企業に脚光が浴びるのは間違いないでしょう。

     日経平均は、非常に便利なツールです。225の銘柄から構成され、数が多いので日本企業を代表する指標と思われがちです。しかし、実際には日本企業全体を数値化するTOPIXとは異なり、寄与度の大きい10銘柄くらいに的を絞って株価を上昇させれば、高値に持って行くことが可能です。業績が振るわなくなった企業は225から外し、勢いのある会社に入れ替えればいいのです。政府が日経平均を上げようと考えているなら、連動する投信を買うのが正しい選択になるでしょう。

     日銀は制度上、政府から独立した機関です。しかし、アベノミクス期において、政府の経済政策と完全に歩調をあわせました。日経平均をまもるために、ETFという形で日本株を大量に保有することになりました。黒田元総裁は、最近のインタビューで「11年におよぶ、緩和は正しかった」と語っています。当初、副作用を危惧し、「2年」という期限を設けたのを忘れたように振る舞うのは、建前と現実とが違うことを象徴しています。

     すでに大株主となっている以上、政府は日銀を「通じて」株価を押し上げる余地が限られています。そこで、直接的に買い支えを行う代わりに、成長戦略という国策テーマを掲げたのです。企業の国内投資を誘導し、その成果を日経平均という象徴的な指標で可視化しようとしています。ですから円安は、避けられないはずです。

     国家は、物語を必要とします。成長戦略とは、政府が新しい語りを提示し、その夢に企業を従わせるための国策です。経済政策ではなく、国家が自らの正当性を維持するための物語装置です。そして、成果を国民に可視化するための道具として、日経平均が利用されるのでしょう。

                              由布木秀

  • 円安、01

     トルコ共和国と日本は、資源が乏しいという点では似た部分があります。リラ建てトルコ国債は、25%以上の利率がつき、魅力的な投資先と紹介されたりします。しかし、円をリラに換え、また満期になったとき、リラから円にもどす手数料をとられ、みかけほどには利益がでません。さらに肝心な点は、「ゴールド、01 」で話題にしたように、25%は、信用リスクということです。この30年でトルコの株式は、1000倍になりました。しかし、通貨のリラはドルに対して50分の1になっています。25%くらいでは、利益がでないのは当然です。トルコリラが6桁のデノミをした事実は、重大です。日本円でいうなら、100万円が1円になるようなインフレが起こったのです。

     アメリカがイランを攻撃し、リスクオフになっても、円高にならない事態は、とても危険なサインです。為替の月足チャートをみれば一目瞭然ですが、160円を超える円安になると、もう節目がありません。1980年代に揉みあった240円まで、テクニカル的には真空地帯です。その領域を超えると、1970年代以前の固定相場、360円になってしまいます。円安になることは、日本が貧しくなるのと同義です。外国人の旅行者は来やすい環境になりますが、物価が上がり一般庶民にとっていいことはほぼないでしょう。

     さらに恐ろしいのは、新政権が、さらなる円安を望んでいるらしい事実です。日銀の利上げを抑制し、審議会に円安容認派を送りこもうとしています。円安を止めるには、金利を上げる必要があります。しかし金利上昇は、膨れ上がった国債の利息が増加することを意味し、財政破綻が現実味を増します。つまり、どうにもならない状況が目前に来ています。激しいインフレにおちいる公算は、充分に考えられます。トルコは観光が主産業ですが、日本もおなじになる可能性があります。

    「総理。これ以上、円安になったら、どうするつもりなのですか?」

    「大丈夫です。株価を上げますから、安心してください」

    「株を買えない人は、どうするのですか?」

    「ニーサを、拡充したでしょう。政府は、やるべきことはしています」

    「年金は、どうなるのですか?」

    「物価とおなじペースで上げることは、お約束できないでしょうね」

    「それでは、貧しい者は、食べていけないのではないですか」

    「政府がきちっと株価を上げるのですから、ご自身で財産をつくれなかった責任は、ご自分でとってください。日本は、自由主義の国家です。ご自分の責任を、政府になすりつけないでください」

                              由布木秀

  • ゴールド、01

     2026年2月時点で、世界の代表的な金融資産として、米国債総額は6000兆円で、米国株式総額は8000兆円です。流動性にとぼしい不動産は、ここから省くことにします。金融資産には、上場株式、未上場株式などの株式現物。一般的な国債、社債、地方債、財投債、事業債などのストレート債券。預金。銀行貸し出し(ローン)。レバレッジはつかない、投資信託、ETF、MMF。売掛金、買掛金、手形などの商業信用。中央委銀行のマネタリーベース。などが考えられます。いま挙げた商品は、レバレッジをもたず、明確な担保によって裏づられているので、これらを「担保明確化資産」と定義します。最初に省かれた不動産の一部は、リートという形式を取って、ここに組みこまれています。 全世界の担保明確化資産は、2026年時点で20京円と推定されます。このうちアメリカのシェアは、35%程度と考えられます。

     金現物は、22万トンが世界に出回っています。10%は工業用、30%が宝飾用、残りの60%が、ゴールドという現物資産だと考えます。1g、25000円とすると、総額は5500兆円になります。単純化して、担保明確化資産、20京円と、金の総資産、5500兆円の比率が適切なのか、考えてみたいと思います。

     人類の歴史では、一定規模以上の国家は、金を通貨の裏付けにしてきました。ローマ帝国でも、中国の歴代王朝でも、一般通貨は銀でしたが、その価値は、金によって裏づけされました。日本も、おなじように小判、大判が信用を支えてきました。国々が財政基盤となる金をあつめるために莫大なコストをかけたことは、銘記するべきだと思われます。このように金が果たしてきた役割を考えると、1971年、ニクソンの金兌換性廃止以降の世界は、歴史上きわめて希な時代に突入したと考えられます。

     1944年のブレトン・ウッズ協定によって、アメリカは、基軸通貨をポンドからドルに変更することに成功しました。これによって、アメリカは紙を印刷し、国債と名づけて発行し、他国に購入させることで、労働力をふくむ消費財との交換が可能となったのです。まさに、無から有を生み出すことに成功しました。世界から富を簒奪してきたのは、基軸通貨をもつアメリカだったのは間違いない事実です。この状態をつづけてきて、いまさら、貿易赤字が不均衡といいだすのは、あまりに無見識な発言です。

     米国債10年ものの金利は4%程度です。金は利息をうまないから、投資対象としては補足的とよく言われます。識者もそう主張します。しかし、利息をうまないという真意、核心は何でしょうか?。もし米国債が4%の金利をつけないと、格付けは、CCC、デフォルトとなってしまいます。格付けの低いハイイールド債が高い利息をしはらわないと市場で買い手をみつけられないのとおなじ原理で、4%は信用コストと考えるべきです。金は、若干の管理コストが発生しますが、信用コストは0なので利息がつかないと考えるべきでしょう。仮に国債と金を比較するなら、金利ではなく、購買力でしか検討できないはずです。

     この話題は、かなり奥深いので、とても一度のコラムでは論じ切れません。とはいっても、数字を並べ立てるだけでは、読者にあまりに失礼です。ですから、結論の一部を話しておきます。アメリカの金保有量は、8133トン、総量の4%にすぎません。世界の中央銀行の保有量、35000トンに対しても、23%にすぎません。米国が、世界の35%の金融資産をもっているなら、金も総量22万トンの35%保有していれば、ドルの裏づけとして機能した可能性があったはずです。ここに、大きな難題がひそんでいます。1971年以降のドル体制は、米国債を中心とした信用構造によって成立しました。金価格の上昇は、ドルの信認不安を反映するひとつの尺度です。イランを軍事攻撃することによって、金はふたたび高値をめざしています。これは、アメリカにとってまったく望まない展開です。

                              由布木秀