東地中海世界

 ギリシア神話は、紀元前800年頃に、イオニア人のホメロスやヘシオドスによって、集大成されたと考えています。叙事詩が想定した舞台は、ギリシア本土、クレタ、小アジア、エジプトによって構成される東地中海世界です。トロイア戦記が大きな柱となりますから、設定は紀元前1200年頃と考えられます。この時期は、歴史的には「前1200年のカタストロフ」とよばれ、地中海東部に民族の大移動をふくむ大きな社会変革が起こったと考えられています。オリンポス12神の多くは、そのときに小アジアを経てやってきた外来神だろうと推定されています。神々の起源については、さらに東部、現在のイランあたりまで考えられるようです。こうした神々の交代が、神話では、ウラノス、クロノス、ゼウスという3代の系譜として語られているのでしょう。

 東地中海世界は、エジプトの南をすべて「エチオピア」という名称で表現しています。さらに西には地中海がひろがり、陸地が散在します。北アフリカは、リビアとよばれていました。大西洋に通じるジブラルタル海峡は、ヘラクレスの柱とよばれ世界の果てです。さらに西の海中には、クロノスが治める幸福の島があることになっています。東は、たくさんの国家があったと思われますが、かなり省略され、一番はてに「インド」があることになっていました。北は、「黒海」が果てで、冥界の入り口でした。このちかくには、魔術師だった王女メディア、アマゾン女族などが暮らしていました。

 がんらい黒という文字は、世界の外側、未知で危険な場所を意味しています。ドイツ南部にひろがるシュヴァルツヴァルトは、黒い森(ブラックホレスト)とよばれます。カラ・クム(黒い砂)は、中央アジアのトルクメニスタン に広がる大砂漠です。黒龍川(アムール)は、満州語で黒い川です。ヒマラヤの北部につらなるカラコルム山脈は、テュルク語系(中央アジア語)で、黒い山脈を意味しています。日本でもたくさん使用例があり、たとえば、黒部は深い渓谷です。

 歴史的な調査では、クレタ文明は、1200年よりずっと前に崩壊しています。神話世界では、海洋国家だったクレタは、東地中海の覇者でした。有名な迷宮があったとされるクノッソス宮殿の遺跡に、行ったことがあります。宮殿までつながるアムニソス川の河口は、砂浜で浅瀬がつづいていました。巨大な双斧の軍旗がはためくミノスの軍艦が、浅瀬にたくさん引き上げられていたのだろうと空想できました。

 神話では、クレタ王国の支配者、ミノスには、ふたりの娘がいます。姉がパイドラ、妹がアリアドネです。アテネに民主制を引いたという伝説をもつ英雄テセウスは、クレタ王国を滅ぼし、アテナイに覇権をもたらします。作品番号12.「アリアドネ」は、ふたりを主人公にしています。しかし、どう考えても、テセウスが生きたとされる時代は、アリアドネと10世代くらい違います。こうした矛盾をかかえる部分が、神話の面白いところです。

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