英雄、ペルセウスは、ゴルゴンの一人メドゥーサの首を取ってくる命令を受けます。ゼウスの息子だった彼は、軍神アテネと、ヘルメスの協力をえます。アテネに手をひかれ、顔をみないようにして、盾に映しだされたメドゥーサの首をとることに成功します。そのときの血しぶきから、ペガサスが生まれます。メドゥーサの首を袋に入れて飛行していると、エチオピアの王女、アンドロメダをみかけます。王女は、海の怪物ケートスの生け贄にされていました。彼は、ケートスを倒して、王女を妻にえます。
ギリシア神話でエチオピアは、いくつか記述がありますが、おそらくここがいちばん有名な話でしょう。現在のエチオピアには海がないですから、南の果てを意味しているだけです。英雄は、つねに人がいけない未知の領域に侵入する定めをもっています。そこには、金銀財宝があふれ、美女が待っています。これが神話構造の骨格です。作品番号42.「擾乱」は、英雄がテーマです。
ペルセウスとアンドロメダの子供たちが、神話世界をつくっていく主役になります。英雄ヘラクレスや、トロイア戦禍を引きおこす美女ヘレナも、ふたりの系譜につらなっています。
エチオピアとインドは、とてもよく似ています。ともに世界の果ての象徴で、憧れを持たれ、理想化されました。
インドは、大航海時代に冒険家たちがめざした土地です。ですから、彼らが到着した場所は、どこもインドだと考えられました。
この話は、作品番号05.「旅の終わり」で触れています。
エチオピアも、ずっと未知の領域でした。イスラムが北アフリカを占有し、イェルサレムをうばうと、キリスト教を奉じる未知の帝王、プレスタージョンの王国と考えられました。
旧約聖書、列王記上10章、歴代誌下9章には、ソロモン王の知恵を試しにくる、シバの女王がでてきます。該当する国は、イエメンにあった、サバ王国が考えられます。しかし、紅海をわたって南アラビアからやってきた「エチオピア女王」だったという説が有力でした。
エチオピアは、古くからユダヤ人が住み、4世紀にはキリスト教会ができたともいわれます。北アフリカがイスラム化したあと、エジプトで暮らすキリスト教徒は、コプトとよばれます。
ソロモン王は、シバの女王の子供を認知して「聖櫃」(ターボート)をあたえたとされます。、エチオピアのコプト教会には、いまでも「アーク」がおかれているという話です。
エチオピアは、植民地にされたことがない数少ない国でした。存在は知られていましたが、情報がかぎられ、すべてが謎につつまれた神秘的な王国でした。そこに「シバの女王伝説」がつけたされ、正統なキリスト教を奉じる巨大帝国と考えられたのです。ナイル川は、もともとエデンの園から流れ出ていると考えられていました
スコットランドの探検家、ウイリアム・ブルースは、古代文献の真偽を確かめることが使命だと考えてナイル川を溯上し、1770年、伝説の天国「エチオピア」にたどりつきます。そこはアビシニアとよばれ、戦国時代のまっただ中でした。素晴らしく美しい女性が、たくさん暮らしていました。
赤銅色のアビシニア女性は、端整な顔立ち、エキゾチックで気品のある雰囲気、そして艶がある皮膚の色から美人としてしばしば語られます。生をみてみたいとずっと思ってきましたが、なかなか機会が訪れません。
「ナイル探検」(岩波書店)は、小説にしたいような面白い話で詰まっています。マムルーク(奴隷出身の軍人)と、アビシニアの赤銅色の女奴隷、この組み合わせはロマンの塊です。
作品番号54.「領域」の「聖なる七つの丘」は、ここにチャレンジしましたが、書き直したい小説です。もう一度創作期がくれば、書けるも知れません。
由布木秀
