ゴールド、07

 今回のコラムでは、空売りの実態を考えてみます。

 空売り(ショート)は、投資家が、証券会社から借りた株を市場で売り、後日、買いもどし、返却するシステムです。その差額決済が、利益または損失になる仕組みです。 原資産にもとづく契約ではなく、それを借りて売る行為です。したがって国際決済銀行(BIS)の分類では、デリバティブ(先物、オプション、スワップ)には入りません。しかし、実際には「差額決済」というおなじ性格をもっています。レバレッジを効かせることができ、原資産を保有せずに価格変動に賭けるので、信用供与(担保希薄化)によって成立しています。つまり、経済的には、デリバティブとおなじ種類の構造をもつ取引です。 

 金融史を考察すると、空売りからデリバティブが出現してきた歴史を追うことができます。

1) 空売り(ショート)の原点は、17世紀オランダのチューリップバブルでした。このときに、 信用供与と差額決済という構造が成立しました。

2) 先物(フォワード)は、空売りの構造を契約化したものです。 原資産をもたずに、将来価格に賭ける手法です。

3) オプションは、先物に権利を付与したものです。 手付金(プレミアム)は、空売りの証拠金から派生しました。

4) スワップは、金利、通貨などの差額決済を体系化したものです。空売りの差額決済を、抽象化したものと考えられます。

 つまり空売りの信用構造が、デリバティブの母体となった歴史をみることができます。

 しかし「ゴールド、06」で話したように、手形の裏書きは、担保再利用を意味するので、歴史的には「空売り」よりも古く、デリバティブの原型とみなせます。

 私は、このゴールドコラムを通して、人類の文明に秩序が形成されたメカニズムを考えています。文明の基盤、骨格に相当するのは、信用構造です。信用が金融のメカニズムを支えています。

 裸の空売り(Naked Short Selling)とよばれる手法があります。これは、存在しない株を売る行為で、担保がゼロのまま信用だけを発生させる構造です。ほんらい投資家は、証券会社が保有する株を借り、市場で売却し、後日買いもどします。しかし、「裸の空売り」では、担保となり、やりとりされるはずの株が存在しないのです。これは、分類的には担保不詳化資産になります。

 裸の空売りは、 1630年代のオランダ(アムステルダム)に最古の記録をもつといわれます。 背景には、この時期、世界初の株式市場(オランダ東インド会社 VOC)が生まれ、世界初の先物、信用取引が考案されました。

その後、世界初の投機バブルとして有名なチューリップバブルが発生しています。この時代に実在しない株を売る(裸の空売り)が横行したといわれます。

 当時は、証券の受け渡しが紙ベースで清算機関が未発達でした。誰が何株もっているのかリアルタイムで把握できなかったため、売り注文がでれば、とりあえず約定する市場構造が存在していました。つまり、 担保の所在が確認できない(担保不詳) という担保不詳化資産が発明されたことになります。

 19世紀後半、アメリカの鉄道株バブルでも裸の空売りが横行し、問題になりました。実在しない株券を大量に売り、株価を暴落させることで企業は破綻に追いこまれました。もちろん売り手は、無価値になった株を買いもどすことで莫大な利益を獲得しました。

 現代では、市場の透明化が論議されるなかで、むしろ増えているといわれます。証券の受け渡しが電子化され、実体株の所在が曖昧になるとともに清算機関(DTCC)が巨大なブラックボックス化しています。大口投資家が「仮想的な株」を無制限につくれる構造になっています。ここには、レポ市場、貸株市場、担保再利用化が複雑に絡んでいます。担保ゼロで虚構の信用を発生させる裸の空売りは、21世紀の方が横行しやすい環境になっています。

 大口投資家は、清算機関と結託しています。現代の裸の空売りは、 清算機関(DTCC)と証券会社の黙認 によって成立しています。制度が大口の裸売りを前提に設計されているのです。買い方は、有限な担保明確化資産を使用しますが、売り方(裸売り)は無限にうみだされる担保不詳化資産をつかい、売り圧力をいくらでも拡大できます。これでは、勝負になりません。

 裸の空売りは、文明が最初に生みだした「担保不詳化」でした。近代、デリバティブ、レバレッジという発明によって行きついた、 担保不詳化資産のプロトタイプです。

 空売りは、1)価格発見に役立つ。2)流動性を提供する。3)過熱を抑える。とされ、必要悪といわれます。しかし、 原資産をもたず、担保希薄化によって成立し、本質は差額決済でレバレッジを賭けることができます。市場のゆがみを大きくし、大口の参加者に利益をもたらすシステムです。金融資産を担保構造の外側で膨張させます。実体経済とは無関係に価格をうごかし、信用を裏づける担保構造を不安定化させます。これらは 文明の基盤を侵食する構造と考えられ、絶対悪とみなすべきだと考えています。

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