為替の月足チャートからは、160円を超える円安になると節目がありません。1980年代に揉みあった240円まで、テクニカル的には真空地帯です。そこを越えると1970年代以前の固定相場、360円になってしまいます。「円安、01」のコラムで、こう書きました。
2024年7月に、1ドル162円に上昇したとき、政府は円買いドル売りの市場介入をしました。データとしては、4月29日、5.9兆円。5月1日、3.9兆円。7月11日、3.2兆円。7月12日、2.4兆円。総額、15.3兆円と推測されます。その後、140円割れまで円高が進みましたが、10月には反転しました。チャートでは、140円が底値を形成しました。
2026年は、4月30日、5兆円規模の介入が行われたと推測されます。その後も5月連休中にくりかえし介入し、おおよそ10兆円がつかわれたと思われます。為替介入の権限は財務省で、日銀は実務を担当します。
介入の原資は、財務省が保有する特別会計、「外国為替資金特別会計」(外為特会)で、2026年時点で200兆円規模です。米国債(65%)、外貨建て預金などの外貨資産(35%)を売却して円を買っています。しかしながら、米国債を売却してドルを調達する手段は、政治的にアメリカの同意がえられません。実際には、外貨預金を取り崩していると思われます。いずれにせよ、円高阻止時とは違い、介入に上限があるのは間違いありません。つまり、この方法で円安を阻止するのはたいへん難しいといえます。介入効果はすぐに判断できませんが、円を売っている者たちは、この構造を正確に把握しています。
円安の根本原因は、円に対する信認の低下です。したがって、通常は国債の利率を上げて対処するべき問題です。注目すべきは、日本国債10年金利です。2026年5月15日には、2.72%で、1997年の水準まで高騰しています。2024年7月が、1.08%でしたので、金利が2.5倍になっても円安がとまらない状況だといえます。
1997年はアジア通貨危機が起こりました。日本国債10年金利は、2.7~2.9%でした。2026年の2.72%は、29年ぶりの金利水準です。日本は、1997年ではまだ成長国でしたが、2026年では人口減少、財政赤字、潜在成長率ゼロで、まったく違う構造になっています。
政策金利(公定歩合)は、日銀が決める短期金利です。いっぽう10年国債金利は、市場がきめる長期金利です。通常は連動しますが、 信認低下局面では長期金利だけが急騰します。つまり長期的な国債には返済能力に疑問符がつくため、信用コストが増加するのです。
日銀が政策金利をどこまで上げれば円安が止まるか、という議論はたくさんあります。しかし、真実は誰にも分かりません。
問題は、長期金利と短期金利の乖離が常態化していることです。
短期金利を上げなくても国債価格が下落すれば、大量に保有している日銀の含み損は拡大します。これは負の循環を生み、さらに信認低下が生じることにつながります。
金利2.7%は、 日本の国債残高(1100兆円)に対してきわめて重い事実です。 利払い費の急増は、 財政悪化から、さらなる円安をうむ負のループをつくります。さらに、日本国債を運用している銀行、保険会社の含み損が拡大し、金融システムを不安定にします。これも、さらなる円安の材料です。
こうした金利構造の歪みは、別の危機を生みはじめています。つまり、日銀が政策金利を変更しなくても、市場は勝手に日本国債の劣化をおりこんでいます。
財務省の介入は、対症療法にすぎません。介入金額に上限が明確に存在する以上、160円を阻止できないことは、長期金利が上昇している事実からも自明です。ほんらいは、対症療法をしながら根本治療を進めなければなりません。しかし、現実にはアベノミクスの後始末ができなくなっています。
政府は、インフレを容認するつもりです。株価は、げんに6万5000円に到達しました。
これは、喜んでいられる状況ではありません。
