ゴールド、10

 ここまで、文明の基盤として信用構造があり、その表層として金融資産が可視化されていることを明らかにしてきました。金融資産を担保構造から、1)担保明確化資産、2)担保希薄化資産、3)担保不詳化資産に分類しました。また、担保再利用装置としてデリバティブ、空売り、担保希釈化装置としてレバレッジを位置づけました。さらに、この3層から成立する現代金融の脆弱性を話題にしました。

 2008年のサブプライム危機は、これらの3層構造がどのようにゆがみ、連鎖的に崩壊したのかを、もっとも分かりやすく示す事例です。現代金融の信用構造が、どの段階で、どのように壊れたのかを可視化することができます。

 サブプライムローン( subprime lending)は、主にアメリカで、プライム層(優良客)よりも下位にあたるサブプライム層に貸し出されたローン商品を指します。これらは証券化され、2001年~2006年までつづいた米国住宅価格の高騰により、借り手の資産が脆弱だったにもかかわらず、高い格付けをあたえられていました。この証券は、他の金融商品と組みあわされ、世界中で販売されました。しかし、2007年夏ごろから住宅価格が下落しはじめると不良債権化しました。それにともない、サブプライムローンに関わる債権が組みこまれた金融商品は信用をうしない、市場で投げ売りになりました。

 2008年後半に、リーマン・ブラザーズの倒産によるリーマン・ショックが引きおこされ、高い信用力を持っていたAIG、ファニーメイ、フレディマックなどが国有化される事態にまでいたりました。大幅な世界同時株安が進行し、世界中の金融機関で信用収縮が連鎖的に発生しました。サブプライムローンは、クレジット・デフォルト・スワップとともに世界金融危機(2007年~2010年)の原因となりました。

 2007年6月22日、米大手証券ベアスターンズ傘下のヘッジファンドが破綻し、問題は金融市場全体に拡大しました。 このファンドは、住宅ローン担保証券のなかでもリスクの高いエクイティ債や、それを再度組みこんだ CDO-squared に投資していました。 これらは、レポ取引や再担保を通じて何度も再利用され、担保不詳化資産を肥大化させていました。

 CDOは、債務担保証券(Collateralized Debt Obligation)の略で、コアに相当する住宅ローンをたばね、トランシェ構造で分割し、格付けを付与し、世界中に販売された「担保希薄化商品」です。金融資産分類では、2)担保希薄化資産に該当します。

 squaredは、平方、二乗されたという意味です。

 CDO-squaredは、一度つかわれた担保証券を、さらに担保としてあつかっています。すでに、なにが実質的な担保なのか不詳になった商品です。資産分類では、3)担保不詳化資産に該当します。

 トランシェ(tranche)は、切り分けた部分、スライスという意味です。その構造は、3層からできています。1)シニア(Senior)、AAAの格付けをもつ、もっとも安全とされる資産。2)メザニン(Mezzanine)、BBBなどに格付けされ、中間に位置します。3)エクイティ(Equity)、格付けをもたない、ハイイールド債(ジャンク債)とよばれる、もっとも高リスク資産です。おなじ商品を3つの部分を切り分けると、安全性をもとめる者と、ハイリターンを追求する者とに売ることができます。いっしょにしておくと、全体の格付けが低くなり、売れなくなります。しかし、どのように分割しても、中身が担保不詳化資産ですから、1)2)3)の質が変化するわけではありません。

 ベアスターンズとエプスタインが共同で運用していたリキッド・ファンディング( Liquid Funding) は、この影の信用構造を象徴する車両(vehicle、特定の目的のためにつくられた容器)でした。リキッド・ファンディング は、実体のない担保を再利用し、レバレッジを極端に高める仕組みを持っていました。 サブプライム危機は、コア(住宅ローン)のゆがみが、担保不詳化資産として再利用されました。この危機では、エクイティがまず破綻し、つぎにメザニンが、最後にシニアが崩壊するトランシェ構造の逆流がみとめられました。

 しかしながら、サブプライム危機の本質は、3層から構成される信用構造の崩壊順序ではありません。過剰に増幅され、再利用された信用構造が、相互に依存しながら同時に崩壊していく、構造的な脆弱性を露呈した事例だといえます。

 崩壊以前の信用構造を整理してみます。

1)当時の住宅ローンは、1600兆円。このうち、コアの担保明確化資産に相当するサブプライムは、200兆円です。2)担保希薄化資産は、1400~2100兆円で、コアに対し担保は、1/10に希薄化されています。3)担保不詳化資産は、7000~8000兆円と考えられます。コアのサブプライムに対し、1/40倍以上の担保の希薄化が起こっていました。
 この危機で一度整理されたはずの担保希薄化構造は、ふたたび、総額130京円という規模まで膨れあがっている事実を直視する必要があります。

投稿をさらに読み込む