生活保護から考えてきたコラムでは、貯蓄率の低下、貯蓄大国というナラティブ、さらに現実の貧困をみてきました。まとめるなら、人口の10%を占める富裕層が総資産の60%を保有しています。さらに70歳以上の高齢者が、32%をもっています。こうした事実から、高齢者は資産があるので、社会保障費を削ろうという動きがあります。
高齢者の実態を検討してみます。
70歳以上の高齢者人口は2800万人、世帯数は2000万と推定されます。生活保護世帯は90万で、全世帯に占める割合は、4.5%です。この部分は、まったく資産がない「ストックゼロ」の世帯です。しかし、申請をためらう人と、行政に門前払いされる人をふくめると、200~300万世帯がおなじ階層をつくっていると考えられます。世帯単位で分析した公式統計はありませんが、複数の資料を総合すると、下記の表になります。
| 世帯層 | 世帯(%) | 資産(万) | 住居 |
|---|---|---|---|
| 生活保護 潜在層 | 10~15 | 0~ 100 | 賃貸、施設親族宅 |
| 低資産層 | 35 | 0~ 1000 | 賃貸 老朽住宅 |
| 中間層 | 40 | 2000~5000 | 持ち家 (ローン済) |
| 富裕層 | 10~15 | 5000~ | 良質住宅 相続資産 |
この表から分かるとおり、充分な資産をもつ高齢者は、15%程度にすぎません。いっぽう45~50%は、老後に深刻な不安をかかえていることが分かります。低資産層は、貯蓄がほとんどなく年金に依存し、住宅ローンをかかえたまま高齢化するケースも増加しています。そこに、医療費や介護費用の負担が増えると、ストックは急激に減少します。
相対的貧困率は、65歳以上が27%前後で、平均の15%よりはるかに高くなっています。 高齢者の4人に1人が、貧困ラインを割っています。
単身世帯が貧困率を高めることは、よく知られています。
単身率は、60~69歳では20%、70~74歳では30%、75歳以上では40%です。70歳以上の単身男性では38%、単身女性では50%以上が相対的貧困に該当します。これは、ひとり親世帯とならぶ高い数字です。
現在の日本では、65~69歳は、男性の50%、女性の30%が働いています。就労率は70歳をすぎると急落し、男性20%、女性10%になります。ここからは、かんぜんにストックを削る生活になります。
70歳以上を分析したデータは公表されていませんが、推計では、30~33%、3人に1人が貧困ラインに該当します。さらに年金の実質価値は、20年で20%程度へっています。物価上昇に追いつかないため、 年金生活者は年ごとに生活が苦しくなる現実に直面しています。
「貧困」で記載したとおり、金融資産は、30歳未満はほとんどもっていませんが、30~40代では増加しています。したがって、いまさえ我慢できれば、10年後には資産をもてる可能性があります。
いっぽう50%の高齢者は、10年後、さらに悲惨な状況が約束されているのが現実です。
推計では、2040年に高齢者人口は3900万人(35%)、65歳以上の単身高齢者は900万世帯(現在の1.5倍)に増加するとみこまれます。
30歳未満の方には、金融ストックがありません。いっぽう高齢者には、若さというストックがありません。
若さのストックとは、健康、あたしい技能を身につける能力、社会的ネットワーク、失敗してもやり直せる時間を指しています。
さらに、高齢者は、親の介護という「負のストック」までもっています。現在、90歳以上が250万人、100歳以上が10万人います。その結果、介護者の30%が65歳以上という「老老介護」、さらに75歳以上が介護する「超老老介護」のケースが急増しています。介護の問題は、経済的な負担ばかりではなく、時間と自由、さらに将来の見通しまで奪っています。精神的にも、身体的にも消耗させる「負のストック」そのものです。
介護福祉は、医療より大切ですが、予算がつきません。
医療は、医師会や病院団体が票をもち、政治的に圧力をかけられます。しかし、 介護は票にならないので、行政は本気で取り組みません。その結果、介護は、家族の無償労働に依存しています。新聞を賑わす、介護疲れ、孤立死、介護破綻は、これからさらに増加する構造になっています。
政府の社会保障費削減方針は、「高齢者は早く死ね」というメッセージです。これほどの資産格差をうんでいる高所得者の税制を改善し、無駄を省いて、私たちの社会を支えてきてくれた人びとを大切にしなければ、国家とはよべません。
由布木秀
