貧困のいちばんの問題点は、なにをもって貧困と定義するかが不明瞭な点です。貧困バッシングが起こるのは、主観的な貧困と、客観的な貧困が違っているからです。より正確にいうなら、貧困は本人にしか分からないのです。貧困を制度的(客観的)に定義するなら、生活保護世帯になってしまいます。
厚労省の最新統計では、生活保護を受けている世帯数は165万世帯で、日本の全世帯数、約5000万世帯の3.3% に相当します。生活保護費は、すべて生きていくための費用(フロー)で、ストックとして積みあげられません。また資産をもたないことが受給資格になるかぎり、生活保護から抜けでることは制度上不可能です。この部分は、絶対的貧困とよんでいいと考えられます。
世界銀行は、極度の貧困を「1日、2.15ドル以下」と定義しています。世界人口の8%が該当するといわれますが、こうした話で日本の貧困問題をふかめることはできません。
相対的(主観的)な貧困こそが主題になるべきです。
日本の作詞家だったと思いますが、1日100万円ないと暮らしていけないと話すのをきいたことがあります。こうした人が借金に苦しんでいるのは、あきらかに別次元です。なぜなら彼は、充分なストックをもっているから借金ができ、さらにフローが多すぎるのです。
主観的な貧困は、周囲との比較から成立します。この状況では、まだなんらかのストックがのこっていて、行政の援助によって貧困を脱する機会をつくれる段階です。
「貯蓄大国」のコラムでみたとおり、人口の20%が金融資産をもっていません。この層は、ほぼ「貧困」とよべます。さらに下位層を構成する40%のなかには、なんらかの事件を契機に「貧困」に落ち入りやすい部分とみなせます。
国際的基準における相対的貧困は、「生活費が、社会の真ん中(中央値)の半分以下で暮らす人」と定義されます。日本に当てはめると、 1人世帯のばあいは、127万円 に設定されています。そこから計算される日本の相対的貧困率は、15%とされます。つまり、国民7人のうち1人が貧困状態とみなせます。
先進国を中心としたOECD の国際比較表(JILPT 経由)で相対貧困率を比較すると、もっとも高いグループにはいります。ブラジルなどの発展途上国をくわえた40ヵ国と比較するなら、2023年では8位に入っています。
| 順位 | 国名 | 相対的貧困率 |
|---|---|---|
| 1位 | コスタリカ | 21.16% |
| 2位 | ブラジル | 19.23% |
| 3位 | アメリカ | 18.09% |
| 4位 | イスラエル | 16.82% |
| 5位 | チリ | 16.29% |
| 6位 | ラトビア | 16.17% |
| 7位 | リトアニア | 15.62% |
| 8位 | 日本 | 15.40% |
年度で揺らぎはありますが、イギリス、10〜12%。ドイツ、10%。フランス、7~8%。北欧(スウェーデン、フィンランド)は、6~9%です。ヨーロッパ諸国と比べると、 日本は 社会保障の再分配効果が弱い国に分類されます。
貧困統計研究(阿部彩2024)では、 年齢、性別、世帯構成別の相対貧困率が公表されています。これに基づくなら、子ども(17歳以下)では11.5%、ひとり親世帯では44.5%が貧困に分類され、著しく高くなっています。
こうした相対的貧困率は、所得を基準に考えられています。しかし、 現実の貧困は「ストックの欠如」と考えるほうが妥当だと思います。
このばあいのストックとは、貯金、家財、年金、保険、不動産、人間関係(頼れる人)、健康、住居、教育、職歴、社会的信用を指しています。こうしたものが、いくらかでものこっているなら、人は現実に立って、考えなおす時間を確保できます。
ストックがあれば、失敗しても立てなおすことが可能です。
たとえば、貯金があれば、仕事を辞めても数ヵ月は生きられます。家族がいれば、住む場所が確保できます。学歴があれば、再就職の可能性があります。健康があれば、働けます。人脈があれば、助けてもらえる可能性がのこされています。
ストックがない人は、今日の食費を稼ぐために悪条件の仕事を断れません。家賃がはらえず、住居をうしないます。住居がないと、住所がなくなり、就職もできません。仕事ができないと、さらにストックが減少します。人間関係もうしなわれ、やがて健康もむしばまれます。
ストックの欠如は、選択肢の消失を意味し、貧困の連鎖を生みます。これは行動経済学では、「貧困の罠」とよばれます。生活保護は、ストックをもてない制度です。
日本は、世界と比較しても貧困が身近にあり、対応が遅れている現状を知る必要があります。
絶対的貧困に落ち入るまえに、救済する制度が必要です。
由布木秀
