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貯蓄大国

 日本の資産分布状況を検討して、ひとりあたりの資産が具体的にどのくらいなのか検討してみます。以下の資産額は、総務省、日銀の「資産シェア」をモデルにした計算値です。

階層人口比資産シェア1人あたり
金融資産
最上層1%15%28,450万
上位層9%40% 8,420万
中間層30%30% 1,896万
下位層40%15%   711万
最下層20%0%   0万

 日本の総人口の10%が、総金融資産の55%をもっているのが現実だとすれば、平均金融資産1900万円は、いかに資産構成が2極化しているのかをしめすにすぎません。最上層の平均金融資産は、中間層の15倍、下位層の40倍にもなっていることが分かります。人口としては、中間層以下が90%を占めています。

 この表から、中間層は、中流階級とみなすことができます。

 この層は、正社員、公務員、専門職から構成されています。収入は安定していますが、可処分所得はすくなく、税や社会保険料の負担は相対的に重いのが特徴です。余裕は、ボーナスに依存しています。持ち家比率は高いですが、住宅ローン残高も大きく、教育費や車の維持費が家計を圧迫しています。さらに、子どもの進学や親の介護などが重なってくると、大きな圧迫要因になります。老後資金には、不安がともなっていると思われます。

 人口の40%をしめる下位層をスケッチしてみます。

 この層は、非正規、派遣、契約社員によって大部分が構成されています。シフト制で収入が月ごとに変動し、ボーナスはなく、不足分を副業や単発労働で補っていると思われます。持ち家よりも賃貸し住宅で暮らしています。家賃が収入の30~40%を占め、通信費や光熱費が重く、税金の後払いや滞納が起きやすい構造になっています。その結果、固定費に押しつぶされる生活だと考えられます。病気、事故、家電の故障などのトラブルで生活が崩れる危機をはらんでいます。クレジット、分割払い、カードローンに依存し、負債が生活の一部になっています。服はファストファッション、家電は中古、交際費がほぼゼロで、生活の選択肢がすくなくなっているのが特徴です。

 人口の20%を占める最下層に属する人たちの生活をスケッチしてみます。

 この層は、非正規、シフト制、単発労働などで構成され、収入基盤が不安定です。家賃や通信費、税金などの固定費が高く、病気や事故などの突発的な支出に非常に脆弱です。クレジット、分割払い、カードローンに依存しやすい構造です。「貯金ができない」というより、「貯金より負債が多い」と考えられます。

 まとめると、日本の1000~1100万世帯、2000~2500万人の方たちが、金融資産がゼロ、あるいは、マイナスの状況におかれているのが現実です。

 

年齢人口比金融資産比平均資産
30未満12%1% 150万円
〜49歳28%17%700万円
〜59歳14%22%1,500万円
〜69歳17%28%2,300万円
70歳以上16%32%2,000万円

 ※平均金融資産は、総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」より。

金融資産は、60歳以上が、60%を保有しています。いっぽう、30歳未満は、ほとんど貯蓄をもっていないことが分かります。

 政策当局は、「貯蓄率が高い」というナラティブをかたりたがります。

 なぜなら、 社会の豊かさを演出できるからです。貯蓄率が高いという神話は、まだまだ国民が余裕をもっているという幻想をつくりだします。年金を削減し、医療費負担を増し、生活保護の抑制など、 社会保障の削減が正当化できるからです。さらに、貯蓄率が高いのは長年の努力の証とみなされ、貧困を自己責任に貶められるからです。

 日本は貯蓄率が高いといわれますが、あきらかに富は偏在しています。高齢者のストックが、平均値を押しあげているだけです。若年層は、貯蓄率が低下し、困窮している現実が分かります。

「貯蓄大国」は、政策当局のナラティブとしてつかわれ、社会保障の削減や、貧困の不可視化を正当化する役割を果たしています。

                         由布木秀

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