作品番号11「ソフィアに会った日」では、主人公が瞑想のため洞窟にこもると、世界の美女たちが誘惑にでてきます。そのなかには、クレオパトラや楊貴妃がいます。ミケランジェロの「聖アントニウスの誘惑」は、イメージの源泉になっています。
ギュスターヴ・フロベールの同名作品も、取りいれられています。フロベールは、さまざまな作品をのこしたフランスの人気作家でした。しかし、どの小説も時代感覚が違っていて、いま読み直しても面白いとはいえません。この作品は、いちばん評判が悪く、不出来だから焼いてしまえとまでいわれました。しかし、時代を超えて残っています。
作品番号10「螺旋のはざま」でも、西施など美女の話が登場します。
日本では、世界三大美女は、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町になっています。おそらく世界中に、地元の美人を組みこんだ「三大」があるのだろうと思います。
いちおう標準型の世界三大美女として挙げられるのは、ヘレナ、クレオパトラ、楊貴妃です。
ヘレナは、ホメロスのイリアスで謳われた世界最高の美女です。トロイの王子、パリスは、最も美しい女神としてアフロディティを選びます。その褒美として、人間界最高の美女をもらいます。もともとヘレナは、スパルタの樹木神です。作品番号43「美神 ヘレナ」は、クレアツーラという惑星で唯一みつけられた、地下に樹木状に根をはる生物の名称です。
とはいっても、ヘレナが例外なのではなく、クレオパトラも楊貴妃も、ほとんど神話的な存在です。このコラムでは、こうした美女が似た構造をもつことを話題にしたいと思います。
神話的な美女は、世界を滅ぼすためにうまれます。ですから、文明が爛熟しないと出てきません。歴史の転換点に位置するので、悪女と評されるばあいもたくさんあります。
この美女たちは、いずれも最高神と関係をもっています。
ヘレナは、ゼウスの子供で、卵としてうまれました。
クレオパトラは、エジプト神話の豊穣の女神、イシスのうまれかわりともいわれます。 エジプト神話の「オシリスとイシス」は歴史的には非常にふるく、ギリシア神話では、イシスをゼウスによって牛にかえられた女性「イオ」として取り込もうとします。
アレクサンドロス大王によってエジプトのファラオは、ギリシア系にかわります。クレオパトラは、その末裔です。フラウィウス・ヨセフスの「ユダヤ古代誌」では、彼女は、ただただ権力欲にまみれた残酷な悪女とされ、美人だったという記述は、ほとんどみつけられません。
楊貴妃は、宇宙自然の普遍的法則や根元的実在、道徳的な規範、美や真実の根元などを広く意味する道教の「タオ」と関係づけられます。
さらに美女は、光り輝いています。傾国の美女とは、光を内部に取りこむ装置です。コラム「ゴールド」でも話題にしますが、太陽はあらゆる力の源泉で象徴です。ですから、美女は、太陽の一部をひきつぐ必要がうまれます。それは、月光の影にもなります。夜空に太陽の光をうけて輝く月は、神秘的で、みる者に狂気をあたえるとされています。
こうしたなかでも、クレオパトラが真珠を酢にとかして飲用するエピソードは圧巻です。真珠は、現在は人工的につくられますが、当時はダイヤモンドにも勝る貴重品でした。聖書外典の「トマスの福音書」には、有名な「真珠の歌」が出てきます。神が暮らす天上から雨に交じって降ってくる「魂」が大海にとけて沈みこみ、それを長い年月をかけて目にみえる形にしたのが、真珠だと考えられていました。この福音書のなかで、トマスはインドに布教にいきます。聖トマス教会は、いまでもインドで布教活動をしています。
真珠の歌を内包した作品が、「ソフィアに会った日」です。その気になって読んでいただかないと、分からないと思います。
| 女性 | 光の象徴 | 物質化した形(象徴物) | 文明圏 |
|---|---|---|---|
| ヘレナ | ゼウスの光 白鳥、卵 | 卵(光の球体)から誕生 | ギリシア |
| クレオパトラ | イシスの光 月光 | 真珠(光の結晶)を溶かして飲む | エジプト |
| 楊貴妃 | 道号、太真 真光、虹光 | 香(光の気)、玉環(光輪)、虹霓の屏風 | 中国(道教) |
