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月山

 作品番号63「こぶをすべる」の最終舞台は、月山スキー場です。

 こぶを語るのに、月山をぬきにはできません。スキー場は、冬期に降雪があった場所で、どんなに標高が高くとも4月には営業を終えます。月山は、4月になってようやくオープンし、6~7月でも充分に滑れます。自然雪で、氷河でも人工雪でもありません。標高3000メートル級の山なら可能かもしれませんが、月山スキー場の標高は、1300~1600メートルにすぎません。この条件で夏スキーができるのは、世界でも月山くらいだといえます。

 気象庁の積雪ランキングは、常設観測点があるところを対象にしています。月山山頂には観測点が設けられないためランキングから外されますが、事実上、日本一の降雪量があります。さらに積雪量としては、世界的な規模をほこっています。なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか?
 日本列島が冬型、西高東低の気圧配置になると、シベリア高気圧から日本海にむけ、北西風がふきます。冷たく乾燥したシベリア寒気団は、暖かい海を通過すると海面から大量の水蒸気を吸い上げ、雪雲をつぎつぎと発生させます。これが、典型的な冬型の降雪メカニズムをつくっていると考えられます。
 日本海で発生した雪雲は東へながされ、出羽山脈を構成する鳥海山、月山、朝日連峰に衝突します。この降雪をもたらす原液と、最初に正面衝突するのが、海から一番ちかい月山になります。日本海からの雪雲が劣化するまえに、もっとも濃い状態でぶつかる最前線に位置しているのです。そのために、年間30メートルという積雪が起こります。しかし、この地理的条件だけで、7月まで自然雪が残る説明にはなりません。

 月山山頂は、日本の高山では珍しい平坦な台地型をしています。風が弱まり、雪が逃げ場をうしなって堆積しやすい地形になっています。山頂が受け皿となるため、風下側に巨大な吹きだまりが形成されるのです。姥ヶ岳、牛首、大雪城などの越年雪渓は、日本の山岳でもっとも広範囲に残る雪の倉庫です。
 富山県の立山、室堂は積雪深では有名です。月山は、積雪水量に換算すると1300mm級、山体の積雪賦存量としては5億トンを凌駕するともいわれます。これは、立山をこえ、世界でも例がないほどの雪の厚みが毎年形成されるのです。月山の越年雪渓は、この山が一年でどれほどの雪を飲みこんできたのかを示す、白い記録簿ともいえます。

 月山をみて誰もが感動するのは、雪山の白色と澄みわたった空によってうみだされる月山ブルーです。

 雪や氷は、太陽光のうち、赤、黄、緑の波長を強く吸収し、青い成分をもっとも通しやすい 性質をもっています。そのために雪面の内部で光が何度も散乱すると、 最終的に青だけが残るという現象が生まれます。

 これが、月山ブルーの正体です。

 蔵王山頂、熊野岳は1841メートルです。月山山頂は、標高1984メートルです。標高差からみるなら、140メートルほど月山が高いにすぎません。蔵王山頂は、稜線地形のために強風で雪が飛んでしまいます。樹木は、雪に埋まりますが、幹の上部は必ず露出し、枝に着氷し、樹氷(アイスモンスター)を形成します。ですから、蔵王ブルーは出現しません。

 月山は、圧倒的な積雪量のため樹木はすべて埋もれ、生き残れません。山全体が白色に埋めつくされるので、鮮烈な月山ブルーがうまれるのです。

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