カテゴリー: 時事

  • エプスタイン・ファイル、04

      

     このコラムでは、アラン・グリーンベルグを取りあげたいと思います。 

     グリーンベルグ(1927~2014)は、大手投資銀行、アメリカ5大証券の一角だった、ベア・スターンズの会長でした。ニューヨーク金融界の頂点に君臨し、「エース」とよばれていました。彼こそ、くすぶっていたエプスタインを引きあげ、役職でも優遇し、上流階級にみちびいた張本人といっても差しつかえありません。とうぜん、ウィキペディアでも紹介されています。

     グリーンベルグは、2010年、「ベア・スターンズの興隆と崩壊」(The Rise and Fall of Bear Stearns)という回想録を出版します。そのなかでは、エプスタインについて一言も語られていません。まるで、彼の人生とはまったく関係がなかったかのように扱ったのです。回想録を出版すること自体が、真実とは違うナラティブを世間に承認してもらいたいという欲求に勝てなかった表現です。作品番号46.「自分史講座」では、こうした心理を分析しています。

     グリーンベルグは、社員の雑談を禁止し、会議をみじかくし、成果主義を徹底させた規律の鬼といわれます。倹約家で、幹部の給与を抑え、寄付を義務化したなど、過剰な演出が目立つ人物です。トランプの結婚式にも出席し、親密度もアッピールしています。「エース」という異名は、 実務、勝負勘、演出力のすべてを兼ね備えていたからだと説明されます。

     グリーンベルグの物語は、自力で底辺からウォール街の頂点まで這い上がってきた人物像です。ベア・スターンズに週給32.5ドルの事務員として入社したと特記されています。これは、1日1000円にも満たない額ですから生活できるはずもなく、なにを伝えたいのかも不明な記述です。いずれにせよ、学歴も家柄もない「たたき上げ」、というナラティブがつくられています。しかしながら、ウィキペディアをよむと、オクラホマの上中流階級の地区で育っています。学歴としては、オクラホマ大学に入学し、その後、ミズーリ大学に編入し、1949年に経営学の学士号を取っています。事実は、物語とは違ってみえます。

     グリーンベルグは、魔術が趣味で「社会人マジシャン協会」の会員で、トランプの達人だったとも評されています。1949年、ベア・スターンズに入社し、1978年にはCEOに昇格していますので、世渡りが下手だったとは考えられません。1985~2001年のあいだ、会長職を務めています。2001年以降は、エグゼクティブ委員会議長という肩書きを持っています。2008年のサブプライム危機で、ベア・スターンズは破綻しますが、JPMorganに救済買収されます。この事件で多くの社員が財産をうしないますが、驚くべきことに、彼は、ほぼ無傷だったといわれます。その後、JPMorganの名誉副会長として在任しています。2010年に回想録を発表し、2014年、86歳で死去しています。この経歴から判断すれば、「いわゆる善人」でないことだけは明らかです。いかにも、胡散臭い人物です。

     エプスタインは、1971年9月、ニューヨーク大学、クーラント数理科学研究所に入学します。1974年6月、中退しています。そのころ、グリーンベルグの子供の家庭教師になっています。この時期に、彼は、富裕層の子弟を集めたニューヨークの名門校「ダルトン・スクール」に採用されます。教師資格も、学歴も、手蔓もなかったエプスタインがつとめるためには、グリーンベルグの強力な後押しがあったと考えるのが自然です。ダルトン離職後の1976年、一流企業のベア・スターンズに採用されます。物語としては、採用時の面接でグリーンベルグを感心させたといわれています。しかし、金融の教育も受けていない男に、多忙なグリーンベルグが面接したという話には、やや無理があります。こうしたエピソードは、不明朗な事実を正当化する典型的なエピソードです。事実は、グリーンベルグとの個人的なつながりがあったと考えられます。やがて、特別プロダクト部門で富裕層を扱う立場に昇格します。わずか4年後の1980年、「リミテッド・パートナー」に昇格します。

     ニューヨークタイムズは、「エプスタインが、グリーンベルグの寵愛を受けていた」という、ある幹部の証言をつたえています。

     1981年、エプスタインは、ベア・スターンズをとつぜん退社します。しかし、その理由は伏せられています。 

     1980年にエプスタインが関与した金融商品(Liquid Funding)は、きわめて透明性が低く、問題をかかえていたといわれます。この時期に彼の資産は、爆発的に増加しています。1980年後半には、富裕層の資産家としてみとめられています。2000年頃、エプスタインは、ベア・スターンズと共同で設立した企業で、コンサルタントとして関与します。ベア・スターンズの豊富な資金を使って、レバレッジ商品を運用しています。サブプライム危機で破綻しましたが、彼は個人的な損失を負わなかったとされます。

     金融のプロとしての教育がなかったエプスタインが、これほどの地位につき、多額の資金を運用するには、会長職をつとめたグリーンベルグの後押しなしに可能だったとは思われません。二人は、かなり親密だったと考えるのが普通でしょう。

     2003年、エプスタインの友人や関係者たちが、50歳の誕生日を祝うパーソナライズされたグリーティングが入った3巻のアルバム「The First Fifty Years」を贈ったとされます。2025年7月のウォール・ストリート・ジャーナルの記事で初めて報じられました。そこには、ドナルド・トランプが署名したとされる手紙も詳述されていました。裸の女性の手描きの輪郭が描かれ、最後に「毎日が、また素晴らしい秘密になりますように」という言葉で締めくくられていると説明されました。

     エプスタインは、2008年、未成年者に対する性的犯罪で有罪判決を受けています。

     グリーンベルグは、2003年「ジェフリー・エプスタインの誕生日記念本」に、寄稿しています。彼がエプスタインの輪に入っていたのは、事実でしょう。回顧録で一切の弁明をしなかったことは、関係の深さを想像させます。

  • エプスタイン・ファイル、03

     この事件で特徴的なのは、考えられないほど広い領域の人びとがエプスタインに群がった事実です。元大統領、現大統領トランプ、ファーストレディー、メラニアをふくむ政治家、司法長官、金融エリートはもとより、サウジアラビアの王家、イギリス王室まで関与しています。さらに、天才数学者ホーキング博士までが登場してくる異様な構図です。それぞれが立派な地位と財産をもち、英知にも富んだ人びとです。なぜ、こんな下品な詐欺師の仲間になったのでしょうか?

     エプスタインの物語の起点は、天才数学者です。彼は、大学も卒業できませんでした。肩書きも財産もない一人の男が、必死でエリート層に食い込もうとした涙ぐましいエピソードがあったはずです。

     近年、元伊東市長の学歴詐称事件がずいぶん話題になりました。彼女は、卒業証書を本物らしくするために印鑑まで偽造したようです。手に入らないものを欲しがったときの人間心理は、計り知れない部分があります。そうしたものは、小説のテーマになります。小池東京都知事も、カイロ大学を首席で卒業したとかいう噂を耳にしました。そんなに優秀な者なら、わざわざエジプトまで行く必要もないだろうと思います。ハンガリーで息子を医者にした方を知っていますが、日本の大学に入れなかったからそうなっただけです。ずいぶん騒がれた医学部の裏口入学も、学力があって正規に合格できるなら、やる人はいません。

     私が医療していた過疎では、ときに偽医者が入りこんできました。ですから委託開業であっても、卒業証書は必須でした。それでも、ときに紛れ込んできます。そうした者は、目的もなく漫然と医療をしている医者よりも有能だったりすることもあります。こういうしだいで、どちらにしても医師免許はとても重要な証書になります。

     エプスタインの道が開けたのは、ニューヨークのダルトン高等学校の教師になったからです。

     ウイリアム・バーは(1950~)、ジョージ・H・W・ブッシュ政権で第77代司法長官(1991~1993)になっています。第1次ドナルド・トランプ政権時にも、第85代司法長官(2019~2020)をつとめました。彼のほかに2度も長官になったのは、ジョン・J・カミングス(1850、1850~1853)しかいません。

     父親、ドナルド・バー(1921~2004)は、ニューヨークのエリート校、ダルトン高等学校の校長1974年6月までつとめていました。一般的には、バーは、型破りな人間が好みで、退屈で大学を中退した数学の天才を信じたというナラティブがつくられています。番号56.「レール」には、天才数学者が出てきます。

     エプスタインは、1974年9月から教師資格もなくダルトンで教鞭をとりました。バーが退職して3月後になるので、彼の採用にどの程度関わったのかは不詳とされています。この辺の事情は、錯綜し、誰も触れたがらない領域になっています。

     ドナルド・バーは、CIAの前身、OSSにもかかわった硬派の実務家で、長年校長を務め、多くの教師をみてきたはずです。エプスタインのような世渡りが上手な者は嫌いだろうと思います。そんな疑わしい天才話に騙されるはずがありません。もし証言通りなら、校長という資質が問われます。バーは、ニューヨークの上流社会と深いつながりをもっていました。ウォール街の保護者とも、密接な関係を持っていました。そのなかには、大富豪、ベア・スターンズ会長のアラン・グリーンベルグがいたことが確認されています。彼は、ニューヨーク金融界の頂点にいて「エース」とよばれていました。

     エプスタインは、グリーンベルグの子供の家庭教師になりました。その後、ダルトン高校の数学教師の地位を得ました。経緯を追っていくと、グリーンベルグの強力な後押しがあったと考えるのが自然です。教職資格もない彼の学歴からは、採用されることは不可能です。この経緯は闇の部分ですが、もし推薦したのなら理由は金銭的な問題では説明できません。

     エプスタインは、2年間、ダルトン高校で数学を教えたとされていますが、実際には1年に満たなかった可能性が高いです。新校長は、グリーンベルグの顔を立てて庇いつづけたのでしょうが、とてもできなかったと考えられます。有名高校ですので、PTAなどから苦情があったことは想像に難くありません。彼は、その後、ウォール街の巨大投資銀行(Investment Bank)ベア・スターンズに入社しています。「エース」アラン・グリーンベルグとは、とくべつな関係をもっていたと考えるのが自然です。

     エプスタインは、ダルトンで教えたという経歴によって社交界に進出していきます。息子ウイリアム・バーは、共和党政権下で2度司法長官を務めました。エプスタインによって、司法は著しく信頼を損ねました。その問題児、エプスタインを父親のドナルド・バーが世に送り出すのに一役買ったとされています。なんとも、皮肉な巡りあわせといえるでしょう。

     ホーキング博士は、2006年、アメリカ領ヴァージン諸島で開催された科学学会に参加しています。エプスタインが資金提供をし、物理学者、約20名が招待されました。ホーキング博士は、エプスタインの私有地、リトル・セント・ジェームス島を訪問し、改造された潜水艦に乗って海中ツアーを楽しんだといわれています。

     ナラティブでは、エプスタインの天才数学者という物語を補強したとされています。しかしながら、同席しただけというのは政治家の答弁とそっくりです。統一教会の問題でも、知らなかったではすまない倫理上の責任がついて回ります。さらに、ALSだから性的接待が無意味という論理は、まったく説得力に欠けています。げんに20名のスタッフがいたのですから、グレーな部分は歴然とのこっています。問われていのは人間の本能にかかわる部分で、否定することはとても難しい問題です。この事件の根の深さを象徴するエピソードで、利用されたと釈明するだけでは免罪符にはなりません。知性が保たれているかぎり、欲望はついて回ります。ホーキング博士だけがとくべつとは、誰にもいえないのです。

     エプスタインがつくったのは、とても特殊な空間でした。どんなに名誉や地位のある方でも、「なにをしても大丈夫だろう」という印象を強くあたえる場所だったのです。だから、秘め事の舞台になったのです。登場した役者たちが、なにも知らないと言い張れば通ってしまう場所でした。ですからエプスタインにとっては、膨大な映像記録をのこす必要があったとも考えられます。

  • エプスタイン・ファイル、02

     エプスタイン( Jeffrey Edward Epstein)は、1953年1月20日、ニューヨークで生まれました。ユダヤ人の両親をもつ資産家とされています。彼の業務内容や資産規模については、多くの不透明な部分が存在します。ニューヨークの豪華な邸宅をはじめ、総額600億円をこえる不動産やプライベート・ジェット機、広大な牧場、さらに事件の舞台になったカリブ海の無人島を保有していたとされます。とはいえ、生涯が虚飾に満ち、過剰な演出があったのは間違いないでしょう。2000年代の初頭から、メディア関係に触手を伸ばしていたことが判明しています。2015年、イスラエルの新聞「ハアレツ」は、「スタートアップ」という企業を通じてイスラエルの防衛産業と関連していることを報じています。元イスラエル首相や防衛大臣、イスラエル国防軍の特殊部隊などと関係を持っていたと考えられています。じっさい2008年4月には、イスラエルの軍事基地を訪問しています。

     エプスタインは、2006年、リゾート地として名高いフロリダ州パームビーチで児童買春をした罪で起訴されました。2008年、禁固3年の判決が言い渡されますが、司法取引が行われ、収監から13ヵ月で出所しています。服役期間中も便宜が図られたことが知られています。

     この事件では、彼の恋人とされるギスレーヌ・マクスウェルが仲介役を担っていたといわれています。 

     2016年、カリフォルニア州の女性が、民事訴訟を起こしました。当時13歳だった彼女は、1994年にマンハッタンのエプスタイン邸で行われたパーティーでエプスタインから性的暴行を受けたというものでした。訴訟は、ドナルド・トランプとの関連も示唆されて耳目をあつめましたが、却下されています。

     2019年7月、2002年から2005年までの期間、マンハッタン、パームビーチの自宅で、14歳をふくむ少女数十名に対する性的虐待の疑いで逮捕されました。家宅捜索により、性的売買の証拠と多量の全裸写真が発見されました。一部は、未成年女性だったことが確認されました。そのほか、被害者にかんする大量の情報や多額の現金、宝石などのほかに、エプスタインの偽造パスポートもみつかりました。

     エプスタインは、2019年8月10日、勾留されていたニューヨーク州の矯正施設内で死亡しました。独居房内で自殺したと発表されましたが、遺族や弁護団は異をとなえました。鑑定を依頼された法医学マイケル・バーデンは、他殺を示す証拠があると発表しています。いっぽう2023年6月、司法省は刑務所職員たちが「過失、不正⾏為、職務遂⾏上の失敗」を繰り返したことによって「⾃殺する機会」を与えたと結論し、他殺説を否定しています。

     2019年8月23日、フランス・パリの検察は、エプスタインが関与する国際的な児童ポルノネットワークの存在を調査しています。

     エプスタインと同居していた恋人のギスレーヌ・マクスウェルは、児童の性的暴行などに加担した疑いで逮捕状が出されました。2020年7月に逮捕され、2022年6月、ニューヨーク連邦地裁で禁固20年の刑が言い渡されています。

     2025年7月、米FBI連邦捜査局は「エプスタイン・ファイル」を発表しました。そこでは、1)違法行為を裏付ける「顧客リスト」は確認されなかった。2)著名人を恐喝していたとする証拠は確認されなかった。3)そのほかの捜査の根拠となり得る証拠も認められなかった。と発表しました。

     2025年7月、「ニューヨーク・タイムズ」、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、トランプの名前がエプスタインの関連資料にふくまれているという情報をつたえました。フロリダ州連邦判事は、エプスタインに対する連邦捜査に関する大陪審の証言記録の公開をもとめる要請を却下しました。

     同年7月24日、米下院監視委員会はエプスタインに関連する資料の開示を司法省に召喚状をもとめると発表しました。さらに共犯者のギスレーヌ・マクスウェルに関する調査として、ビル・クリントン元大統領、ヒラリー・クリントン元国務長官、元FBI長官だったジェームズ・コミー、ロバート・モラー、さらに、元司法長官らにも召喚状が発行されました。

     イギリス王室のアンドルー王子は、エプスタイン邸で若い女性と撮影した写真がいくつも残されています。王子は、英王室の公務から退くことになりました。 

     エプスタインがどうやって資産をつくったのかは、判明していません。有罪が確定後、欧米の政財界有力者・王族らに広い人脈をもっていたため、売春斡旋が噂され、大きなスキャンダルに発展しました。また公的機関の要職者らも、彼との交友関係を問題視され、辞任するケースも相ついでいます。

    (参考文献:ウィキペディア「ジェフリー・エプスタイン」)

     司法省が公開した一部の資料が黒塗りでしめられ、多くは非公開のままで経過しています。また下部組織の連邦捜査局(FBI)が行った「顧客リストは存在しない」という報告は、過去の報道経緯と大きく乖離しています。さらに大陪審記録の公開を拒否したことなど、対応に透明性を欠いているため、議会は司法省に対して不信感を強めています。政治状況とからんで、事件は沈静化していません。

     

  • ゴールド、04

     このコラムでは、金価格がどのように決定されるかについて考えてみようと思います。金は世界商品なので、為替さえ勘案すればどこで買ってもおなじだろうと普通は思います。不動産については、場所によって値段が違います。いまは世界中でラーメンが食べられますが、値段は為替だけでは説明できません。

     金の代表的な価格は、NY金先物市場とロンドン金現物市場です。NY金は、1トロイオンス(約31.1g)の値段です。しかしながら、NY金価格÷31.1×USD/JPY(為替)で得られた数値が、日本の金価格になるのではありません。値段を決めているのは、田中貴金属、大阪取引所、堂島金相場などが代表的ですが、それぞれ独自の数字をだしています。こうした差異があるのが、世界商品という意味です。なぜなら各市場で、流動性、需給、信託構造、プレーヤー構成が違っているのです。金は、複数の市場が重なりあう世界商品です。

     個人が買えるのは、金ETFや投資信託がいちばん手軽です。しかし、購入した銘柄や投信が、金現物なのか、証書なのかは注意が必要です。現物でない派生商品(デリバティブ)を、ペーパーゴールドといいます。NY金やロンドン金に連動する証券と考えればいいでしょう。こうした信託証券が無効になる事態が起これば、現物金も無事ではいられません。しかし、あつかっているものが違うことだけは知っておくべきでしょう。ETF銘柄としては、現実的には金を引きだせないが、現物金の裏付けをもつ、1326.SPDRゴールド。派生商品、デリバティブ、ペーパーゴールドに分類される、1328.NF金価格、1372.金ETF、314A. ISゴールドなどがあります。現物金を実際に引きだせるETFとしては、1540.純金信託が有名です。

     金融派生商品に該当するペーパーゴールドは、運営する信託会社の信用で成立しています。ですから金に投資しているつもりでも、構造的には信託企業に資金を振り分けていることになります。金現物を裏付けにした証券に再投資するので、レバリッジの有無にかかわらず、担保価値は希薄化しています。これらは、担保明確化資産ではなく、担保希薄化資産に該当します。

     金の現物を購入した場合、売買手数料がかかるだけでなく、自宅まで運送し、保管しなければなりません。金庫に入れて置いても、かなり心配です。それなら、1540を購入する方がずっと理にかなっています。市場が開いているかぎり、取引も自由です。信託報酬として、年に0.539%を支払わねばなりませんが、自宅で管理するよりずっと増しです。

     1540.純金信託の値段の決め方について、このコラムで話題にようと思います。この銘柄は、ときに乖離を起こし、15%ちかく大阪取引所よりも高値をつけたことがあります。この理由について、多くの人には誤解があります。1)マーケットメーカーが貧弱で、乖離しだすと役割を放棄する。2)急激に上昇する場面では、現物金を調達する速度が間にあわない、などです。なぜ乖離するのかたずねると、おおむねこうした答えがかえってきます。

     この銘柄の性格を、もう一度考え直す必要があります。

     1540信託の株数は、7000万株です。ほんらい1株が、現物金1gに設定されましたが、信託料金が差し引かれた結果、現在は金、0.936gに相当するといわれています。大雑把にいって、7000万g、つまり70トンの金を運営会社の三菱UFJ信託がまず用意したのです。この固定ストックを、市場参加者がNY金先物と為替を参考にして勝手に値段を付けるのが、この銘柄における価格の意味です。ですから、2)の答えはあきらかに違っています。金現物は、総量がすでに決められており、値段が上がったからどこからか運んでくるという性格の信託ではありません。

     さらに、おなじ三菱UFJが運営する純金ファンド「ファインゴールド」という巨大な投資信託があります。こちらも、現物金を裏付けにしています。この価格は、1540に連動します。新たな購入があれば、この信託では口数の増加にみあう金現物を積みますことになります。このときの購入先は、大阪取引所など乖離していない市場からになります。そのため、運営会社の三菱UFJには、不当な利益が積み上がります。この矛盾を説明したいと思います。

     1540には、マーケットメーカーが存在します。しかし、プラス乖離になるにつれ、役割を放棄すると考えられます。その後、プラス乖離が継続する場合、1540の特殊事情によって乖離が増幅されます。ショート(売り)の買い戻しが原因です。金はストック商品ですので、需給が偏ると価格がゆがむのです。こうして、1540には、独自の金価格が決定されます。

     私は、この銘柄と大阪取引所の金標準先物との差を毎日確認しています。現在は、かなり割安に放置され、96.5%くらいで取引されています。2月5日には、101%でした。通常は、おおむね97%くらいの価格で推移しています。この差は、マケーットメーカーが、乖離によって得た利益を修復していることによるのだろうと考えられます。1540単体のゆがみは局地的に終演します。しかし、その価格に連動する巨大ファンドが存在することで、 市場全体の構造的ゆがみに変質するのです。

     金が世界商品といえる意味は、こうした二重価格が許容されるという事実です。

  • エプスタイン・ファイル、01

     メラニア・トランプ米大統領夫人は9日、ホワイトハウスで異例の声明を発表し、少女買春などの罪で起訴され自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン氏との関係を否定した。一部の報道や噂を厳しく非難した。メラニア夫人は「私と恥ずべきジェフリー・エプスタインを関連付ける噓は今日、終わる必要がある」と強調。エプスタイン氏とはトランプ大統領とともに同じパーティーに招待されたことがあるだけで、交友関係はなかったと説明した。「私はエプスタインの犠牲者ではない」とも語り、エプスタイン氏がメラニア夫人をトランプ氏に紹介したとの一部の噂も否定した。エプスタイン氏による少女への性的虐待は知らなかったと述べた。司法省が公開した資料に含まれていたエプスタイン氏の共犯者、ギスレーヌ・マクスウェル受刑者とメラニア夫人のものとみられる電子メールのやり取りについても、一般的な意味のないものだと指摘した。自身とエプスタイン氏を結びつける報道について「卑劣で政治的な動機に基づく虚偽の中傷」と批判した。議会に対し、エプスタイン氏の犠牲者に証言の場を与える公開の公聴会を開くよう求めた。

     メラニア夫人が記者団の前で公式の声明を発表するのは珍しい。この時期に声明を出した理由は不明だ。            (日経新聞、4月10日)

     私は、このエプスタイン問題こそが、トランプのさまざまな説明不能な行動をつなぐ一筋の糸だと考えています。この事件についてコラムを書こうと以前から思っていましたが、ちょうどメラニアの記事が掲載されました。イスラエルに対する過剰な傾斜、ベネズエラへの奇矯な関与、イランへの突発的な攻撃などは、エプスタイン文書との関係をぬきに理解できそうもありません。アメリカでは、すでに多数の著作が出版され、さまざまな問題が提起されています。分かる範囲で整理したいと考えていました。

     私は、過疎地で医療活動をしてきました。その小さな町でも市長選があり、さまざまなデマが飛び交いました。不倫疑惑や、隠し子がいるなどの噂でした。新市長は、期間中、噂話をまったく相手にせずに当選しました。市長と話す機会がありましたが、「選挙とは、そういうものなのです」と淡々と語っていました。

     私の医院は繁盛したので、みょうな噂話を耳にしたことが幾度もありました。馬鹿ばかしいので相手にもできず、無視してきました。同じ土俵に乗ること自体が、あり得ないのです。否定することは、スキャンダルの存在を認めることにつながり、物語への参加を意味するからです。

     メラニアは、大統領夫人です。トランプにもっとも影響力をもつ人といっても、過言ではありません。彼女が一存で公的な声明を発表したとは、とうてい考えられません。夫と話しあい、充分に練られた文章を読みあげたはずです。この時期に、どうしても必要だったから、発表されたと考えられます。同じ土俵に乗ることは承知で、否定という政治的なリスクを取ったと考えられます。

     エプスタイン問題は、未成年の売買春疑惑という矮小化される事件ではないはずです。幾人かが関係を認めていますが、そういう方たちは周辺部に位置したと思われます。核心に近い人びとほど、明確に否定せざるを得ないという構図が生まれているのでしょう。闇は、ずっと深く、アメリカの権力構造と結びついているとしか考えられません。

     作品番号42.「擾乱」は、芸能界を舞台にした小説です。主人公の夫が、とつぜん「隠し子」がいると告白する場面があります。驚く彼女に「たった一度の誤りだった。妊娠したのを知って、堕ろすようにお金を渡した。納得して受け取ったので、信じていたのだ」と説明します。1週間たつと、夫の隠し子事件の全容が週刊誌に掲載され始めます。彼は、別の家庭をもっていました。週刊誌に暴かれることが確定したので告白したのだと、彼女はそのとき知ります。

     メラニアの緊急声明は、なにかが明るみにでる前触れかもしれません。この事件を考えるなら、ある意味、とても興味深いともいえます。なぜなら、彼女がつよく否定したことは、すべて事実かもしれないという印象を与えているからです。

     次回は、公開されている資料をもとに、エプスタイン事件の全体像を分かる範囲で整理したいと思います。

     

  • ゴールド、03

     金価格が、2026年3月に25%暴落した原因を、原油価格の上昇にもとめる記事を幾度も目にしました。このコラムでは、金と原油の市場がまったく違う構造から成立している事情を話題にしたいと思います。

     原油市場は、特化したプレーヤーで構成されています。ショート(売り)もロング(買い)も、専門家がおこなっています。具体的には、商社、石油メジャー、製油会社、航空会社、CTA(商品特化型ファンド)、マクロヘッジファンドなどです。市場は、未来の実需を予想する専門家によって構成されています。

     金も、おなじように専門分野です。金市場のプレーヤーは、中央銀行、宝飾需要、ETF、マクロファンド、金鉱山会社などです。実需にくわえ、国家が介在する市場です。とはいえ、金市場には近年、一般投資家が参入しています。原油市場は、素人が入りこめない危険地帯です。

     原油と金は、おなじ「コモディティ」という範疇では語れないほど、市場構造が違っています。原油のプレーヤーが金市場に一時的に参入したり、また反対に金の専門家が原油市場にとつぜん出現する事態は、ほぼ考えられません。今回は、原油価格の暴騰と金価格の暴落が同時に起こりましたが、つねにこうなる必然性は考えにくいのです。

     原油価格は、基本的には景気によって左右されます。好景気なら大量に消費され、不況期には価格が低迷する、景気敏感商品です。金は、宝飾需要よりも、基軸通貨の揺らぎを反映する中央銀行の買いなどによって価値が決定される、信用敏感資産といえます。

     原油は、世界で1日1億バレルつかわれ、年間500兆円ほど取引されますが、最終的には霧散していまう消費財です。価格は、その年の需要によって大きく変化します。したがって、埋蔵量を資産として換算しても無意味です。つまり、原油市場は、ストック資産という性格をもちません。毎年リセットされる、0からはじまる巨大なフロー市場です。

     国家による原油備蓄は、流動性市場のなかに一時的に停留する在庫と考えるべきです。岩手県久慈市にある、国家備蓄基地を見学したことがあります。そこでは、原油が水より比重が軽いという性質をつかって蓄えられています。具体的には、地下の岩盤に巨大な空洞をつくり、周囲を水でみたし、水圧で封じこめ、大量の原油を保管しています。しかし、こうした備蓄原油は、どれほど多量でも、価格決定に無関係で、管理コストが発生します。最終的に消費されるまでのあいだ、市場にとどまっている在庫にすぎません。永続的な価値を保持するストック資産とは、本質的に異なります。

     いっぽう、金は毎年30兆円ほどが、あらたに市場に出回ってきます。しかし消費財とは違い、年間供給量は追加分に相当します。価格が決定されると、総量の22万トン(5500兆円、2026年2月現在)に影響が及びます。つまり、金市場は,永続的に積み上がるストック市場といえます。

     ふたつの市場は性質が違いますから、単純に比較はできません。しかし、1年間に新たに市場にでてくる部分に対する資金需要は、金市場のばあい30兆円で、原油市場500兆円の15分1にすぎません。つまり、資金の流れが圧倒的に小さいといえます。金市場は、レバレッジ勢を中心とした1兆円程度の売りによって、25%も急落するという脆弱性をもっているのです。しかも不動産市場とは違い、充分な流動性があります。そのために換金売りの対象にされ、変動率が大きくなりやすいのです。金市場は、巨大で安定したストック市場でありながら、小さな資金の流れ(フロー)で価格が大きく揺れるという矛盾した構造をもっています。この場合、ストックとは、ある時点での保有量、残高を指します。いっぽうフローとは、単位時間あたりの増減量、流量をあらわします。

     燃料としてつかわれる原油は、文明のエネルギーを象徴しています。現代社会の消費構造、経済的繁栄を数値化しています。いうならば、文明の血液に相当します。たとえるなら、貧血になると、運動によって息切れが起こります。

     金は、文明の蓄積、ストックです。金が象徴するのは、この世の栄誉です。永遠に錆びることがなく輝くゴールドは、世界の秩序、権威、信頼、不変の価値を表現しています。つまり、文明の基盤、骨格ともいえます。

     原油は、未来の不確実性に支配されるフローです。現在の文明をうごかすダイナミックな力、そのものといえます。

     いっぽう金は、過去の蓄積によって決定されるストックです。文明を支える基盤です。人間が、希求してやまない価値ある資産です。人類の歴史そのものであり、人の脳にふかく刻みこまれている永遠の通貨なのです。

  • ゴールド、01

     2026年2月時点で、世界の代表的な金融資産として、米国債総額は6000兆円で、米国株式総額は8000兆円です。流動性にとぼしい不動産は、ここから省くことにします。金融資産には、上場株式、未上場株式などの株式現物。一般的な国債、社債、地方債、財投債、事業債などのストレート債券。預金。銀行貸し出し(ローン)。レバレッジはつかない、投資信託、ETF、MMF。売掛金、買掛金、手形などの商業信用。中央委銀行のマネタリーベース。などが考えられます。いま挙げた商品は、レバレッジをもたず、明確な担保によって裏づられているので、これらを「担保明確化資産」と定義します。最初に省かれた不動産の一部は、リートという形式を取って、ここに組みこまれています。 全世界の担保明確化資産は、2026年時点で20京円と推定されます。このうちアメリカのシェアは、35%程度と考えられます。

     金現物は、22万トンが世界に出回っています。10%は工業用、30%が宝飾用、残りの60%が、ゴールドという現物資産だと考えます。1g、25000円とすると、総額は5500兆円になります。単純化して、担保明確化資産、20京円と、金の総資産、5500兆円の比率が適切なのか、考えてみたいと思います。

     人類の歴史では、一定規模以上の国家は、金を通貨の裏付けにしてきました。ローマ帝国でも、中国の歴代王朝でも、一般通貨は銀でしたが、その価値は、金によって裏づけされました。日本も、おなじように小判、大判が信用を支えてきました。国々が財政基盤となる金をあつめるために莫大なコストをかけたことは、銘記するべきだと思われます。このように金が果たしてきた役割を考えると、1971年、ニクソンの金兌換性廃止以降の世界は、歴史上きわめて希な時代に突入したと考えられます。

     1944年のブレトン・ウッズ協定によって、アメリカは、基軸通貨をポンドからドルに変更することに成功しました。これによって、アメリカは紙を印刷し、国債と名づけて発行し、他国に購入させることで、労働力をふくむ消費財との交換が可能となったのです。まさに、無から有を生み出すことに成功しました。世界から富を簒奪してきたのは、基軸通貨をもつアメリカだったのは間違いない事実です。この状態をつづけてきて、いまさら、貿易赤字が不均衡といいだすのは、あまりに無見識な発言です。

     米国債10年ものの金利は4%程度です。金は利息をうまないから、投資対象としては補足的とよく言われます。識者もそう主張します。しかし、利息をうまないという真意、核心は何でしょうか?。もし米国債が4%の金利をつけないと、格付けは、CCC、デフォルトとなってしまいます。格付けの低いハイイールド債が高い利息をしはらわないと市場で買い手をみつけられないのとおなじ原理で、4%は信用コストと考えるべきです。金は、若干の管理コストが発生しますが、信用コストは0なので利息がつかないと考えるべきでしょう。仮に国債と金を比較するなら、金利ではなく、購買力でしか検討できないはずです。

     この話題は、かなり奥深いので、とても一度のコラムでは論じ切れません。とはいっても、数字を並べ立てるだけでは、読者にあまりに失礼です。ですから、結論の一部を話しておきます。アメリカの金保有量は、8133トン、総量の4%にすぎません。世界の中央銀行の保有量、35000トンに対しても、23%にすぎません。米国が、世界の35%の金融資産をもっているなら、金も総量22万トンの35%保有していれば、ドルの裏づけとして機能した可能性があったはずです。ここに、大きな難題がひそんでいます。1971年以降のドル体制は、米国債を中心とした信用構造によって成立しました。金価格の上昇は、ドルの信認不安を反映するひとつの尺度です。イランを軍事攻撃することによって、金はふたたび高値をめざしています。これは、アメリカにとってまったく望まない展開です。